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36. フラグ男

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「オイオイ。本当に、ここでいいのかよ?」

 塩太郎は、魔物を倒しながらシャンティーに質問する。

「ここで間違い無いわよ! ヤリヤルが誇るA級ダンジョン!」

「でも、出てくる魔物弱過ぎだろ?」

 まあ、本来なら、A級ダンジョンの魔物を木刀で倒すのも難しいのだが、そこは幕末最強の人斬りだった塩太郎。
 すぐに対応して、もう、殆どの攻撃が会心の一撃になっていたりする。

「もう、殆ど、攻撃が会心の一撃になってるわね!」

 シャンティーも、嬉しそうだ。

「殆どの攻撃が、会心の一撃って、こんな弱い奴ら相手なら、誰でも出来るってモンだろ!
 俺からしたら、止まってる相手に刀を振るってる感じだし。
 これが、戦った事ある、京都でも有名だった新撰組の沖田総司や近藤勇だったら、1度たりとも会心の一撃なんて、出せやしねーよ!」

「対比に使われてる、新撰組が何か知らないけど、ちゃんと考えてるから大丈夫よ!
 このヤリヤルが誇るA級ダンジョンは、20階層に行ってから、初めて本領発揮するんだから!」

 てな感じで、A級ダンジョンの、20階層階段フロアーに到着する。

「じゃあ、ここからが本番だから覚悟はいい?」

 シャンティーは、少しだけ真剣な顔をして、念押ししてくる。

「お前、今まで見てなかったのか?全然、余裕だっただろ?」

「まあ、いいから、いいから。黙って扉を開けなさいな!
 目標は、このA級ダンジョンの攻略。期限は1週間!
 出来るもんなら、やって頂戴!」

「お前、絶対、俺を舐めてるだろ! このダンジョンが何階層のダンジョンか知らんけど、今日中に攻略してやんよ!」

「このダンジョンは、因み30階層ね!」

 まさかの30階層。やはりシャンティーは、塩太郎を滅茶苦茶 舐めきっている。

「お前、やっぱり、俺を舐めてるだろ!
 今、20階層だから、後、たった10階層攻略すればいいだけじゃねーか!」

「ハイハイ。無駄口叩かないで、早く行きなさいな!
 死にそうになったら、ムネオに回収して貰うから!」

「塩太郎! イザとなったら、儂が助けてやるから、大船に乗った気でおれ!」

 何故か、ムネオも気合い十分だ。
 後、たった10階層攻略するだけなのに。

「お前と、エリスは着いて来ないのかよ!」

「誰が行くもんですか。行っても同じ状況が続くだけだからつまんないし。
 私とエリスは、ここでお茶して待ってるから、出来るだけ早く攻略してよね!」

 シャンティーは、そう言うと、ゴザをひいて、とっととお茶の準備を始める。

「嘘だろ?」

「何、やってるの?とっと行きなさいよ!」

「ああ。行ってやんよ! そのお茶が冷めやまぬ内に、攻略してやんからな!」

「プッ! 何、自分で何フラグ立てちゃってるのよ!
 それ、絶対に生きて帰れない奴だから!」

「フラグ? お前何言ってんだ? フグと間違えてんのか?
 俺は、フグが有名な長州出身だから、少しばかりフグには五月蝿いぞ!」

「フラグの事を、フグって……確かに、食べたら死ぬから、一応、会話は成り立ってるわね……」

「お前、本当に何言ってんだ?」

 幕末出身の塩太郎は知らなかった。
 フグとフラグが、違う言葉である事を。
 そして、戦いの前に、希望に満ちた約束をすると、必ず戦場から戻れないというお約束がある事を。
 第二次世界大戦後の戦争映画や、日本の異世界ラノベを読んだ事ない幕末出身の塩太郎は、勿論、知る由がなかったのである。

 まあ、フグを食べると死ぬ可能性があるので、意味的に、大体、フラグと合ってるのだけど。

「ハイハイ。分かったわ! 死なないように、行ってらっしゃいな!」

 シャンティーは、お茶会の準備が忙しいのか、塩太郎の方も見ずに、ヒラヒラと腕を振る。

「お前、またしても。俺を舐めてんな!
 絶対に、お茶が冷めやらぬ内に、攻略してやんからな!」

 てな感じで、塩太郎は、お共にムネオを連れて、勢い良く、20階層の階段フロアーの扉を開けて、出て行ったのだった。

 そして、お約束通り、5分後。

 塩太郎は死体になって、ムネオにおんぶされ、シャンティー達が居る階段フロアーに戻って来たのだった。

「やっぱり、フラグって、本当に起きるのね……」

 シャンティーは、感心しながら、塩太郎にエリスポーションを振り掛ける。

「てっ?! このダンジョン、一体、どうなってんだよ!」

 塩太郎は、蘇生と同時に飛び上がる。

「確かに、お茶が冷めやまぬ内に帰ってこれたわね。だけれども、死亡してだけど!」

 シャンティーは、開口一番、塩太郎に強烈な嫌味を言う。

「そんなの、知らなかったんだから仕方が無いだろ!」

「だから、私は言ったじゃない。1週間以内に攻略しなさいって!
 アンタが勝手に、お茶が冷めやらない内に攻略するって、嘯いてたんじゃない。プッ!」

 シャンティーは、わざとらしく、口を抑えて笑う。

「笑うな! まさか、あんなデッカイ蟻の大軍が、洪水のように押し寄せてくるとは思わねーだろ!
 それを、斬るって、時間が追い付かねーんだよ!」

「アンタ、弱い相手なら、会心の一撃を幾らでも出せると言ってたじゃないの?」

「そんなの限界があるんだよ! 刀を使ってたらなんとかなるけど、木刀で、会心の一撃を発動できなきゃ、あのアリンコ、メッチャ硬いんだぞ!
 いっぺんでも失敗したら、手が痺れて、その隙に、一気にアリンコに飲み込まれてしまうんだからな!」

 なんか、塩太郎は、アリンコに飲み込まれて死んだ事を思いだしたのか、ブルブル震えている。

「アンタね、この課題を乗り越えなければ、本物の『犬の肉球』のアタッカーになったとは、言えないわよ!
 初代『犬の肉球』の団長は、このダンジョンを、たった3時間で攻略したんだからね!」

「嘘だろ?」

「本当よ!」

 シャンティーの言葉だけじゃ、信用出来ないので、一応、ムネオの顔も見てみる。

「本当じゃな」

 塩太郎は、シャンティーとムネオの言葉に、滅茶苦茶 驚愕する。

 しかし、50年後の未来。
 エリスや塩太郎の8歳未満の子供や孫達3人だけで、この巨大アリンコダンジョンを余裕で攻略してしまう事となるのは、また、別のお話。

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