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20. プッツン女
しおりを挟む「アンタは、私達の過去の事情なんて、全く考えなくていいのよ!
アンタは、何で今、生きてるのかを、よ~く考えなさいな。
そう。アンタは、誰に助けて貰って、誰に生き返らせて貰ったのかを。よ~く思い出すのよ」
なんか、シャンティー、いやらし過ぎる。
これが、『腹黒』の二つ名を持つ女の本性か。
「塩太郎。私達がアマイモンを使って、貴方をこの世界に召喚させたんです。
貴方は、アマイモンと約束した筈です!
この世界に来て、悪魔ベルゼブブを倒す手伝いをしてくれると!」
ガブリエルは、涙ながらに、塩太郎に訴えてくる。
まあ、2人の話を聞いてると、圧倒的にシャンティー達が悪い気がする。
要約すると、ガブリエル達のマスターとかいうゴトウ・サイトが、悪魔ベルゼブブに殺されてしまった理由は、エリスとシャンティーに有るようだ。
そして、悪魔ベルゼブブを倒す為に、ガブリエル達は、俺をこの世界に召喚したと。
それなのに、たまたま俺をダンジョンで見つけたシャンティー達が、強奪したという話だ。
まあ、ガブリエル達が悪人だったら、シャンティーの方に付くが、ガブリエルはエリスを殺すと言ってるが、それほど悪人ではないように思える。
アンさんは、常識人?だし。一緒に居るハラダ・ハナとかいう日本人顔の奴も、中立ぽい。
俺でも、同じ志を持つ仲間が、誰かのせいで殺されてしまったら、その原因の奴を恨むだろうし……。
「決めた!」
塩太郎の心は決まった。
「塩太郎、分かってんでしょうね!」
「お願いします。私達を助けて下さい」
ガブリエルは、祈るように手を合わせ、頭を下げてくる。
やっぱり、俺は、シャンティーより、ガブリエルの方が好感持てる。
「で? アンタは、どっちに付くのよ!
勿論、アンタをダンジョンで助け、生き返らせてあげた、私達『犬の肉球』よね?」
シャンティーが、グイグイ自分が塩太郎を助けたアピールをしてくる。
「シャンティーとガブリエルの話を聞いて、俺なりに考えたんだが、圧倒的に、ガブリエルの方が正しい!」
塩太郎は、そのまま思った事を口にする。
「アンタ! 何、言ってんの!私に助けて貰った恩を忘れたっていうの!
アンタ、私に約束したわよね!
『犬の肉球』に加入するって!」
シャンティーは、怒髪天の勢いで怒り狂う。
「シャンティー、まあ、聞けって! まだ、話は終わってない」
「ハァ? アンタ、今、ガブリエルが正しいって言ったじゃない!」
「ああ。正しいのはガブリエルだ。お前が、圧倒的に悪いし、腹黒だ!」
「腹黒言うな!」
どうやら、シャンティーは、『腹黒』という二つ名が、お気に召さないようである。
「だから、話を聞けって!もう一度言うが、正しいのはガブリエル。
だけど俺は、シャンティー達にダンジョンで助けられた恩も有るし、『犬の肉球』に入るとも約束した!」
「じゃあ、やっぱり、『犬の肉球』に加入するんだね!」
「ああ! 長州男児は、薩摩っぽと違って風見鶏じゃねーんだよ!
一度かわした約束は、必ず護る!
これが、長州男児の生き様ってもんだ!」
塩太郎は、師匠の吉田松蔭が死に際に残した、『かくすれば かくなるものと 知りながら やむにやまれぬ 大和魂』という辞世の句に、恥じぬ生き方を目指しているのだ。
まあ、ガブリエルの方が正しいとは思うが、武士としては、一度交わした約束を破る不義理な事は、絶対に出来ない。
とか、大岡裁きが、綺麗に決まっと塩太郎が悦に入ってると、
「何故!何故!何故!何故!何故!何故!何故!何故!何故!いつも、皆エリスを選ぶ!マスターもエリス。塩太郎もエリス。いつもエリス、エリス、エリス、エリス、エリス!」
なんか、ガブリエルの周りに不穏な空気が渦巻き始めていた。
「ええと…… まだ、話には、続きがあるんだけど……」
「五月蝿い! お前も、私じゃなくてエリスを選んだんだ! 絶対に許さない!」
ガブリエルの体から、禍々しい赤黒い魔力が大量に溢れ出す!
「だから、聞けって! シャンティーと約束してたから『犬の肉球』に入るけど、悪魔ベルゼブブを倒すのは協力するって!
それが、アマイモンとした約束だし、俺は約束は絶対に護る男なんだよ!」
「五月蝿い! 私のものにならないと意味ないんだ!エリスにだけは……エリスにだけは、絶対に、私から何も奪わせない!」
ガブリエルは、感情が爆発して、最早、俺もアンでも止める事が出来ない状況に陥っている。
というか、何故にエリス? 俺、エリスの話なんて、これっぽっちもしてないんだけど。
どっちかというと、エリスより、シャンティーじゃね?
エリスなんて、ずっと我関せずで、ポーと聞いてただけだし……。
よっぽど、ガブリエルは、エリスの事が嫌いなのだろう。
全ての悪事は、全てエリスのせいだと変換されてしまう程に。
「塩太郎君!エリスさんとシャンティーさんを連れて、西の大陸に、早く逃げて!
ここは、何とか、僕が抑えるから!」
アンが、大盾で俺達を護りながら、叫んでいる。
「護るって、どう考えても、凄い勢いで押されてるんだけど……」
「兎に角、早く走りなさい!」
とか言ってる傍から、アンさん諸共、俺達はガブリエルの魔力パワーだけで100メートルぐらい吹っ飛ばされた。
「痛てぇーー! あんなの絶対に、逃げ切れる訳ねーーよ!なんなんだよ! あの拗らせ女!」
「生きたいなら、ブツブツ言わない。兎に角、逃げなさい!」
「絶対に、逃げ切れる訳ねーだろ!
エリスとシャンティーなんか、目を回して気絶してるんだぞ!」
とか、アンと言い合ってると、ガブリエルが鬼の形相をして、俺達の元にやって来た。
「何故、逃げるの? そんなに私の事が嫌いなの?」
「逃げるって、お前が吹っ飛ばしたんだろうが、このプッツン女!」
「プッツンって、その言葉って死語だよ……」
アンが冷静に指摘してくる。
「そんなの知るか! 俺の生きてた時代だと、ナウい最新の言葉だったんだよ!」
「ナウって、語尾に付ける言葉じゃないの? 『今、ガブリエルと交戦中、ナウ!』 とか?」
アンが、真顔で聞いてくる。
「余裕かよ!」
「余裕じゃないわよ! 僕も、こんなに怒ってる姫ちゃんと、戦った事ないんだから!」
塩太郎も、自分の事で精一杯だったので気付かなかったが、アンの体はガブリエルの魔力攻撃を一手に受け止めていたせいか、血だらけの傷だらけになっていた。
「兎に角、何度も言うけど、とっとと、西の大陸まで逃げなさい!
そこまで行けば、姫ちゃんも追って来ないから!」
「一応、確認の為に言っとくけど、俺、この世界に来て、まだ日が浅いから、西の大陸が何処に有るか知らないんだけど……」
「てっ! エッ? エリスさん達が居るじゃない?」
「あの……さっきも言いましたけど……エリスとシャンティー、目を回して気絶してますよ?」
「えぇぇぇぇーー!!」
塩太郎とアン、万事休す。
ーーー
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