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194 暗闇戦再び
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水竜を倒し終えた合同パーティーオリオンは、この巨大水竜の魔核がどこにあるのかと議論してから取り出し作業に移る。
水竜といえども蛇のような進化をしているとすれば魔核のある心臓も蛇と同じような位置にあるのではないかと考え、腹を切り開いて探し出す事になる。
蛇の心臓は生活する場所によって変わるとギルドでは習っているが、竜種もそれに当てはまるかはわからないものの腹を全て切り開くよりは当たりをつけて探した方がまだ効率的だ。
「水中の蛇って事なら結構後ろの方だよな。確か三等分して頭側から最初のとこらへんだったはず」
「そんなのよく覚えてるわね」
「いざとなったら食う事もあるだろうしな。覚えておいて損はねぇ」
「蛇なんて食べたくないけど」
「まあ水竜は食うわけじゃねーしまずは魔核を回収しようぜ」
水竜の頭側から三分の一の場所……
この巨大な体から探し出すのはなかなかに大変な作業となったが、一の時程の時間を掛けて何とか探し出す事ができた。
腹部の切開にはマリオも練習とばかりにこの日最後のスラッシュを反芻しながら五回の六連強撃を振るい、自身のスキルの成長が見えた事に嬉しそうに顔をニヤけさせていたが、攻撃力不足に悩んでいた事を知っているパーティーメンバーも素直にマリオの成長を喜んだ。
魔核はさすが色相竜という事もありジェラルドの頭程の大きさがあり、これを加工すれば属性武器が三十以上は作れるだけの量がある。
長い年月を掛けて成長したと思われる個体であるだけに黄竜に近い大きさだ。
また、水竜の体の大きさから保存冷却の魔道具が足りなさそうだが、全て埋め込んでおけばある程度の素材も回収してもらえるだろう。
水竜が集めた雨雲も魔法が解除された事で散り始め、縦穴に陽も差し込んできた。
あとは血で汚れた体を洗い流し、狼煙を焚いておけばシストが乗るエンペラーホークが迎えに来る手筈となっている。
水が濁っていて綺麗になるとは言えないが、血生臭いよりはいいだろうと全員水に浸かって血を洗い流してシストを待つ。
◇◆◇
狼煙が上がるとシストを乗せたエンペラーホークはすぐに縦穴まで辿り着き、水竜を見て驚きつつもこんな事を口にする。
「今日討伐を予定していた竜種って本当にこれですか?私もここに来る前大きな洞窟を見つけたんですけど」
「んー、うん。たぶんこれじゃねぇな。そもそも上位竜じゃねーし」
「ではこの後どうします?疲れてるでしょうから今日は帰って明日以降にまた来ますか?」
「それなら私がやるわ。今日あまり役に立てなかったし上位竜にソロでも挑んでみたいの」
水竜戦を思い返してもアリスが役に立たなかったなどという事はないのだが、マリオの成長を見て負けられないとでも思ったのだろう、ソロで挑みたいと言ってきた。
「でもサリュームはもうないぜ?」
「僕の矢はあと二本あるけど明るさは足りないかも」
「松明でいいわ。その辺の木を拾って燃やせばある程度は明るくなるでしょ」
ソロで挑むとすれば仲間の位置まで把握する必要がない為、光源が少なくとも戦えないという事もない。
「じゃあ無理はしねーようにな。でもフィオレはその二本で竜種に目印付けてやってくれ。インパクトもクリティカルもいらねーからよ」
「うん、左右の首筋でいいよね」
通常の矢として射るのであれば外殻に当てるより刺さりやすい首筋を狙った方がいいだろう。
暗い中で狙うとすればクリティカルポイントにヒットする確率も低く、竜種が弱る事もない為ソロで戦いたいというアリスの要望は満たせるはずだ。
「ごめんね、わがまま言って」
ターゲットを独り占めしてしまう事になる為、ソロで挑むのはやはりパーティーとしては好ましい行為ではない。
しかしこの日は水竜戦の後という事もあり、誰もが消耗している為アリスが戦いたいと言うのであれば譲ってもいい。
エンペラーホークに乗って巨大洞窟へと向けて飛び上がった。
◇◆◇
移動中になぜ発見できなかったのかと思う程にわかりやすい位置に洞窟が見え、縦穴のあった位置から一山跨いだ先ではあったが、山が削り取られたような岩肌に巨大な穴が掘られた跡があった。
木々の生い茂る緑の中にある岩肌と洞窟はよく目立つ為、縦穴にあった洞窟よりは簡単に発見できたはずなのだが。
洞窟前はエンペラーホークが降りられるだけの広さがあり、薙ぎ倒された木を適当にへし折って松明にする為持っていく。
この破壊跡から地属性、もしくは風属性の竜種とも思えなくもないが、討伐依頼される事を考えれば地属性という可能性は低そうだ。
風属性の竜種であれば炎槍も通じる為問題はないだろう。
洞窟へと足を踏み入れ、松明に火をつけて奥へと進む。
音の反響具合から考えても奥まではそこそこの距離がありそうだ。
暗闇の中を歩く事およそ六百歩程進んだところで岩を削ったと思われる広い空間となっており、まだ見えないが奥の方から生物の息づかいや物音が聞こえてくる。
音からしてこちらに気付いて頭を起こしたところではないだろうか。
暗闇の中で松明を光源にして戦う為、各々左右に一本ずつ持っていた計十二本を散らばせる必要があり、まずはマリオとジェラルドが一本ずつを前方へと放り投げる。
入り口側に集中していた明かりが空間内にわずかに広がった事でおおよその壁面の位置も把握できたところで、壁面伝いに左右へと進んで岩の窪みへと突き刺しに移動する。
しかしこの広場へと足を踏み入れた事で敵と認識されたのか、竜種は甲高い咆哮をあげて威嚇する。
この洞窟内での咆哮は反響し、声質や音圧の強さから風属性の竜種であると断定できる。
エンペラーホークの鳴き声をさらに凝縮したような快音波だ。
洞窟の構造が咆哮を増大させる事で強力な音圧となっている。
耳を塞いでも体の芯に響く快音波にオリオンパーティーも耐え続ける事は難しく、暗がりの中、それも快音波が響き続ける中で竜種に挑む必要がありそうだ。
ただしこれは指向性のある快音波ではない事からフレースヴェルグや緑竜程の音圧はない。
アリスは風の防壁を展開してみるものの、防壁内ではさらに音圧が増幅される為すぐに解除。
プロテクションの魔法スキル耐性によりこの破壊的な音圧にも耐えられるジェラルドは、動けない仲間の代わりに光源確保をしようと松明を受け取って移動を開始する。
魔力の放出量の高い事から魔法に対する抵抗力も他者に比べれば高いアリスは、ジェラルドが動き出したタイミングで竜種を引き付けようと暗闇の中を駆け出した。
竜種の姿はほとんど見えてはいないものの、咆哮を続ける限りは大きな動きは取る事ができないと判断したようだ。
アリスが接近してきた事で竜種も身構え、脚を立てつつも小さな敵の動きに警戒を強める。
投げ込んだ松明を通り過ぎて竜種に接近した事で、暗闇の中でもその姿をある程度把握できるようになり、四つ脚で伸び上がるようにして咆哮を続ける竜種に迫る。
アリスが目の前まで迫ったところで竜種は咆哮を止め、右に魔鉄槍バーンを引いた体勢のアリスへと右前脚を振り上げた。
これに風の防壁を使えないアリスは伏せるようにして回避し、立ち上がってバーンを突き付けようとしたところで遅れてやって来た爆風薙ぎ払われてしまう。
予想外の風の薙ぎ払いに地面を転がるアリスは追い討ちを避けようと左手に火球を作り出して竜種目掛けて射出。
出力を高めた事で掌に痛みを覚えつつも、向かってきた竜種の首元へと当たった事で火球が爆ぜて仰け反らせた。
すぐに体を起こしたアリスは竜種の右方向へと走り、唸り声をあげた竜種は側面に回り込ませないよう翼をはためかせる事で風を操り、アリスの進路を妨害する。
最初は暗くて気づく事ができなかったが、おそらくは前脚の攻撃に翼で風を起こす事で遅れた風の薙ぎ払いを乗せたという事だろう。
巨体を持つモンスターであればかなり厄介な魔法の使い方だ。
動きを止めたアリスに今度は左前脚が頭上から振り下ろされ、やや右方向に後退すると同時に咄嗟に展開した風の防壁によってその爪刃を受け流す。
竜種の体が右に傾いているせいだろう翼による遅れた爆風が吹く事はなかった。
咆哮が止んだ事で松明を持って走り出したマリオとソーニャ。
アリスと竜種の戦いを見守りつつ、空洞壁面の少し高い位置に松明を差し込んでいく。
思った以上に広い空洞である事から松明の数が足りず、もっと必要だろうと戻って来たジェラルドが外へと取りに向かった。
水竜といえども蛇のような進化をしているとすれば魔核のある心臓も蛇と同じような位置にあるのではないかと考え、腹を切り開いて探し出す事になる。
蛇の心臓は生活する場所によって変わるとギルドでは習っているが、竜種もそれに当てはまるかはわからないものの腹を全て切り開くよりは当たりをつけて探した方がまだ効率的だ。
「水中の蛇って事なら結構後ろの方だよな。確か三等分して頭側から最初のとこらへんだったはず」
「そんなのよく覚えてるわね」
「いざとなったら食う事もあるだろうしな。覚えておいて損はねぇ」
「蛇なんて食べたくないけど」
「まあ水竜は食うわけじゃねーしまずは魔核を回収しようぜ」
水竜の頭側から三分の一の場所……
この巨大な体から探し出すのはなかなかに大変な作業となったが、一の時程の時間を掛けて何とか探し出す事ができた。
腹部の切開にはマリオも練習とばかりにこの日最後のスラッシュを反芻しながら五回の六連強撃を振るい、自身のスキルの成長が見えた事に嬉しそうに顔をニヤけさせていたが、攻撃力不足に悩んでいた事を知っているパーティーメンバーも素直にマリオの成長を喜んだ。
魔核はさすが色相竜という事もありジェラルドの頭程の大きさがあり、これを加工すれば属性武器が三十以上は作れるだけの量がある。
長い年月を掛けて成長したと思われる個体であるだけに黄竜に近い大きさだ。
また、水竜の体の大きさから保存冷却の魔道具が足りなさそうだが、全て埋め込んでおけばある程度の素材も回収してもらえるだろう。
水竜が集めた雨雲も魔法が解除された事で散り始め、縦穴に陽も差し込んできた。
あとは血で汚れた体を洗い流し、狼煙を焚いておけばシストが乗るエンペラーホークが迎えに来る手筈となっている。
水が濁っていて綺麗になるとは言えないが、血生臭いよりはいいだろうと全員水に浸かって血を洗い流してシストを待つ。
◇◆◇
狼煙が上がるとシストを乗せたエンペラーホークはすぐに縦穴まで辿り着き、水竜を見て驚きつつもこんな事を口にする。
「今日討伐を予定していた竜種って本当にこれですか?私もここに来る前大きな洞窟を見つけたんですけど」
「んー、うん。たぶんこれじゃねぇな。そもそも上位竜じゃねーし」
「ではこの後どうします?疲れてるでしょうから今日は帰って明日以降にまた来ますか?」
「それなら私がやるわ。今日あまり役に立てなかったし上位竜にソロでも挑んでみたいの」
水竜戦を思い返してもアリスが役に立たなかったなどという事はないのだが、マリオの成長を見て負けられないとでも思ったのだろう、ソロで挑みたいと言ってきた。
「でもサリュームはもうないぜ?」
「僕の矢はあと二本あるけど明るさは足りないかも」
「松明でいいわ。その辺の木を拾って燃やせばある程度は明るくなるでしょ」
ソロで挑むとすれば仲間の位置まで把握する必要がない為、光源が少なくとも戦えないという事もない。
「じゃあ無理はしねーようにな。でもフィオレはその二本で竜種に目印付けてやってくれ。インパクトもクリティカルもいらねーからよ」
「うん、左右の首筋でいいよね」
通常の矢として射るのであれば外殻に当てるより刺さりやすい首筋を狙った方がいいだろう。
暗い中で狙うとすればクリティカルポイントにヒットする確率も低く、竜種が弱る事もない為ソロで戦いたいというアリスの要望は満たせるはずだ。
「ごめんね、わがまま言って」
ターゲットを独り占めしてしまう事になる為、ソロで挑むのはやはりパーティーとしては好ましい行為ではない。
しかしこの日は水竜戦の後という事もあり、誰もが消耗している為アリスが戦いたいと言うのであれば譲ってもいい。
エンペラーホークに乗って巨大洞窟へと向けて飛び上がった。
◇◆◇
移動中になぜ発見できなかったのかと思う程にわかりやすい位置に洞窟が見え、縦穴のあった位置から一山跨いだ先ではあったが、山が削り取られたような岩肌に巨大な穴が掘られた跡があった。
木々の生い茂る緑の中にある岩肌と洞窟はよく目立つ為、縦穴にあった洞窟よりは簡単に発見できたはずなのだが。
洞窟前はエンペラーホークが降りられるだけの広さがあり、薙ぎ倒された木を適当にへし折って松明にする為持っていく。
この破壊跡から地属性、もしくは風属性の竜種とも思えなくもないが、討伐依頼される事を考えれば地属性という可能性は低そうだ。
風属性の竜種であれば炎槍も通じる為問題はないだろう。
洞窟へと足を踏み入れ、松明に火をつけて奥へと進む。
音の反響具合から考えても奥まではそこそこの距離がありそうだ。
暗闇の中を歩く事およそ六百歩程進んだところで岩を削ったと思われる広い空間となっており、まだ見えないが奥の方から生物の息づかいや物音が聞こえてくる。
音からしてこちらに気付いて頭を起こしたところではないだろうか。
暗闇の中で松明を光源にして戦う為、各々左右に一本ずつ持っていた計十二本を散らばせる必要があり、まずはマリオとジェラルドが一本ずつを前方へと放り投げる。
入り口側に集中していた明かりが空間内にわずかに広がった事でおおよその壁面の位置も把握できたところで、壁面伝いに左右へと進んで岩の窪みへと突き刺しに移動する。
しかしこの広場へと足を踏み入れた事で敵と認識されたのか、竜種は甲高い咆哮をあげて威嚇する。
この洞窟内での咆哮は反響し、声質や音圧の強さから風属性の竜種であると断定できる。
エンペラーホークの鳴き声をさらに凝縮したような快音波だ。
洞窟の構造が咆哮を増大させる事で強力な音圧となっている。
耳を塞いでも体の芯に響く快音波にオリオンパーティーも耐え続ける事は難しく、暗がりの中、それも快音波が響き続ける中で竜種に挑む必要がありそうだ。
ただしこれは指向性のある快音波ではない事からフレースヴェルグや緑竜程の音圧はない。
アリスは風の防壁を展開してみるものの、防壁内ではさらに音圧が増幅される為すぐに解除。
プロテクションの魔法スキル耐性によりこの破壊的な音圧にも耐えられるジェラルドは、動けない仲間の代わりに光源確保をしようと松明を受け取って移動を開始する。
魔力の放出量の高い事から魔法に対する抵抗力も他者に比べれば高いアリスは、ジェラルドが動き出したタイミングで竜種を引き付けようと暗闇の中を駆け出した。
竜種の姿はほとんど見えてはいないものの、咆哮を続ける限りは大きな動きは取る事ができないと判断したようだ。
アリスが接近してきた事で竜種も身構え、脚を立てつつも小さな敵の動きに警戒を強める。
投げ込んだ松明を通り過ぎて竜種に接近した事で、暗闇の中でもその姿をある程度把握できるようになり、四つ脚で伸び上がるようにして咆哮を続ける竜種に迫る。
アリスが目の前まで迫ったところで竜種は咆哮を止め、右に魔鉄槍バーンを引いた体勢のアリスへと右前脚を振り上げた。
これに風の防壁を使えないアリスは伏せるようにして回避し、立ち上がってバーンを突き付けようとしたところで遅れてやって来た爆風薙ぎ払われてしまう。
予想外の風の薙ぎ払いに地面を転がるアリスは追い討ちを避けようと左手に火球を作り出して竜種目掛けて射出。
出力を高めた事で掌に痛みを覚えつつも、向かってきた竜種の首元へと当たった事で火球が爆ぜて仰け反らせた。
すぐに体を起こしたアリスは竜種の右方向へと走り、唸り声をあげた竜種は側面に回り込ませないよう翼をはためかせる事で風を操り、アリスの進路を妨害する。
最初は暗くて気づく事ができなかったが、おそらくは前脚の攻撃に翼で風を起こす事で遅れた風の薙ぎ払いを乗せたという事だろう。
巨体を持つモンスターであればかなり厄介な魔法の使い方だ。
動きを止めたアリスに今度は左前脚が頭上から振り下ろされ、やや右方向に後退すると同時に咄嗟に展開した風の防壁によってその爪刃を受け流す。
竜種の体が右に傾いているせいだろう翼による遅れた爆風が吹く事はなかった。
咆哮が止んだ事で松明を持って走り出したマリオとソーニャ。
アリスと竜種の戦いを見守りつつ、空洞壁面の少し高い位置に松明を差し込んでいく。
思った以上に広い空洞である事から松明の数が足りず、もっと必要だろうと戻って来たジェラルドが外へと取りに向かった。
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