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第七章 裏切りの夜
35.初めての食感
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家を出てから三十分ほどで学校へつく。そのくらいの距離だと自転車と言う、俺にとって『なじみ深い』乗り物で通っている者も多い。しかしジョアンナは自転車に乗れないらしく家には無かった。
雨の日はバスに乗って行くのだが、そうするともちろん余分な金がかかるわけで、つまり朝の貴重な時間と予算の都合で毎日歩いていると言うわけだ。俺にとっては大した距離ではないし、これくらいで疲れることはないので問題はない。余分に腹が減る以外は、だが。
そんな風に飯のことばかり考えていたらあっという間に昼休みになり、俺はなにを食おうか悩んでいた。選べるのは一品のみなので慎重に選ぶ必要がある。最終的に俺は今日のスペシャルメニュー『カツ丼とちからうどんのパワフルセット』を大盛りで頼むことにした。
女子校と言うことはで女ばかりが集まっているこの学校の食堂は総じて量が少ない。そのため何を食べるにもセットメニューを大盛りで注文するのだが、女だてら同じように注文するやつがそれなりにはいて、そうじて俺よりも体が大きく戦士として立派に通用しそうな連中だ。
「海人ちゃん、今日も良く食べてるね。
私の少し分けてあげるよ」
「伊勢君、わたしのから揚げ一つあげる」
「海人君ってば野菜嫌いなんでしょ?
それなら私の生姜焼き少しあげるからサラダもらうね」
とまあ、こんな風にクラスメートだけではなく同じ中等部の三年生からもまとわりつかれている。その中に奴はいた。
「伊勢海人! まだ陸上部に入る決心はつかないかい?
絶対戦力になるから入って欲しいんだけどなぁ」
「また大河内か、それは無理だと何度も言っている。
医者? から運動? は禁止されているからな」
そう、俺は医者から運動禁止と言われていると入学時に説明してある。しかし一つ上の学年である大河内に目を付けられてしまった。どうやら他の生徒同様、初めての男子生徒として興味本位で見られているうちに運動能力が高いのではと疑われるようになってしまった。
切っ掛けは当番で階段掃除をしていた時、階下でバケツに組んだ水を両手で上の階まで運んだ時だった。普通の中学生なら一つ持って歩くだけでふらついたり重そうだったりするらしい。それだけでなく息を切らすこともなかったため怪しまれてしまったのだ。
「どういうことやってるか見に来るだけでもいいんだよ。
一度くらい、な? いつでも待ってるからさ」
気が向いたら顔を出すと心にもない返事をして何とか逃げ出した俺は、すでに席についていたジョアンナの隣へと座った。
「うみんちゅ…… なんなのそれは……」
「あ、ああ、色々あってこうなってしまった」
今日はいつもより多くの施しを受けてしまった。から揚げと生姜焼きにプリン、ご飯の茶碗が追加で二つに温泉卵と魚のフライ、その替わりにサラダは無くなっている。
「いや、そうじゃなくてね、まあいいや、食べよっか。
本当にそんないっぱい食べきれるの?」
確かにいくらなんでも多すぎる。腹の減るペースは早いが、一度に食える量が極端に多いわけではない。だが一つ一つは女子供が食う量だし、これくらいなら何とかなるだろう。
「ところでジョアンナ? 一つ聞きたいのだが、この白くて焼いてあるものはなんだ?
名前からして力になると思って頼んだが、特に当てはまりそうなものが入ってないぞ」
「あぁ…… あのね、うどんに入ってるのはお餅っていう食べ物よ。
正確には餅って言って『ちからもち』にかけてるわけ。
もしかして知らない食べ物だった?」
「うむ、ピザのチーズのように伸びるんだな。
むーん、これは食いづらい。
だが香ばしくてなかなか悪くない味だ」
「いいから黙って食べちゃいなさい。
量が多いんだから時間足りなくなるわよ?」
俺はジョアンナの忠告に頷いてから、目の前の食い物を次から次へと腹へ納めて行った。最後の最後に残したカツ丼の玉ねぎと緑の豆を無理やり口へと押し込まれて無事に完食し、〆のプリンへ手を伸ばしながらふと思い出した。
「なあ? 先ほどの焼いた餅がもしかして焼き餅なのか?
それと昨日の話にどういう関連性があるんだ?
俺が餅を知らなかったから話が通じなくて怒っていたのか?
そうか、なるほど、そう言うことなんだな?
ということは、はぐらかしているわけじゃないぞ!
本当に知らなかったってことだな!
それでなにがだ?」
俺がようやく理解できると思い興奮気味に訴えていると、ジョアンナの肩は小刻みに震え出し「とまれ」とつぶやくと、プリンは隣から伸びてきた手によって奪われてしまった。
俺のプリンを食べ終わったジョアンナは静かにこちらをにらんで呟いた。
「それ以上なにか言ったらご飯抜きだから」
「はい、姫……」
俺は冷や汗をかきながら小声で返事をするだけで精いっぱいだ。直後に人体拘束が解かれてプリンの空容器を受け取った俺は、初めてオーガと対戦したガキの頃を思い出していた。やはりジョアンナは魔術師か何かなのだろう。
「そうだうみんちゅ、今日は帰りに寄るところあるんだけどどうする?
一緒に行ってもいいし先に帰ってもいいよ」
「仕事ではないのか?
危険が少しでもありそうならばついていくに決まっている」
「多分危なくはないはず……
弁護士の先生のとこへ行くだけだからさ」
それを聞いた俺は、きっとピザが食えると思い、二つ返事で同行を申し出たのだった。
雨の日はバスに乗って行くのだが、そうするともちろん余分な金がかかるわけで、つまり朝の貴重な時間と予算の都合で毎日歩いていると言うわけだ。俺にとっては大した距離ではないし、これくらいで疲れることはないので問題はない。余分に腹が減る以外は、だが。
そんな風に飯のことばかり考えていたらあっという間に昼休みになり、俺はなにを食おうか悩んでいた。選べるのは一品のみなので慎重に選ぶ必要がある。最終的に俺は今日のスペシャルメニュー『カツ丼とちからうどんのパワフルセット』を大盛りで頼むことにした。
女子校と言うことはで女ばかりが集まっているこの学校の食堂は総じて量が少ない。そのため何を食べるにもセットメニューを大盛りで注文するのだが、女だてら同じように注文するやつがそれなりにはいて、そうじて俺よりも体が大きく戦士として立派に通用しそうな連中だ。
「海人ちゃん、今日も良く食べてるね。
私の少し分けてあげるよ」
「伊勢君、わたしのから揚げ一つあげる」
「海人君ってば野菜嫌いなんでしょ?
それなら私の生姜焼き少しあげるからサラダもらうね」
とまあ、こんな風にクラスメートだけではなく同じ中等部の三年生からもまとわりつかれている。その中に奴はいた。
「伊勢海人! まだ陸上部に入る決心はつかないかい?
絶対戦力になるから入って欲しいんだけどなぁ」
「また大河内か、それは無理だと何度も言っている。
医者? から運動? は禁止されているからな」
そう、俺は医者から運動禁止と言われていると入学時に説明してある。しかし一つ上の学年である大河内に目を付けられてしまった。どうやら他の生徒同様、初めての男子生徒として興味本位で見られているうちに運動能力が高いのではと疑われるようになってしまった。
切っ掛けは当番で階段掃除をしていた時、階下でバケツに組んだ水を両手で上の階まで運んだ時だった。普通の中学生なら一つ持って歩くだけでふらついたり重そうだったりするらしい。それだけでなく息を切らすこともなかったため怪しまれてしまったのだ。
「どういうことやってるか見に来るだけでもいいんだよ。
一度くらい、な? いつでも待ってるからさ」
気が向いたら顔を出すと心にもない返事をして何とか逃げ出した俺は、すでに席についていたジョアンナの隣へと座った。
「うみんちゅ…… なんなのそれは……」
「あ、ああ、色々あってこうなってしまった」
今日はいつもより多くの施しを受けてしまった。から揚げと生姜焼きにプリン、ご飯の茶碗が追加で二つに温泉卵と魚のフライ、その替わりにサラダは無くなっている。
「いや、そうじゃなくてね、まあいいや、食べよっか。
本当にそんないっぱい食べきれるの?」
確かにいくらなんでも多すぎる。腹の減るペースは早いが、一度に食える量が極端に多いわけではない。だが一つ一つは女子供が食う量だし、これくらいなら何とかなるだろう。
「ところでジョアンナ? 一つ聞きたいのだが、この白くて焼いてあるものはなんだ?
名前からして力になると思って頼んだが、特に当てはまりそうなものが入ってないぞ」
「あぁ…… あのね、うどんに入ってるのはお餅っていう食べ物よ。
正確には餅って言って『ちからもち』にかけてるわけ。
もしかして知らない食べ物だった?」
「うむ、ピザのチーズのように伸びるんだな。
むーん、これは食いづらい。
だが香ばしくてなかなか悪くない味だ」
「いいから黙って食べちゃいなさい。
量が多いんだから時間足りなくなるわよ?」
俺はジョアンナの忠告に頷いてから、目の前の食い物を次から次へと腹へ納めて行った。最後の最後に残したカツ丼の玉ねぎと緑の豆を無理やり口へと押し込まれて無事に完食し、〆のプリンへ手を伸ばしながらふと思い出した。
「なあ? 先ほどの焼いた餅がもしかして焼き餅なのか?
それと昨日の話にどういう関連性があるんだ?
俺が餅を知らなかったから話が通じなくて怒っていたのか?
そうか、なるほど、そう言うことなんだな?
ということは、はぐらかしているわけじゃないぞ!
本当に知らなかったってことだな!
それでなにがだ?」
俺がようやく理解できると思い興奮気味に訴えていると、ジョアンナの肩は小刻みに震え出し「とまれ」とつぶやくと、プリンは隣から伸びてきた手によって奪われてしまった。
俺のプリンを食べ終わったジョアンナは静かにこちらをにらんで呟いた。
「それ以上なにか言ったらご飯抜きだから」
「はい、姫……」
俺は冷や汗をかきながら小声で返事をするだけで精いっぱいだ。直後に人体拘束が解かれてプリンの空容器を受け取った俺は、初めてオーガと対戦したガキの頃を思い出していた。やはりジョアンナは魔術師か何かなのだろう。
「そうだうみんちゅ、今日は帰りに寄るところあるんだけどどうする?
一緒に行ってもいいし先に帰ってもいいよ」
「仕事ではないのか?
危険が少しでもありそうならばついていくに決まっている」
「多分危なくはないはず……
弁護士の先生のとこへ行くだけだからさ」
それを聞いた俺は、きっとピザが食えると思い、二つ返事で同行を申し出たのだった。
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