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告白は照れくさい

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 練習試合は凄惨な乱打戦となったが、一人ご機嫌だったのは丸山だ。結局全打席ホームランで九打点をあげ、バレー部の一年生に強烈なアピールが出来たのだから。そして大活躍の効果なのか、とりあえずチビベン達と四人で祝勝会名目のカラオケへ出かけて行った。

 たい焼き屋の前で解散した後、倉片と帰ろうとした僕を木戸がひきとめた。

「よ、ちょっと話あるから付き合えよ。
 一回部室へ戻ってさ。
 悪りいけど倉片は一人で先帰ってくれ」

「なんだよ改まって、気持ち悪い。
 倉片すまんけど先帰って。
 マネジャーとお茶しに行ってもいいぞ」

「なんで俺があんなのと!
 マジ勘弁してくださいよ」

 はたから見てると由布と倉片はなかなか悪くない組み合わせに見える。というか、いつの間にか僕もそんなことを考えるようになっていることに気づいて、自分でもビックリだ。

 部室へ戻るとさっき閉めたはずだったのに鍵が開いていた。二人で中へ入ると、そこには真弓先生が待っていた。そうだ、あの件があったの忘れてた、と心の中で叫んでしまった。

「吉田君さ、お父さんから何か聞いてると思うんだけど、あなたはどう受け取ったの?
 問い詰めるつもりではないけど、吉田君のお父さんてアレじゃない……?
 なんというか……」

「ああ、そうですね、返す言葉もありませんが、言いたいことはわかります。
 細かいことは何にも聞いてなくて僕も戸惑っていたんです。
 実際のところどうなってるんですかね?」

「お前に言ってなかったのはホント悪かった。
 でもなんかみっともなくってな。
 だからここできっちり話しておこうと思ったわけよ」

 随分神妙な面持ちだ。こんな木戸は初めて見るかもしれない。

「前にも言ったけど、俺は高校卒業したら店を継ぐつもりだった。
 もしドラフトにかかれば別だが、プロ入りできなかったら居酒屋の二代目さ。
 でもやっぱまだお前と野球やり足りねえのよ」

「いやそれはマジで嬉しいよ。
 僕ももちろん同じ気持ちだしさ」

「だからオヤジとも話し合ってある程度決めたんだけどな。
 ドラフトでお前を指名した球団に指名されたらプロへ行く。
 別の球団だったら行かねえ。
 万一お前が大学野球目指すなら同じ大学へ行くことにした」

「ちょっと待てよ、僕次第ってことか?
 去年はあっさり予選敗退だし、今年はまだ地区予選も始まってない。
 それにまだ二年生だから全国では無名選手だぞ?
 ドラフトなんてかかるわけないって」

「でも野球は続けるつもりなんだろ?
 だったら高校出たら大学じゃねえの?
 それともオヤジさんみたいに社会人へ行くのか?」

「いやいや、まだ全然考えてないよ。
 実際に全国クラスの選手やチームと戦ったことないしなあ」

 木戸がそんなに将来について考えてるとは思ってなかったので、どう話をしたらいいか悩んでしまう。正直僕は、進路についてあまり考えていないのだ。

「でも今年なら松白以外には負ける気がしねえし、もちろん松白にも勝つさ。
 そんで甲子園へ行って一気に全国区の選手の出来上がりって予定だ。
 お前だってそのつもりでやってんだろ?」

 帝端豆大付属松白高校は、ここ数年連続で甲子園へ行っている常連強豪校だ。ナナコークラスでは練習試合すら断られてしまうくらい忙しく、練習試合のために他県含め遠征しているらしい。

「そりゃ勝つつもりでやってるに決まってるさ。
 個々の力を比べたら十分やれるとだって考えてる。
 あとはチーム力、選手層の差がどのくらい出るかじゃないかな」

「まあそういうことだ。
 それでも高卒でプロ入りできなかったら大学だろ、多分」

「うーん、父さんとも話したことないからわからないけど、行けるならそうするかもしれないな。
 でもその時は東京へ出ることになるかもしれないよ?」

「それよ、そこが俺としては最難関なわけさ
 だから大学へいく事になったら俺も追いかけるために準備を始めたのさ」

「それと真弓先生がどう関係あるわけ?
 もしかしてやっぱり付き合ってるとかそういうこと!?」

 ここで真弓先生が口を挟んできた。

「あのね、あなたのお父さんのことだから色恋沙汰にしたいのかもと思ったわけ。
 ねえ知ってる? ナナコー生だったお父さんが他校のマネジャーをナンパして問題になったこと。
 他にも応援の生徒に合コンもちかけたり、自分の電話番配ったりしてたらしいわよ?」

「はあ、母さんから聞いたことがあります。
 その時すでに付き合い始めてたから激怒したらしいですけど……
 あまりの素行不良で心配になって、つなぎとめておくために水泳辞めたらしいですから。
 もちろんその時も連盟とか巻き込んで大ごとなったと聞いてます……」

「だからきっとねじ曲げて面白おかしく話をしたんじゃないか心配だったのよ。
 予想通り、あなたは変な風に受け取ったわけでしょ?」

「いや、決してそんなことは無いです。
 ほんの少しだけ焦りましたけど、木戸はともかく真弓先生は節度ある大人だし……」

「俺かよ! まったく信用ねえなあ。
 高校野球引退するまで女遊びは封印だって言っただろうが!
 いや、そんなことはどうでもいいわ。
 大学進学の話な」

「そうそう、それがまったく繋がってこないよ。
 聞いてる限り、何か理由があるってことだろ?」

「うちはめちゃくちゃ儲かってるってわけじゃないんだよ。
 特に最近は売り上げがかなり落ちてる。
 だから大学行く金がほしいわけ」

「そうか、近所にチェーン店が出来てお客さん取られてるって聞いたよ。
 神戸さんからだけど」

「ああ、パン子のところもスーパーが出来て大変らしいな。
 って! 話をすぐ逸らすなよ!
 だから学費とか生活費を稼ぐためにな、真弓ちゃんに三階の空き部屋を借りてもらったんだ。
 その家賃を貯めておいて何とかしようってこと。
 ついでに受験勉強だってしてるんだぜ?」

「おい…… それはウソだろ?
 お前が勉強? あり得るのか?
 僕は全然してないんだけど、そんなこと聞くと不安になってくるよ」

「いやいやマジだって、大マジ。
 その代り真弓ちゃんは毎日飲み放題で、朝も起こしてるし弁当も持たせてる。
 もちろんうちの母ちゃんが、だけどな」

「なるほどね、うまいこと考えたじゃん。
 でもさ、いくらなんでも僕に執着しすぎじゃない?
 ちょっと怖いくらいだよ」

「そうか? すげえと認めたやつと同じ道を進みたいのは自然じゃねえか?
 マルマンはどっちかというとバッター同士だし、ライバルだからそんなこと思わねえけどさ。
 カズとはバッテリー組んでるからな」

 やっぱりこいつは真っ直ぐなやつだ。野球には貪欲とも言える。その木戸に認めてもらえて、これからもまだまだ同じ道を、なんて言われるのは選手冥利に尽きるってもんだ。

「なんかありがとう。
 そう言ってもらえるのはめちゃくちゃうれしいよ。
 真弓先生が木戸んちに住んでる理由もわかってすっきりしたし、これでまた野球に専念できる。
 正直言って、今日の試合前はあれこれと雑念が多くて困ってたんだ」

「それのほとんどはあなたのお父さんのせいだからね。
 香さんはちゃんとわかってくれたのに、お父さんは酔ったふりしてにやにや笑ってたもの。
 嫌な予感がしてたのよねえ……」

「ホントすいません……
 帰ったら叱っておきます……」

 まったく、こんなところで大恥をかくなんて思っても見なかった。せっかく木戸たちといい話が出来たので台無しだ。こうなったら帰ってから絶対に父さんをとっちめて、咲を帰してしまった分を含めて、このもやもや気分の借りを返すのだと僕は固く誓った。
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