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一方的な乱打戦
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試合が始まると想像もしてなかった展開となった。
最後の夏に向けての総仕上げとなる三年生はもちろん、レギュラー入りやポジション死守を目指す一年生の頑張りが凄かった。ここまでやるなんて正直思っておらず、なんだかんだ言っても僕にも出番は来るだろうと考えていた。
しかし……
「やっぱまこっちゃんの初球セフティバントが効いたな。
アレで相手のピッチャーはリズム狂わされただろ。
目の前に転がったのにセーフにしちまうんだから大した足だよ」
珍しくチビベンが副主将らしいことを言った。今日は先発マスクだから気合の入り方が違うようだ。リードも木戸とは違って守備的だけど、それがなかなか冴えていて相手を翻弄している。ひょうひょうと横の変化を多用するハカセとの相性もいいみたいだ。
四回が終わって六対二、初回から得点したことで主導権を握ることが出来た。しかしそれでも のれていない選手もいる。前回もバッティングはダメだった嶋谷だ。いつもはなかなかめげない男だが流石に二試合連続でノーヒットは堪えたらしく、ベンチでうなだれてしまった。
こうなるとさすがの木戸もゲキを飛ばして交代を告げた。気落ちしたら負け、それが勝負の世界での鉄則だ。
「嶋谷は下がれ、明日から特打やるから覚悟しとけよ!
今のナナコーは守備だけでレギュラー取れるほど甘くねえからよ。
池田センパイがサード、オノケンはファースト行ってくれ。
シマに変わって長崎センパイで、涌井先輩とマルマン交代でライト頼む。
打たなかったら全員にたい焼きな」
「全員はひどくね?
じゃあ打ったら全員からたい焼きってことでいいのか?」
「自分で打つって行ったんだから責任持てよ。
紹介してもらえるバレー部の子にいいとこ見せるんだろ?
むしろ感謝のたい焼きがふるまわれてもいいくらいだわ」
どうしてもこういうやり取りは無くならない。緊張をほぐすためと考えればダメじゃないんだけど、相手に聞こえないことを願うばかりだ。
「ハカセはまだいけるか?
結構ヘロヘロっぽいけど、もう一つ投げてくれると助かるな」
「保証はできないがやれるだけやってみる。
四球を出したら危険サインだと思ってくれ。
握力低下が著しいんでな」
木戸がOKと言いながらハカセの背中をはたいた。だが結局次の回のマウンドにハカセが上ることは無かった。
「ハカセのとこに代打でカワ!
もう治ってるなら思い切ってぶちかましてこいや!」
なんとワンナウトから連打と四球で満塁になったので、ハカセのところへ代打を送った。
だが『おうよ』と叫んで威勢よく出ていったカワはあっけなく三振、一番に返って、今日二安打と調子のいいまこっちゃんに期待したが、あえなく内野ゴロで無得点に終わった。
「まあ仕方ないな。
ピッチャーは木尾、行けるな?」
「もちろんです!
バッチリあったまってます!」
意気込みは悪くないが、今日の妻土がハカセの横変化に翻弄されていたことが返って気になる。でも目が慣れてくる頃だからここで縦変化主体の木尾に変わったのは悪くないかもしれない。
しかし立ち上がりを突かれて打ちこまれ同点になってしまった。何とか抑えてベンチへ戻ってきた木尾はすでに疲れが見えている。
「随分疲れてるみたいだけどダイジョブか?
プレッシャーがあるのかもしれないけど、練習試合なんだからいつも通り投げればいいよ。
落ち着いていこう」
気休めかもしれないが声をかけておく。同時に木戸へ肩を作った方がいいかを聞いてみた。
「いや、木尾はそのまま行くぜ。
どんな状況でも投げなきゃいけないやつなんだから、こういうところで鍛えておかないとな」
そう言いながら胸を親指でつつくしぐさをする。確かに木尾は精神面に不安がある。だからこそ試練を与えて乗り越えさせようとしているのかもしれない。そしてここからがナナコーの真骨頂とも言える戦いとなった。
二番からの好打順、連打で一三塁から丸山のホームランで三点追加だ。やはりこいつは只者ではない。その後も連打が止まらずノーアウト満塁から押し出しでさらに一点追加し十対六となったところで妻土は投手交代だ。
しかしここでアクシデント、彼女の前で見せ場を迎えたチビベンは気合十分だったが初球デッドボールを喰らってしまった。しかも逃げ方が悪かったため手首に当たってかなり痛そうだ。
「山下君、大丈夫!?
今手当てするからね」
マネジャーでもないのに、チビベンの彼女のバレー部の先輩がベンチまで来てしまい、治療を始めてしまった。でもさすが運動部だ。手際が良くてうちのマネジャー掛川由布も満足そうにうなづいている。
「ちぇ、オアツイことで。
まったく羨ましすぎだぜ」
予想通り丸山が愚痴り始めた。でも相手がバレー部の先輩で、試合の後に後輩を紹介してもらえることになっているからか、あまりしつこくしなくてほっとした。
結局この回はビッグイニングになり、相手投手の乱調もあってさらに二点追加の後、ワンナウト満塁でオノケンだ。しかしいい当たりだったもののショートの攻守で万事休す、と思いきや、まこっちゃんがタッチをかいくぐりゲッツーはまのがれた。
これでツーアウトになったが、さっきホームランを打ったばかりの丸山に、この回二度目の打席が回ってきた。よく見ると相手ピッチャーは塩二久の選手で、これでもう控えはいないようだ。
案の定ストライクが入らずスリーボール、押し出しも致し方なしと言う場面だったが、妻土と塩二久の急造バッテリーは安易にストライクを取りに来てしまった。
だからと言ってまさか一発打って一イニング七打点とかありえないだろ。誰もがそう思ったが、打球はセンター方向へ高く上がり、まさかの満塁ホームランになってしまった。
これで十七対六の大量リード、キャッチャーは負傷退場のチビベンから木戸に変わったこともあって、木尾は気楽に投げられる場面のはず。
はず…… だったのにピリッとしない。こちらもストライクが入らず四球とヒットが繰り返されてまた四失点となってしまった。まあそれでも七点リードだし、出番なしと宣告された僕には何とか立ち直ってほしいとベンチで願うことしかできない。
結局その後も点を激しく撮りあう超乱打戦となり、最終的には二十二対十六でゲームセット。ベンチで見ているだけだったのも相まってただただ長い試合だった。
「ハカセと木尾は明日から走り込み倍な。
それと、池田センパイと倉片も嶋谷と一緒に特打だな。
チビベンのけがは大したこと無さそうでよかったけど、念のため病院行ってくるように。
彼女におんぶで連れてってもらってもいいぜ」
試合が終わって着替えた後、いつものたい焼き屋の前で木戸が各自に課題を伝えている。練習メニューは別途由布が考えるのだろうが、選手の少ないナナコーが決勝まで残って勝ち残るためにはもっと鍛えなければいけないだろう。
ちなみにたい焼き代は、結局真弓先生が出す羽目になってぼやいていた。
最後の夏に向けての総仕上げとなる三年生はもちろん、レギュラー入りやポジション死守を目指す一年生の頑張りが凄かった。ここまでやるなんて正直思っておらず、なんだかんだ言っても僕にも出番は来るだろうと考えていた。
しかし……
「やっぱまこっちゃんの初球セフティバントが効いたな。
アレで相手のピッチャーはリズム狂わされただろ。
目の前に転がったのにセーフにしちまうんだから大した足だよ」
珍しくチビベンが副主将らしいことを言った。今日は先発マスクだから気合の入り方が違うようだ。リードも木戸とは違って守備的だけど、それがなかなか冴えていて相手を翻弄している。ひょうひょうと横の変化を多用するハカセとの相性もいいみたいだ。
四回が終わって六対二、初回から得点したことで主導権を握ることが出来た。しかしそれでも のれていない選手もいる。前回もバッティングはダメだった嶋谷だ。いつもはなかなかめげない男だが流石に二試合連続でノーヒットは堪えたらしく、ベンチでうなだれてしまった。
こうなるとさすがの木戸もゲキを飛ばして交代を告げた。気落ちしたら負け、それが勝負の世界での鉄則だ。
「嶋谷は下がれ、明日から特打やるから覚悟しとけよ!
今のナナコーは守備だけでレギュラー取れるほど甘くねえからよ。
池田センパイがサード、オノケンはファースト行ってくれ。
シマに変わって長崎センパイで、涌井先輩とマルマン交代でライト頼む。
打たなかったら全員にたい焼きな」
「全員はひどくね?
じゃあ打ったら全員からたい焼きってことでいいのか?」
「自分で打つって行ったんだから責任持てよ。
紹介してもらえるバレー部の子にいいとこ見せるんだろ?
むしろ感謝のたい焼きがふるまわれてもいいくらいだわ」
どうしてもこういうやり取りは無くならない。緊張をほぐすためと考えればダメじゃないんだけど、相手に聞こえないことを願うばかりだ。
「ハカセはまだいけるか?
結構ヘロヘロっぽいけど、もう一つ投げてくれると助かるな」
「保証はできないがやれるだけやってみる。
四球を出したら危険サインだと思ってくれ。
握力低下が著しいんでな」
木戸がOKと言いながらハカセの背中をはたいた。だが結局次の回のマウンドにハカセが上ることは無かった。
「ハカセのとこに代打でカワ!
もう治ってるなら思い切ってぶちかましてこいや!」
なんとワンナウトから連打と四球で満塁になったので、ハカセのところへ代打を送った。
だが『おうよ』と叫んで威勢よく出ていったカワはあっけなく三振、一番に返って、今日二安打と調子のいいまこっちゃんに期待したが、あえなく内野ゴロで無得点に終わった。
「まあ仕方ないな。
ピッチャーは木尾、行けるな?」
「もちろんです!
バッチリあったまってます!」
意気込みは悪くないが、今日の妻土がハカセの横変化に翻弄されていたことが返って気になる。でも目が慣れてくる頃だからここで縦変化主体の木尾に変わったのは悪くないかもしれない。
しかし立ち上がりを突かれて打ちこまれ同点になってしまった。何とか抑えてベンチへ戻ってきた木尾はすでに疲れが見えている。
「随分疲れてるみたいだけどダイジョブか?
プレッシャーがあるのかもしれないけど、練習試合なんだからいつも通り投げればいいよ。
落ち着いていこう」
気休めかもしれないが声をかけておく。同時に木戸へ肩を作った方がいいかを聞いてみた。
「いや、木尾はそのまま行くぜ。
どんな状況でも投げなきゃいけないやつなんだから、こういうところで鍛えておかないとな」
そう言いながら胸を親指でつつくしぐさをする。確かに木尾は精神面に不安がある。だからこそ試練を与えて乗り越えさせようとしているのかもしれない。そしてここからがナナコーの真骨頂とも言える戦いとなった。
二番からの好打順、連打で一三塁から丸山のホームランで三点追加だ。やはりこいつは只者ではない。その後も連打が止まらずノーアウト満塁から押し出しでさらに一点追加し十対六となったところで妻土は投手交代だ。
しかしここでアクシデント、彼女の前で見せ場を迎えたチビベンは気合十分だったが初球デッドボールを喰らってしまった。しかも逃げ方が悪かったため手首に当たってかなり痛そうだ。
「山下君、大丈夫!?
今手当てするからね」
マネジャーでもないのに、チビベンの彼女のバレー部の先輩がベンチまで来てしまい、治療を始めてしまった。でもさすが運動部だ。手際が良くてうちのマネジャー掛川由布も満足そうにうなづいている。
「ちぇ、オアツイことで。
まったく羨ましすぎだぜ」
予想通り丸山が愚痴り始めた。でも相手がバレー部の先輩で、試合の後に後輩を紹介してもらえることになっているからか、あまりしつこくしなくてほっとした。
結局この回はビッグイニングになり、相手投手の乱調もあってさらに二点追加の後、ワンナウト満塁でオノケンだ。しかしいい当たりだったもののショートの攻守で万事休す、と思いきや、まこっちゃんがタッチをかいくぐりゲッツーはまのがれた。
これでツーアウトになったが、さっきホームランを打ったばかりの丸山に、この回二度目の打席が回ってきた。よく見ると相手ピッチャーは塩二久の選手で、これでもう控えはいないようだ。
案の定ストライクが入らずスリーボール、押し出しも致し方なしと言う場面だったが、妻土と塩二久の急造バッテリーは安易にストライクを取りに来てしまった。
だからと言ってまさか一発打って一イニング七打点とかありえないだろ。誰もがそう思ったが、打球はセンター方向へ高く上がり、まさかの満塁ホームランになってしまった。
これで十七対六の大量リード、キャッチャーは負傷退場のチビベンから木戸に変わったこともあって、木尾は気楽に投げられる場面のはず。
はず…… だったのにピリッとしない。こちらもストライクが入らず四球とヒットが繰り返されてまた四失点となってしまった。まあそれでも七点リードだし、出番なしと宣告された僕には何とか立ち直ってほしいとベンチで願うことしかできない。
結局その後も点を激しく撮りあう超乱打戦となり、最終的には二十二対十六でゲームセット。ベンチで見ているだけだったのも相まってただただ長い試合だった。
「ハカセと木尾は明日から走り込み倍な。
それと、池田センパイと倉片も嶋谷と一緒に特打だな。
チビベンのけがは大したこと無さそうでよかったけど、念のため病院行ってくるように。
彼女におんぶで連れてってもらってもいいぜ」
試合が終わって着替えた後、いつものたい焼き屋の前で木戸が各自に課題を伝えている。練習メニューは別途由布が考えるのだろうが、選手の少ないナナコーが決勝まで残って勝ち残るためにはもっと鍛えなければいけないだろう。
ちなみにたい焼き代は、結局真弓先生が出す羽目になってぼやいていた。
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