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第126話.狙撃隊ノ夕食
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穂高進一中尉率いる狙撃隊。
六班、隊員総勢二十五名が、久しぶりに顔を付き合わせて食事を取っている。軽い気持ちで火を使うことはできないので暖かいご飯とはいかないが、必要最低限のカロリーを摂取するため、それに精神状態の安定のために忙しい最中にあっても食事は重視されていた。
何度かの隊での作戦を乗り超えて、彼らの中で結束の気持ちが高まり、その中で一つの話題が熱心に話し合われていた。
「穂高中尉はすごい。狙撃の精度が神業だ」
「一体どうやって狙撃銃の扱い方を身につけたのですか。我々も同型を下賜されていますが、隊長のようには到底いかない」
「こう、ぜひコツみたいなモノをご教授頂きたいものです」
飯を味わうのもそこそこに、私は隊員らから質問ぜめを味わう事になった。雪兎と同型は全部で八梃作られている。そして今実際に稼働しているのは六梃。全てが職人の手による素晴らしい逸品であった。
それに選抜された射手である隊員も、明而陸軍を背負って立つような腕前の持ち主ばかりだ。
しかし皆が言うように、弾道が見えるという識覚(ハンデ)を差っ引いても、私は彼らの技量をおおむね上回っているだろう。自分で言うと自信家のようだが、客観的に戦果だけを見てもそうだ。
「コツか、コツ。いや、ないな」
少し考えて、そう答えた。
言いながら缶詰の蓋を開けて、蓋裏についたものまでこそげとる。勿体無いおばけが出るからな。わずかでも無駄にはしたくない。
「隊長、勿体ぶらないで教えてくださいよ。どうやってそんな技術を身につけたのですか」
「そりゃ訓練だよ。練習あるのみだ」
「ならば特別な修練法があるのでしょうか」
汚れた軍服を身に付けた男たちが、入れ替わり立ち替わり質問を続ける。特別な修練とはなんだ。そんな魔法のような方法があれば教えて欲しいくらいだ。
「いや、近道はない。とにかく回数をこなせ」
「回数と言っても弾を無駄に撃つわけにもいかんですから。穂高中尉はどうやって練習しているのですか。そこを皆は聞きたいのです」
「そうだな……飯を食ってる時も、小便をしている時も、あの射撃はどうだったとか。もう少しこうすべきだったか、など鉄砲を上手く射てるように頭の中でも練習しているな。実際に引き金を引いて弾を飛ばすだけが訓練ではない」
今世になってからも幼少の砌から、じいさまについて山をかけた私は常に鉄砲と共にあった。上手に的に当てる方法を考えて、実践して、その回数は誰にも負けないと自負している。
「とにかく、私はこう思っている。世の中の技術は、神業だなんだと言われても、所詮は人間業(にんげんわざ)なんだよ。練習すれば上手になるものだ。君らも練習を欠かすなよ」
「しかし中尉、世の中には天賦の才というのもあるでしょう」
「あるだろうなぁ。みんなでヨーイドンで一等賞を決めるなら運も才もあるだろうよ。だがそんなもので決まるのは本当に僅かなトコロだ。誰よりも多く、誰よりも濃く修練してみせろ。自分は誰にも負けないくらい鉄砲を握っていると思えるようにな」
「私でも中尉殿と同じように上手くできるようになるでしょうか」
「なるよ。修練怠るな」
「ありがとうございます。参考になりました」
一人の隊員が帽子を取って頭を下げた。二十代前半、私と同い年くらいだろうか。若々しい煌めきが見て取れる。
「そうだな、付け加えて一つ君に助言できるとすれば」
つい、この気持ちの良い若者に何か言ってやりたくなった。
「君は照準器を見過ぎだ。銃弾は銃口から出る、狙撃眼鏡の先から出るわけじゃあないだろう。銃口から飛び出る銃弾を想像(イメージ)した方が良い」
なるほど、なんてわかったのかわからぬのか知れぬ言葉が周りからボソボソと聞こえた。こんな助言をいくらも聞くより、自分なりにやってみた方が良いと思うがね。
「中尉は狙撃眼鏡を使いませんね」
「必要ないからな」
そう事実を述べると皆が唖然とした。
「やはり中尉は特別(スペシャル)ですよ」
隊員らは顔を見合わせたあと、私にそう言った。
六班、隊員総勢二十五名が、久しぶりに顔を付き合わせて食事を取っている。軽い気持ちで火を使うことはできないので暖かいご飯とはいかないが、必要最低限のカロリーを摂取するため、それに精神状態の安定のために忙しい最中にあっても食事は重視されていた。
何度かの隊での作戦を乗り超えて、彼らの中で結束の気持ちが高まり、その中で一つの話題が熱心に話し合われていた。
「穂高中尉はすごい。狙撃の精度が神業だ」
「一体どうやって狙撃銃の扱い方を身につけたのですか。我々も同型を下賜されていますが、隊長のようには到底いかない」
「こう、ぜひコツみたいなモノをご教授頂きたいものです」
飯を味わうのもそこそこに、私は隊員らから質問ぜめを味わう事になった。雪兎と同型は全部で八梃作られている。そして今実際に稼働しているのは六梃。全てが職人の手による素晴らしい逸品であった。
それに選抜された射手である隊員も、明而陸軍を背負って立つような腕前の持ち主ばかりだ。
しかし皆が言うように、弾道が見えるという識覚(ハンデ)を差っ引いても、私は彼らの技量をおおむね上回っているだろう。自分で言うと自信家のようだが、客観的に戦果だけを見てもそうだ。
「コツか、コツ。いや、ないな」
少し考えて、そう答えた。
言いながら缶詰の蓋を開けて、蓋裏についたものまでこそげとる。勿体無いおばけが出るからな。わずかでも無駄にはしたくない。
「隊長、勿体ぶらないで教えてくださいよ。どうやってそんな技術を身につけたのですか」
「そりゃ訓練だよ。練習あるのみだ」
「ならば特別な修練法があるのでしょうか」
汚れた軍服を身に付けた男たちが、入れ替わり立ち替わり質問を続ける。特別な修練とはなんだ。そんな魔法のような方法があれば教えて欲しいくらいだ。
「いや、近道はない。とにかく回数をこなせ」
「回数と言っても弾を無駄に撃つわけにもいかんですから。穂高中尉はどうやって練習しているのですか。そこを皆は聞きたいのです」
「そうだな……飯を食ってる時も、小便をしている時も、あの射撃はどうだったとか。もう少しこうすべきだったか、など鉄砲を上手く射てるように頭の中でも練習しているな。実際に引き金を引いて弾を飛ばすだけが訓練ではない」
今世になってからも幼少の砌から、じいさまについて山をかけた私は常に鉄砲と共にあった。上手に的に当てる方法を考えて、実践して、その回数は誰にも負けないと自負している。
「とにかく、私はこう思っている。世の中の技術は、神業だなんだと言われても、所詮は人間業(にんげんわざ)なんだよ。練習すれば上手になるものだ。君らも練習を欠かすなよ」
「しかし中尉、世の中には天賦の才というのもあるでしょう」
「あるだろうなぁ。みんなでヨーイドンで一等賞を決めるなら運も才もあるだろうよ。だがそんなもので決まるのは本当に僅かなトコロだ。誰よりも多く、誰よりも濃く修練してみせろ。自分は誰にも負けないくらい鉄砲を握っていると思えるようにな」
「私でも中尉殿と同じように上手くできるようになるでしょうか」
「なるよ。修練怠るな」
「ありがとうございます。参考になりました」
一人の隊員が帽子を取って頭を下げた。二十代前半、私と同い年くらいだろうか。若々しい煌めきが見て取れる。
「そうだな、付け加えて一つ君に助言できるとすれば」
つい、この気持ちの良い若者に何か言ってやりたくなった。
「君は照準器を見過ぎだ。銃弾は銃口から出る、狙撃眼鏡の先から出るわけじゃあないだろう。銃口から飛び出る銃弾を想像(イメージ)した方が良い」
なるほど、なんてわかったのかわからぬのか知れぬ言葉が周りからボソボソと聞こえた。こんな助言をいくらも聞くより、自分なりにやってみた方が良いと思うがね。
「中尉は狙撃眼鏡を使いませんね」
「必要ないからな」
そう事実を述べると皆が唖然とした。
「やはり中尉は特別(スペシャル)ですよ」
隊員らは顔を見合わせたあと、私にそう言った。
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