【元幹部自衛官 S氏 執筆協力】元自衛官が明治時代に遡行転生!〜明治時代のロシアと戦争〜

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第127話.金色ノ一撃

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敵が攻勢に出るとすぐに引き、留まり脆弱な側面を見せた時には速やかに突く。
我々狙撃隊と二個大隊はそれを徹底する事で、大きな被害を出すことなく、敵の進行を著しく遅延させる事に成功していた。
我々はルシヤの物資の集積所を焼き、荷車は夜襲し、将校は狙撃した。大いに彼奴等を混乱に陥れたが、次から次へと送られ続ける物資と兵隊に、ルシヤの底力というか意地のようなものを感じずにはいられない。

そんな時。
敵のとある部隊に気になる動きがあった。私は狙撃隊をいくつかのポイントに分けてそれを監視するように指示していた。

「タカ!大変だぞ」

隊員の何名かと打ち合わせをしていると、聞いたことのある声で呼びつけられた。声の方向へ視線を向けると、ウナが額に汗を滲ませながら急いだ様子で駆け寄ってきた。

「大変だ!」
「どうした。まず慌てるな、落ち着いて話せ」

水筒の水を渡してやると、一口ぐっと飲んで深い息を吐いた。
ウナと我々はしばらく別行動をしていた。彼はニタイの民と共に動いていたからだ。
私からの指示を、上手く伝えて首長と共に任務に当たってくれていたのだ。そのウナとニタイの民の戦果は、直前まで民間人であったと思えないほどであった。

「使いの兵卒が来て、タカと狙撃隊に札幌まで後退命令がでたって!二個大隊だけ残して狙撃隊は後退だ!使いのヤツもこっちに向かってるけど、俺だけ先に走って来たんだ。早く伝えなきゃと思って」
「それは助かったが……後退だと?」

この状況で後退しろというのか。それも二個大隊は残して、我々だけ。一体なんだ、狙撃が必要な状況がでたのか。
いくらかの想定が頭の中を駆け巡った。その時、隊員がこちらも慌てた様子で報告に来た。

「穂高隊長!敵に動きがありました!」
「うん」

一つ返事を返す。あっちから来たと思えば今度はこちらか、忙しい日だな。ウナの話は気になるが、詳細を聞くまではどう動けるものでもない。ひとまずは目の前の仕事を片付けるとする。

「ウナ、その話は後で聞こう。使いの者に直接な。先にこちらを片付ける事にする」
「あ、ああ。わかった」

ウナの背中をポンと叩くと、向き直って報告に来た隊員に向かって言った。

「よし、行くぞ。案内してくれ」


……


監視をしていた部隊というのは、兵站に関わるものではない。歩兵の集団であるのだが、どうやらこの部隊にルシヤのお偉いさんが来て居るようなのだ。
敵の歩哨や斥候に見つからぬように遠巻きに監視していたのでまだ姿を見てはいないが、兵卒の態度から見て、将軍クラスのなにかがいる。そう踏んでいる。

「ここで討ち取れたら、戦争をひっくり返せるかもな」

ぼそり、と口の中で呟いた。
足が悪いのか、一人の将校が杖をついて出てきた。軍帽を深くかぶっていて顔が確認できないが、その着衣から将官であることがうかがえる。

「こいつは大物だ。敵の司令官かもしれん」

立派な星が沢山ついたお洋服だ、羨ましい。星の数が増えて喜ぶのは幼児と軍人って相場は決まっている。こいつが坊やでなければ将軍のはずだが。

「どうしますか」
「やるよ」

一人の隊員に聞かれたことに短く返事をしながら、雪兎を組み合わせて弾を籠めた。視界から敵の将校を外さないようにして、銃口をそちらに向けた。反動を大地に全て預けた、伏射の姿勢をとる。艶のない黒が、吸い込まれそうな銃身を塗りつぶしている。
敵に気取られぬように、静かに狙撃に必要な準備を終えた。あとは引き金を引くだけだ。

皆瞬きをするのも忘れてジッとその瞬間を待った。
聞こえるのは風の音のみ。

敵はここからだと私に対して横を向いているが、問題はない。雪兎の威力であれば身体のどこに命中しても命はないからだ。
識覚によって見える弾道の糸を、敵将校の体の真ん中に合わせて、引き金を引いた。

ドンッ!

火薬が炸裂する音と共に、火を吹いた銃口が跳ねた。巨大な銃弾が空間を裂いてうねりを上げる、音を遥かに追い越して真っ直ぐに……!
百発百中の穂高の狙撃である。
しかし引き金を引くのが早いか、彼奴が早かったのか。瞬間、敵の将校は身を翻し銃弾を回避した。
杖をついたその身体で、上半身をひねるだけで雪兎の銃弾から逃れおおせたのだ。弾道は尾を引いて虚空を引き裂き彼方に消えた

周りの隊員に動揺が走った。
そして私にも。

あり得ない、このタイミングで回避できる訳がない。いや、以前もこんな事があった。
まさか、まさかアイツは。

敵の将軍が、帽子を脱いだ。
黄金の髪が太陽の光を受けて、広がった。

ルフィナ。
ルフィナ・ソコロワ!

捕虜として捕らえた筈の女士官が、再び敵として立っていたのだ。

なぜここにいる?
いや、なぜそんな格好をしている。あれは明らかに彼奴の軍服ではない。
高速で巡る思考が一つの結論に達した。

「……ハメられた!」
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