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第20話
しおりを挟む夕飯をデリで頼み、片付けを終えて二人でソファに並んで座り、夕涼みを楽しむ。外からは心地よい虫の音が聞こえる。つい、うとうとと寝てしまうと、佳純は肩を揺すり起こそうとする。んん、と呻きながらも、気持ちよさに身を任せ、ソファで丸くなる。彼はため息をついて、僕を横抱きにし階段を登る。久しぶりの彼の腕の中で、その胸元に擦り寄ると甘い匂いが鼻をくすぐる。暗い部屋のベットに優しく降ろされる。去っていく腕を力なく指をかける。
「佳純…」
ゆらめく視界で名前を囁く。しかし彼は淡く微笑み、去っていってしまった。ドアが閉まり、月明かりが部屋を照らす。
熱い吐息が繰り返し溢れ、腹の奥でじりじりとオメガが焦がれているのに気づいてしまう。自分の身体が欲に芽生えてしまうのに躊躇う。発情期はこの前終わったばかりだ…。一度、吐精したら落ち着くかもしれない、と僕は諦めて、パジャマの下に手を差し込む。
「ん…」
胸の尖りに指をかけ、柔く揉みこみ先を撫でる。ぞくぞくと背筋が痺れ、下半身に熱が集まる。空いている左手で布越しに陰茎を撫でると、内股がびくびくと震える。さりさりとリネン地のひっかかりの刺激が僕の劣情をより高める。服を汚してしまう、と、下着ごとズボンから足を抜き、床に落とす。膝を立てる、中心が芯を持ち立ち上がっている。それを手で包み、上下に繰り返し擦り上げる。透明な雫と混ざって、くちゅくちゅと水音が静かな部屋に響く。
「はぁ….ぁん…っ、すみぃ…」
目を瞑ると彼の汗の滴り眦を欲に染める彼を思い出してしまう。その瞬間に後ろのオメガが、ぎゅう、と収縮しだし、存在を主張し出す。裏筋をなぞり、先端でぬめぬめと手のひらで擦る。腰が浮き、揺らめき出す。爪先に力が入り、丸まってきた。
「あっ、あっ…、すみ…か、すみ、ぃっ」
唇をきつく噛み締めると手のひらに、ぴゅ、ぴゅ、と精を吐き出した。ふるふると身体が弛緩を繰り返し、しばらくすると体温も引いてきた気がする。それに比例して、腹の奥がアルファを求めて、きゅんきゅんと疼く。また、呼吸があがってきてしまい、薬を飲もうかと身体を起こし、弱い膝で立ち上がる。錠剤を握りしめてから、それを引き出しにしまい、部屋を出た。
隣の部屋にノックをしてから、静かに扉を開けると、ベットライトをつけた同じような間取りの部屋で佳純はベットの上で読書をしていた。僕を見つけると、本をたたみ、身体を起こした。
「ごめ…佳純…、なんか、発情期、かも…」
はぁ、はぁ、と肩で息をして、彼に近づく。佳純は、やや眉根を寄せて僕を見つめている。ぎ、と音をさせて、ベットの上に座る佳純の上に跨る。
「ごめん……、た、すけて…」
肩に両手をついて、身体を寄せる。なんてずるい言い方なのだろう、と少し嫌な気持ちもあったが、それでも彼が触れてくれるなら、嬉しいと思った。どくどく、と心臓が力強く働く中、彼の反応を待つ。ベットサイドの引き出しから錠剤を取り出し、彼は飲み込んだ。何かと思い、顔を起こすと、あの瞳と交わり、ゆっくり瞼をおろし、唇を合わせた。
「んっ…」
佳純の唇の熱と湿り気に、後ろが濡れるのがわかった。佳純は顔を引くが、僕は追いかけるように唇を押し付けた。逃げないように佳純の頭を手で包み、角度を変えて何度も吸い付く。舌先でちろちろと、唇の割れ目をなぞる。やがて、佳純も唇を吸い返してくれ、喜びに頬がゆるみ動きが大きくなる。
「いい、んだな…?」
その問いかけに瞼をあげると、彼はまばたきせず、じっと僕を見つめていた。吸い付いていた彼の上唇を離して、彼にだけ聞こえるように声を落として囁く。
「佳純が、いい…」
わ、と声を漏らす間もなく、佳純にベットに引き込まれる。佳純越しに天井がある。じ、とまた見つめられ、待ち遠しかった彼の体温への愛おしさにじわじわと瞳が濡れゆらめく。その瞳が、もう一回言えと言っている気がして、頬に手のひらを当てがいながら、同じことを囁いた。熱い吐息が彼の唇に溶け、柔らかく吸い付く。もう一度、頭を浮かせて、彼に口付けをする。
「佳純……たくさん、撫でて…」
瞳の奥で、彼が何かに迷っているような気がした。一体、何に悩んでいるのかわからない自分がもどかしい。でも、少しでも、僕の気持ちが伝わるように、彼の頬をなぞる。僕のお願い通りに、ひんやりとした手のひらが頬を撫でる。その手首を握り、頬を擦り寄せる。手のひらに唇をあてて、この温度をあげるように吐息をゆっくりと吐く。
「この優しい手が…優しい佳純が……」
出かけた言葉を伝えられずに、口付けにすり替えた。首に両腕を回し、ぎゅ、と抱きしめる。甘い匂いを放つ首筋に何度も吸い付き、柔く噛み付く。歯を少しだけたてると、微かに彼の身体が揺れる。
「七海…」
やっと、名前を呼んでくれた。喜びで目尻が濡れ、腹の奥がきゅん、と痺れた。
パジャマの下に、大きな手のひらが這われ、脇腹から、背中を通ってめくりあげられる。期待に膨らみ立ち上がる小さな突起を熱い粘膜が覆った瞬間、びりびりと強い刺激が頭を通り背筋を下り、ずくりと腰に重く響いた。
「ぁあっ…あっん、んぅ…それ、だ、めぇ…」
ちゅ、ちゅと角度を変えながら口づけと同じように吸われると、熱い舌がころころとキャンディのように口の中で転がしたり、何度も弾かれたり敏感な先端を押しつぶされたりする。飴と鞭を使い分けられているかのような緩急ある愛撫に何も考えられなくなる。ちゅぱ、と唇が離されると、もの寂しさに見つめてしまう。ちら、と佳純の瞳とぶつかるが、先程とは違い明確な情欲が滲んでおり、オメガがまた濡れ溢れるのを感じた。ねだろうかと声を出そうとした瞬間に、今度は反対側の乳首を口に含まれる。たまらず、大きな声が出てしまう。その間に彼のきれいな指は、僕の後ろに挿入される。にゅ、にゅ、と抜き差しを繰り返され、むず痒さを感じていると、ぐ、と奥まで長い指が押し込まれ、ばらばらと空間を作るように暴れる。
「ひぃ、っ、んん、あぁ」
快感に堪えるように指を噛んでいると、彼の端正な顔が近づいてきて、手を握られる。僕よりも一回り大きい手が、包み込み、噛んでいた指先にキスを落とされる。うっすらついてしまった歯形を労るように優しく舐められると恍惚と身体が震え、吐息がもれる。
「七海……」
「あぅ、っ、ん…」
大切なもののように丁寧に優しく、熱く名前を囁かれて、口付けをしてもらえると、佳純の大切な何かになれた気がして、今だけでも、彼の一番になれている錯覚に陥り、ずっとこうしていたいと心から願ってしまう。唇を甘く愛撫され、孔に熱い滾りがあてがわれる。は、と吐息が漏れたのと同時に、りゅりゅ、と挿入される。
「んぁ、ぁあ……っ」
待ち焦がれた彼の久方ぶりの再来に全身が喜び、粟立ち、前からはびゅる、と白濁が散った。ぎゅうぎゅうと彼をナカで抱きしめてしまい、佳純は性急に律動を始める。だんだんと漂う佳純の匂いが濃くなり、頭がくらくらとしてくる。目線を下げると臍の下に血管が浮き出ていて佳純の精が近づいてきていることがわかる。目線を上げると切なげに目を細め、汗の滴をつくりながら、熱い吐息で名前を囁く美しい顔がある。少しでも長くこの時間にとどまりたくて、下唇を噛みながら快感に眉根を寄せ耐える。
「ん、んぅ、っ、んん、ぁっ、ぁん」
ごりゅ、と弱いしこりを熱い塊が強くこすったり、奥の入り口をノックしたり、毎回の抽送でいじめられる箇所は異なる。ぎゅ、と顔に力を込め、まだイかないように耐えていると、佳純の動きが緩慢となり、なぜと目線で訴えかけると眉間や瞼、下唇に優しく口付けを落とされる。ちゅ、ちゅ、と可愛らしいリップ音を鳴らしながら緊張をほぐされる。安心したように息をつくと、甘く深い口付けをしてもらう。唾液を分け合いながらとろけるようなキス。ゆっくりとまたピストンが始まる。ノットが膨らみ、奥ばかりを愛されると、きゅんきゅんと疼き、早く愛しい精子が欲しいとキスをする。
「んっんんぅっ…っ……」
舌を飲み込まれるように彼の口内で吸われるのと同時に奥を思いきり割り開かれ、身体が大きく跳ねた。子宮から溢れてしまうほどの液を注がれ、僕も吐精する。
「っ…七海…っ」
長い快感に悶える彼の顔中に労るようにキスを降らせる。指を絡ませた手をぎゅ、と握られ、その力強さにも腰が甘く痺れる。ナカにたっぷりと精を注がれ、僕は皮膚の上から撫でる。
「ん…まだ、でてる、ね…」
「っ…いう、な…」
とちゅ、とちゅ、と淡く腰を打ちつけられ、小さく喘ぐ。そして、快感に濡れる顔をそっと撫で、汗の滴る前髪を払ってやる。
「嬉しい…」
ありがとう佳純…とつぶやくと、お互いの唇に吸い込まれていく。ちゅ、ちゅ、と吸い合うと、固く抱きしめ合った。身体ごと、一つに混ざり合ってしまってほしいと願いながら。
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