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須弥山攻略

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須弥山の道は一本道だと思っていたんだけど、ユキちゃんの後を追ってみて、そうでないことが分かった。

道なんかなさそうな所にユキちゃんはどんどん分け入ってゆく。
私達はユキちゃんを見失わないように、必死について行くんだけど、道はちゃんとあった。

よくよく見ると、その道に入るには目印の水晶が埋まっていたり、木に印がついていたりする。
如何によく観察して行動するか、その一言に尽きるのだろう。

ユキちゃんがいてくれなかったら、私達は大いに迷い、目的を遂げることなんて出来なかったに違いない。

流石、須弥山に住んでいただけのことはある。

そしてその道すがら、鬼やらあやかしやらの出ること出ること。
見るからに雑魚って感じなので、武器のムチバージョンでバシバシと叩きながら通り過ぎた。

なぜか悠也さんは「おいおい」と言い、呆気にとられながら私の姿を見てため息を吐いた。

「あの、どうかしました?」

不思議に思って聞き返すと、悠也さんは苦笑いをした。

「いやなに、やけに簡単に倒すなぁと思ってね」

「だって雑魚ばっかりじゃないですか。こんな所に時間を取られたくないんで」

「ははは···。あの鬼たち、レベルの高いヤツなんだがなぁ」

ぼそっと呟いた悠也さんの声は、私の耳には入らなかった。

「深月、あの鬼仲間になりたそうにこちらを見てるんだが、放って置いていいのか?」

「いいのいいの、放って置いて。あれって雑魚でしょう、弱すぎますよ。先を急ぎましょう」

「いや、あいつは中ボスクラスなんだけど」

名残惜しそうに後ろを気にする悠也さんを無理やり引っ張って、私はまた鬼を倒しながら先を急いだ。

「深月、宝玉がばらばらと落ちているが持って行かなくてもいいのか?」

さっき倒した鬼たちが落としていったらしい宝玉を、悠也さんは丁寧に拾い上げながら言った。

「悠也さん。私、一刻も早くユキちゃんを助けたいんです。だから急いで行きましょうね」

「おいおい、法具を作るのに宝玉は欠かせないだろって、もういないし。しょうがないな、俺が持っていこう」

そんなこんなで、道中はやっと敵が少なくなってきたようだ。
小高い山の中腹辺りに、白い神殿のような建物が見えてきた。

「うわぁ!綺麗な所」

「そうだな」

緑溢れる中にある白い神殿はあまりに美しく、私達は息を呑んだ。
ここはとても清浄で光りに包まれており、聖域に入ったような感覚があった。

ユキちゃんは、脇目も振らずにその大きな建物に入ってゆく。

「ユキちゃん、待って!」

そう叫ぶと、私達も急いでその後を追った。


建物は本当に神殿みたいに、厳かな雰囲気があり、シーンと静まり返っている。

建物の中なのに、光が降り注いでいるようで、とても気持ちが良い。

私達以外の生き物の気配は感じられない。
鬼やあやかしの類は、光が強すぎてこの空間には入れないんじゃないかな。

「なあ深月、さっきから白虎は何をやってるんだ?」

「えっ?」

悠也さんに言われてユキちゃんを見れば、何やら壁に向かってガリガリと引っ掻いている。

その部分をよく見れば、壁に亀裂が入っており、そこをさっきからガリガリやっているらしい。

もしかしたら、隠し扉とか秘密の抜け道があったりするのかな?

私はワクワクしながらユキちゃんをひょいと抱き上げ、亀裂のある辺りの壁を念入りに調べた。

丁度私の腰の位置に窪みくぼみがあるのを発見した。
それはほんの僅かに彫り込みがなされ、よく観察しなければ見落としてしまうものだ。
その彫り込みは三日月のように見える。

私は慎重に三日月形の窪みに触れた。

「うわっ!?」

ガコっと音がして、急に扉があらわになったかと思うと、それはスライドして消え去った。

壁にぽっかりと空間ができた。

「ああ、びっくりした」

「これって罠とかじゃないよな?」

そう言って悠也さんは、あちこち調べてくれている。

「大丈夫そうですか?」

「うん。特に問題はないみたいだ。先に進むかい?」

「もちろん!行きましょう」

私達はそこから続く回廊に入って歩を進める。

どのくらい歩いたのか、回廊の先が見えた。

しかしそこは行き止まりになっており、これ以上は進めないように見える。

「行き止まりだ。どうする、引き返そうか?」

悠也さんの問いかけに、私は首を横に振った。
この長い回廊の先がただの行き止まりなんて、どう考えても不自然だから。
引き返すのは、行き止まりの壁を調べてからでも遅くはないよね。

「たぶんさっきと同じようなからくりがあるんでしょう。ちょっと待ってて下さい、調べてみます」

壁を隅から調べると、壁の中央にやはり同じような三日月形の窪みがあった。

「やっぱり!窪みがある」

「お!やったな」

私と悠也さんは頷き合った。

先ほどと同じようにその窪みに触れてみる。
しかし、今度はその窪みをいくら触ってもうんともすんとも言わず、周辺に何の変化も見られなかった。

「あれ、おかしいな?」

首を傾げながら、もう一度その窪みをよく見てみると、三日月形の窪みの上にもう一つ窪みがあった。

「この形、どこかで見たことがあるんだけど、何だったかな?」

「うにゃうにゃ」

ユキちゃんが鳴きながら私の左手をぽんと叩いた。

ん、何なの?

私は左手を開き、ああそういえばクラミツハの勾玉を持っているんだったなと思った。

あっ!!この勾玉の形!

そうか!三日月形の窪みの上にあるのは、勾玉の形の窪みだ。

「もしかしたら、これをはめ込むのかな?!」

私はその窪みにクラミツハの勾玉をはめ込んでみた。

それは窪みにピタリとはまった。
勾玉は突如、金色に変色し輝き出した。

勾玉は大きく光り輝き、その下の三日月形の窪みにその光が流れ込んだ。
連動しているようで、三日月形の窪みも金色に輝く。
そして、三日月は月が満ちるように丸い形になり、満月の中央からすっと縦に亀裂が入り、光がその隙間から漏れ出した。

観音扉が開くように壁は左右に分かれ、道は開かれた。
気が付けば私の手には勾玉が戻っている。

この先はどうも大きな部屋になっているようだ。
そしてこの部屋には、何かが私を待っている。
そんな予感がしてならない。

ドキドキと胸が高鳴り、私は緊張しながら一歩を踏み出した。

あれ?
その部屋に入った途端、私は驚いて立ち止まり辺りを見回した。

ここは建物の中のはずなんだけど、天井は広く高くプラネタリウムのよう。
満天の星空に満月が浮かんでいる。

「わぁ、凄い!なんて綺麗な星空」

夜空の星々を見上げる私の呟きに、ふふっと笑う声が聞こえた。
声の方を見れば、男性がこちらに歩いてくる所だった。
その男性は黒い細身のスーツに身を包んでいる。
シンプルな装いなのに神々しい。
長めの黒髪をかき上げるその姿は、とても華があり目が離せなくなった。

「よく来た。神々の勾玉を持つ者よ。汝、名はなんと申す?」

その男性は部屋によく響く低い声で、私に返事を求めた。
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