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武器
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爺は左手に持つ杖を私に向けた。
「美しく、類稀な戦闘センスを有し、無尽蔵に溢れる霊力を持ち、全ての者を従えうるそのカリスマ。儂が千年をかけて追い求めた理想の器よ。大王の依代とは雪村深月、お主のことじゃ」
私が闇の大王の依代?!
そんな!
それって、闇の大王とやらに私の肉体を明け渡すってことなの?!
私が私ではなくなるという事じゃない。
そんなの絶対に嫌よ。
私も爺の標的になっていたことに驚くとともに、爺の近くにいては本当に危険だと感じた。
今は武器もなく戦う手段はないけれど、一刻も早く彩香を救出しないと命に関わる。
「ふざけるな!!お前なんかに深月を渡せるか!くらえ、破魔札」
悠也さんが私を護るために前に出て呪符を飛ばした。
怒り心頭で投げられた札は、見事爺に命中した。
しかしそれは爺に当たるとすぐに、ジュっと音を立てて消滅した。
「な、何が起こった?!呪符が消滅するなんて、そんな馬鹿な!」
「ほう。人間にしては良い呪符を使うのう。だが、それがどうしたというのだ?そんな技では儂にダメージを与えることはできんぞ」
そう言うと、爺は月雅を右へ払い、そこから黒い疾風が巻き起こった。
「まずい!結界の呪符」
悠也さんは呪符を一気に五枚投げた。
それは中央に一枚、左右の対角に一枚ずつ並び、それらは結合して結界の壁を作り上げた。
そこに、黒いかまいたちが襲い掛かる。
かまいたちが結界に突き刺さり、ピシピシっと亀裂が入る。
「こんな簡易な結界じゃ奴の攻撃を防ぎきれない。深月頼む、結界を張ってくれ」
悠也さんにそう言われたけれど、月雅がない今、まともな結界を張る自信はない。
「悠也さん···私」
躊躇していると、悠也さんは確信を持った口調で言った。
「心配するな、お前に出来ないことはない。とにかくやってみてくれ」
そうだよ。
私がやらないで、誰がやるの!
悠也さんの結界が破られたら、どの道命はない。
月雅がないだけで、随分と弱気になっていた事に苦笑する。
とにかく、やってみよう。
私は目を瞑る。
胸の前で手を合わせ、深く呼吸を繰り返す。
合わせた手の中から金色の光が溢れ出した。
手の中から風と共に踊りだした光は、どんどん大きくなってゆく。
そして、キラキラと輝きながら辺りに放射され、私達を柔らかく包み込んだ。
イメージするのは、私達を護る結晶。
闇に与する何者も寄せ付けない、慈愛に満ちた光の球体。
悠也さんの結界も覆うほどの、強力な結界が完成した。
「できた···」
私の結界に、爺は攻撃を加えるけれど、全て弾き返しており、しばらくの安全は確保できた。
月雅がなくても、結界が張れる事がわかり、その事実に胸をなでおろす。
そして、それだけではなく、胸の奥から不思議と力が湧き上がってくるようだ。
なんだろう、この感覚は?
「な!心配すること無いだろう?」
悠也さんに背中を押してもらったお陰だ。
自信が無かった私は、心配ないと言ってもらわなければ、いつまでもできないと思い込んでいたに違いない。
「悠也さん、ありがとう」
感謝の気持でそう言うと、はにかみながら悠也さんは笑った。
「どうしてもお前に伝えたいことがあって、結界を張ってもらったんだよ。お前、月雅がなければ戦えないと思ってないか?」
「えっ!その通りです」
どうして分かったんだろう?
結界や法具について、私が悩んでいたことが全てお見通しだったようだ。
「法具がなくても、戦うことはできる。拓斗が法具を手に入れる前、どうやって戦っていたか覚えてるか?」
「あっ!!」
そうだ!
拓斗さんはどこからか金色の弓矢を取り出して戦っていた。
「本来、陰陽師は生まれながらに特有の武器を持っている。それは霊体に刻印されていて、霊力の開放で体外に現れる。法具師はそれを見極め、法具として作り上げ、世に出すんだ。だから忘れるな。元々お前の中には武器が存在しているということを」
「私の中に、武器がある?!」
「そうだ。法具無しでは霊力の消耗はかなり激しいと思う。だが、十分に戦えるはずだ。いいか、何も怖れることはない。自分の中にある力を信じて戦うんだ」
そうなんだ!
私の中に武器がある。
やったことはないけれど、現状を打開するには自分の身体の中の武器を取り出すしかない。
爺を倒して彩香を助けよう。
意を決した私は、拳を固く握りしめ言った。
「悠也さん、わかりました。私、やってみます」
「やり方は、俺が言わなくても知ってるはずだ。今、結界を張ったのと同じように集中すれば、道は開ける」
「はい!」
私は両手を胸の前で合わせる。
目を瞑り深く呼吸をする。
足元から螺旋状に風が起こり、髪を巻き上げる。
先程から感じていた胸の奥からの力。
その力は大きくなって、私に訴えかける。
ここから出してと言っているようだ。
私の鼓動は高鳴り熱を帯びる。
さあ、おいで!
私は胸の前で合わせていた手を広げる。
すると、手の中には小さな光の塊が生まれた。
そこに私の胸の奥から、手から、全身から、ありったけの力が注ぎ込まれる。
小さな光の塊は、更なる光に包みこまれ輝きを増すと、その姿を変容させた。
私の手の中に現れたのは、白銀に輝く扇。
それ自身が光を放ち、大変美しく神々しくて目が離せなくなる。
「これが私の霊体に刻まれた武器!」
やった!
結界同様、武器も取り出すことができた。
そっと握りしめてみる。
私と武器は繋がり、またも大きさを変える。それだけではなく、形も変わったような気がするんだけど。
気のせいかな?
今まで持っていた月雅とは全く違う、新しい私の武器。
手に馴染む、というより私の身体の延長という感じだ。
ただ気を抜くと、存在自体が薄くなって消えそうになるから怖い。
常に集中して、形を保っていなければならない。
これは確かに霊力を食う。でもやってやれないことはないのだ。
だけど、祭雅の月雅と私の霊体に刻印された武器の形状は、なぜ異なるんだろうか?
そんな疑問は残るけれど、とにかく嬉しい。
なぜって、この武器は私が創り出した私だけの物だから。
喜び勇んで悠也さんの目の前に武器をかざした。
「悠也さん、できました!」
悠也さんはしげしげとそれを見つめた。
「深月、すごいじゃないか!やったな」
「はい!」
嬉しさが込み上げ、見るからにテンションの上がった私を諌めるように、悠也さんは真面目な表情で語りかけた。
「いいか、武器があるからって油断するな。奴は月雅と式神を奪った上に、闇に落とした。そして、人質も取っている。騙し討ちなどは平気でするだろう。一筋縄ではいかないから覚悟してかかれ。俺も呪符を使って、できるだけ援護するから、集中を切らすなよ」
私は「はい!」と答えて大きく頷いた。
油断大敵ということね。
確かに、爺は普通の人間ではない。というより人外だ。
左手に杖、右手に私の月雅を持つくらいだから、その能力は計り知れない。
思いもよらぬ行動に出ることだろう。
この戦いはどう考えても私には不利だ。
けれど、この武器を手にしたことで、わくわくとして、気分は高揚してくる。
早く戦ってみたい、と思うのは悠也さんには内緒にしておこう。
「美しく、類稀な戦闘センスを有し、無尽蔵に溢れる霊力を持ち、全ての者を従えうるそのカリスマ。儂が千年をかけて追い求めた理想の器よ。大王の依代とは雪村深月、お主のことじゃ」
私が闇の大王の依代?!
そんな!
それって、闇の大王とやらに私の肉体を明け渡すってことなの?!
私が私ではなくなるという事じゃない。
そんなの絶対に嫌よ。
私も爺の標的になっていたことに驚くとともに、爺の近くにいては本当に危険だと感じた。
今は武器もなく戦う手段はないけれど、一刻も早く彩香を救出しないと命に関わる。
「ふざけるな!!お前なんかに深月を渡せるか!くらえ、破魔札」
悠也さんが私を護るために前に出て呪符を飛ばした。
怒り心頭で投げられた札は、見事爺に命中した。
しかしそれは爺に当たるとすぐに、ジュっと音を立てて消滅した。
「な、何が起こった?!呪符が消滅するなんて、そんな馬鹿な!」
「ほう。人間にしては良い呪符を使うのう。だが、それがどうしたというのだ?そんな技では儂にダメージを与えることはできんぞ」
そう言うと、爺は月雅を右へ払い、そこから黒い疾風が巻き起こった。
「まずい!結界の呪符」
悠也さんは呪符を一気に五枚投げた。
それは中央に一枚、左右の対角に一枚ずつ並び、それらは結合して結界の壁を作り上げた。
そこに、黒いかまいたちが襲い掛かる。
かまいたちが結界に突き刺さり、ピシピシっと亀裂が入る。
「こんな簡易な結界じゃ奴の攻撃を防ぎきれない。深月頼む、結界を張ってくれ」
悠也さんにそう言われたけれど、月雅がない今、まともな結界を張る自信はない。
「悠也さん···私」
躊躇していると、悠也さんは確信を持った口調で言った。
「心配するな、お前に出来ないことはない。とにかくやってみてくれ」
そうだよ。
私がやらないで、誰がやるの!
悠也さんの結界が破られたら、どの道命はない。
月雅がないだけで、随分と弱気になっていた事に苦笑する。
とにかく、やってみよう。
私は目を瞑る。
胸の前で手を合わせ、深く呼吸を繰り返す。
合わせた手の中から金色の光が溢れ出した。
手の中から風と共に踊りだした光は、どんどん大きくなってゆく。
そして、キラキラと輝きながら辺りに放射され、私達を柔らかく包み込んだ。
イメージするのは、私達を護る結晶。
闇に与する何者も寄せ付けない、慈愛に満ちた光の球体。
悠也さんの結界も覆うほどの、強力な結界が完成した。
「できた···」
私の結界に、爺は攻撃を加えるけれど、全て弾き返しており、しばらくの安全は確保できた。
月雅がなくても、結界が張れる事がわかり、その事実に胸をなでおろす。
そして、それだけではなく、胸の奥から不思議と力が湧き上がってくるようだ。
なんだろう、この感覚は?
「な!心配すること無いだろう?」
悠也さんに背中を押してもらったお陰だ。
自信が無かった私は、心配ないと言ってもらわなければ、いつまでもできないと思い込んでいたに違いない。
「悠也さん、ありがとう」
感謝の気持でそう言うと、はにかみながら悠也さんは笑った。
「どうしてもお前に伝えたいことがあって、結界を張ってもらったんだよ。お前、月雅がなければ戦えないと思ってないか?」
「えっ!その通りです」
どうして分かったんだろう?
結界や法具について、私が悩んでいたことが全てお見通しだったようだ。
「法具がなくても、戦うことはできる。拓斗が法具を手に入れる前、どうやって戦っていたか覚えてるか?」
「あっ!!」
そうだ!
拓斗さんはどこからか金色の弓矢を取り出して戦っていた。
「本来、陰陽師は生まれながらに特有の武器を持っている。それは霊体に刻印されていて、霊力の開放で体外に現れる。法具師はそれを見極め、法具として作り上げ、世に出すんだ。だから忘れるな。元々お前の中には武器が存在しているということを」
「私の中に、武器がある?!」
「そうだ。法具無しでは霊力の消耗はかなり激しいと思う。だが、十分に戦えるはずだ。いいか、何も怖れることはない。自分の中にある力を信じて戦うんだ」
そうなんだ!
私の中に武器がある。
やったことはないけれど、現状を打開するには自分の身体の中の武器を取り出すしかない。
爺を倒して彩香を助けよう。
意を決した私は、拳を固く握りしめ言った。
「悠也さん、わかりました。私、やってみます」
「やり方は、俺が言わなくても知ってるはずだ。今、結界を張ったのと同じように集中すれば、道は開ける」
「はい!」
私は両手を胸の前で合わせる。
目を瞑り深く呼吸をする。
足元から螺旋状に風が起こり、髪を巻き上げる。
先程から感じていた胸の奥からの力。
その力は大きくなって、私に訴えかける。
ここから出してと言っているようだ。
私の鼓動は高鳴り熱を帯びる。
さあ、おいで!
私は胸の前で合わせていた手を広げる。
すると、手の中には小さな光の塊が生まれた。
そこに私の胸の奥から、手から、全身から、ありったけの力が注ぎ込まれる。
小さな光の塊は、更なる光に包みこまれ輝きを増すと、その姿を変容させた。
私の手の中に現れたのは、白銀に輝く扇。
それ自身が光を放ち、大変美しく神々しくて目が離せなくなる。
「これが私の霊体に刻まれた武器!」
やった!
結界同様、武器も取り出すことができた。
そっと握りしめてみる。
私と武器は繋がり、またも大きさを変える。それだけではなく、形も変わったような気がするんだけど。
気のせいかな?
今まで持っていた月雅とは全く違う、新しい私の武器。
手に馴染む、というより私の身体の延長という感じだ。
ただ気を抜くと、存在自体が薄くなって消えそうになるから怖い。
常に集中して、形を保っていなければならない。
これは確かに霊力を食う。でもやってやれないことはないのだ。
だけど、祭雅の月雅と私の霊体に刻印された武器の形状は、なぜ異なるんだろうか?
そんな疑問は残るけれど、とにかく嬉しい。
なぜって、この武器は私が創り出した私だけの物だから。
喜び勇んで悠也さんの目の前に武器をかざした。
「悠也さん、できました!」
悠也さんはしげしげとそれを見つめた。
「深月、すごいじゃないか!やったな」
「はい!」
嬉しさが込み上げ、見るからにテンションの上がった私を諌めるように、悠也さんは真面目な表情で語りかけた。
「いいか、武器があるからって油断するな。奴は月雅と式神を奪った上に、闇に落とした。そして、人質も取っている。騙し討ちなどは平気でするだろう。一筋縄ではいかないから覚悟してかかれ。俺も呪符を使って、できるだけ援護するから、集中を切らすなよ」
私は「はい!」と答えて大きく頷いた。
油断大敵ということね。
確かに、爺は普通の人間ではない。というより人外だ。
左手に杖、右手に私の月雅を持つくらいだから、その能力は計り知れない。
思いもよらぬ行動に出ることだろう。
この戦いはどう考えても私には不利だ。
けれど、この武器を手にしたことで、わくわくとして、気分は高揚してくる。
早く戦ってみたい、と思うのは悠也さんには内緒にしておこう。
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