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5章
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「ラブラブだねぇ~。見てるこっちが恥ずかしくなるくらい。」
「・・・。」
「レタリングなんて基本的に別れたあと面倒だからってやらない人多いんだよ。」
「別れることが前提みたいに言うな。」
Norのオーナー、神崎さんは湊都の古くからの友人らしく先程から親しげに話している。
「えっと、2人ともお互いの名前でいいんだよね?」
「あぁ。」
「りょーかーい。じゃあナナちゃんはあっちね。湊都が嫉妬するといけないから。」
「あ、はい。」
刺青を彫るため軽装で来た私を神崎さんの目に長く写しておきたくないらしい湊都。
それを知ってか別の部屋の施術室で女性の刺青師の方に彫ってもらうことになった。
「よろしくお願いします。」
「はーい。確認だけどデザインはこんな感じでいい?」
「はい。大丈夫です。」
「刺青は2回目?」
「はい。」
「そんなに他人行儀にしないで?多分長い付き合いになると思うから。」
「それってどういう・・・。」
「はい、じゃあ服脱いで。」
「あ、はい。」
言われた通りに服を脱ぐと位置やデザイン、機材の確認に入る。
「天木組は常連さんなのよ。あ、私柚香っていうの。よろしくね。」
「ナナです。よろしくお願いします。」
「でも、若がこんなに可愛くて若い子を連れてくると思わなかった。」
少し笑いながら言う柚香さん。
「湊都って前に彼女連れてきたことあるんですか?」
「おやぁー?気になるの?」
意地悪く笑う柚香さん。
私の質問を完全に楽しんでる。
「え、あ、まぁ少しは・・・。」
「良かったね、連れてきたことは1度もないよ。」
柚香さんの言葉にほっとする自分に少し戸惑う。
「ただ若って女癖悪いから。」
「そう、なんですか?」
「ほら、テクニックとか凄くなかった?」
少し小声になる柚香さんに笑ってしまう。
「そうですね。」
「まぁ、そういう時期もあるよ。若は顔だけでも女が寄ってくるだろうにあの肩書きでしょ?半端ないのよ。」
「そうでしょうね・・・。」
「でもこんなにベタ惚れしてる女の子、初めてなんじゃないかな。」
「そうなんですか?」
「女の子に対して若は感情とか抱いたことないと思うよ。ただの“人間”、“生き物”。」
「生き物って・・・。」
「興味無い人にはほんとに酷いから。でもそれじゃなきゃ極道の世界ではやって行けないんだろうね。」
湊都の生きる世界。
私が知らなかった湊都。
知れば知るほど湊都に堕ちていく。
「刺青入れていくけど良い?」
「はい。お願いします。」
「ヤれないのって結構辛いな。」
「自分を抑える練習。」
「ナナは思わないのか?」
「セックスしたい、って?」
「あぁ。」
「思うよ?だけど我慢するのは慣れてるからね。」
「俺も見習わないとな。」
窓辺、湊都に抱きしめられて街を見る。
いつでも変わらない繁華街の明るさ。
遠くから見るからこそ繁華街の寂しさが分かる。
弱いから光って目立とうとして強く見せる。
繁華街はそういう人の集まり。
本当は弱いけど強く見せたい者たちの。
「湊都。」
「ん?」
「神崎さんとはいつから友達なの?」
「大学だ。クラブであった。」
「湊都がクラブとかイメージできないんだけど。」
「ひたすら酒飲んで上の席から眺めてたよ。毎日のように通いつめて違う女と寝てた。」
「本当に女癖が悪かったのね。」
「・・・柚香に何か言われたか?」
「・・・いや?何も。」
湊都が柚香さんの名前を口にした瞬間に少し胸が苦しくなった。
あんまり女性の名前を口にしないから・・・?
「神崎が毎日通う俺に気づいて声をかけてきたんだ。それがきっかけで何だかんだ一緒にいる。」
「いいね。そういう関係。」
曇り空。
星も月も見えない夜。
すっかり習慣となったこの時間。
心を落ち着かせてくれる空間のはずなのに今日はなんだか虚しくなる。
「寝よっか。」
「あぁ。」
湊都が私を静かに抱き上げる。
2人でベッドに入り、軽くキスをする。
「おやすみ。」
「おやすみ。」
抱きしめあって眠りにつく。
虚しさも、心に引っかかる蟠りも今は何も、考えたくない。
「・・・。」
「レタリングなんて基本的に別れたあと面倒だからってやらない人多いんだよ。」
「別れることが前提みたいに言うな。」
Norのオーナー、神崎さんは湊都の古くからの友人らしく先程から親しげに話している。
「えっと、2人ともお互いの名前でいいんだよね?」
「あぁ。」
「りょーかーい。じゃあナナちゃんはあっちね。湊都が嫉妬するといけないから。」
「あ、はい。」
刺青を彫るため軽装で来た私を神崎さんの目に長く写しておきたくないらしい湊都。
それを知ってか別の部屋の施術室で女性の刺青師の方に彫ってもらうことになった。
「よろしくお願いします。」
「はーい。確認だけどデザインはこんな感じでいい?」
「はい。大丈夫です。」
「刺青は2回目?」
「はい。」
「そんなに他人行儀にしないで?多分長い付き合いになると思うから。」
「それってどういう・・・。」
「はい、じゃあ服脱いで。」
「あ、はい。」
言われた通りに服を脱ぐと位置やデザイン、機材の確認に入る。
「天木組は常連さんなのよ。あ、私柚香っていうの。よろしくね。」
「ナナです。よろしくお願いします。」
「でも、若がこんなに可愛くて若い子を連れてくると思わなかった。」
少し笑いながら言う柚香さん。
「湊都って前に彼女連れてきたことあるんですか?」
「おやぁー?気になるの?」
意地悪く笑う柚香さん。
私の質問を完全に楽しんでる。
「え、あ、まぁ少しは・・・。」
「良かったね、連れてきたことは1度もないよ。」
柚香さんの言葉にほっとする自分に少し戸惑う。
「ただ若って女癖悪いから。」
「そう、なんですか?」
「ほら、テクニックとか凄くなかった?」
少し小声になる柚香さんに笑ってしまう。
「そうですね。」
「まぁ、そういう時期もあるよ。若は顔だけでも女が寄ってくるだろうにあの肩書きでしょ?半端ないのよ。」
「そうでしょうね・・・。」
「でもこんなにベタ惚れしてる女の子、初めてなんじゃないかな。」
「そうなんですか?」
「女の子に対して若は感情とか抱いたことないと思うよ。ただの“人間”、“生き物”。」
「生き物って・・・。」
「興味無い人にはほんとに酷いから。でもそれじゃなきゃ極道の世界ではやって行けないんだろうね。」
湊都の生きる世界。
私が知らなかった湊都。
知れば知るほど湊都に堕ちていく。
「刺青入れていくけど良い?」
「はい。お願いします。」
「ヤれないのって結構辛いな。」
「自分を抑える練習。」
「ナナは思わないのか?」
「セックスしたい、って?」
「あぁ。」
「思うよ?だけど我慢するのは慣れてるからね。」
「俺も見習わないとな。」
窓辺、湊都に抱きしめられて街を見る。
いつでも変わらない繁華街の明るさ。
遠くから見るからこそ繁華街の寂しさが分かる。
弱いから光って目立とうとして強く見せる。
繁華街はそういう人の集まり。
本当は弱いけど強く見せたい者たちの。
「湊都。」
「ん?」
「神崎さんとはいつから友達なの?」
「大学だ。クラブであった。」
「湊都がクラブとかイメージできないんだけど。」
「ひたすら酒飲んで上の席から眺めてたよ。毎日のように通いつめて違う女と寝てた。」
「本当に女癖が悪かったのね。」
「・・・柚香に何か言われたか?」
「・・・いや?何も。」
湊都が柚香さんの名前を口にした瞬間に少し胸が苦しくなった。
あんまり女性の名前を口にしないから・・・?
「神崎が毎日通う俺に気づいて声をかけてきたんだ。それがきっかけで何だかんだ一緒にいる。」
「いいね。そういう関係。」
曇り空。
星も月も見えない夜。
すっかり習慣となったこの時間。
心を落ち着かせてくれる空間のはずなのに今日はなんだか虚しくなる。
「寝よっか。」
「あぁ。」
湊都が私を静かに抱き上げる。
2人でベッドに入り、軽くキスをする。
「おやすみ。」
「おやすみ。」
抱きしめあって眠りにつく。
虚しさも、心に引っかかる蟠りも今は何も、考えたくない。
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