ナナ

楪 ぷぷ。

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5章

camellia

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犯罪を犯す女。



椿の裏言葉。



フランス小説、椿姫が由来となった花言葉。



パリに住んでいた高級娼婦マルグリット。



愛する人と一緒にいることを許されなかったマルグリット。



愛するゆえに犯した彼女の罪。



愛の罪は何よりも美しいもの。



永遠の愛。



「はぁ・・・。」



家に帰り、ベビードールに着替える。



まだ16時だけど窓辺でお酒を飲む。



「“誰ともいない時間は酷く孤独”か。」



湊都の言葉は今の私を的確に表した。



寂しいから夜の世界が恋しくなった。



孤独だから昼の世界に輝きを感じなかった。



湊都はいつでも私のことを分かってる。
理解してる。



誰よりも。



私よりも。



相変わらずぼーっと空を眺めているとガチャ、という音が聞こえた。



音と共に扉が開く。



「ただいま。」


「おかえり・・・早いね?」


「ナナの仕事先が決まってな。早く伝えたくて。」



そう言う湊都が愛おしくて抱きつく。



「・・・あんまり煽るな。」



いつもより低い声。



「煽ってないよ。」


「お前にとってはな。俺にとっては違う。」


「自分を抑える練習、するんじゃなかったの?」


「・・・。」



湊都のネクタイを引っ張って顔を寄せる。



自分からはあんまりしたことないキス。



「・・・ねぇ、シたい?」


「・・・我慢してるんだぞ、これでも。」


「いいよ、しなくて・・・。」


「お前・・・。」


「・・・湊都。」



切なげに名前を呼ぶと箍が外れたかのように激しくキスをする。



「んっ・・・。」



全てを喰らい尽くすかのような激しいキス。



リビングの壁に押し付けられる。



ゆっくりと唇を離す。



銀色の糸を引いて。



艶めかしく光る唇。



熱い吐息。



火照る体。



「火を付けたのはお前だからな。」



湊都の言葉に静かに頷く。



湊都は満足したようにまた私の唇を奪う。



今度は優しく、慈しむように。



甘く、小鳥のように。



“誰ともいない時間は酷く孤独だ”



じゃあ、その孤独は湊都が埋めてくれるよね。



私が寂しいって、孤独だって感じた時は。
いつでも傍に居て。



マルグリットになるのは嫌。



椿が持つもうひとつの意味“深い愛情”。
私を深く愛して。



マルグリットのように罪な私を、深く。









「湊都の・・・会社?」


「あぁ。それなら俺の手元に置いておける。」


「湊都、会社なんて経営してるの?」


「まぁ、一応な。」


「全然知らなかった。」


「会社を“任されてる”ってだけだ。親父が創設者。」


「湊都のお父さんも凄い人なんだね。」


「まぁな。」


「それで・・・私は何の仕事をすればいいの?」


「主に天木組が経営する店の利益の書類関係を担当してくれればいい。」


「・・・なんか難しそう。」


「俺が教えてやる。わからないことがあったら聞け。」


「分かった・・・。」


「飲み込みが早くて努力家のナナだから頼んでるんだ。大丈夫。出来る。」


「・・・うん。頑張ってみる。」



不安げな私の頭を撫でてくれる。



「おいで、ナナ。」



その声を聞いて湊都に身を預ける。



時に激しく、時に優しく。



湊都は人の心を奪うのが上手い。



どうしたら自分から離れなくなるか分かってる。



自分でリードを持たなくても自分の元に戻ってくるのを分かってる。



私もまた、その1人。
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