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その4
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「松崎武流といいます」
そう言って、彼は笑顔で会釈をした。
写真より、二割増しの美形を目の前にして、俺は……緊張していた。
いや、そもそも、どうしてこういうことになってるんだか……。
俺は、明らかに服に着せられてる感満載のブランドのスーツを身にまとっていて、正直尻の座りが悪い。
「……鈴木圭太郎です」
そう言って挨拶している間も、俺の横で座る母親の甲高い声が続いてる。
「圭太郎ったら、ねえ。
武流君の写真見るなり好みだなんて言って、ほんと身の程知らずに面食いで……」
「まぁ、ホントだったら、嬉しいわぁ。
武流は父親にに似て顔はいいけど、わがままで甘えん坊だから、なかなか恋人と長続きせんみたいで、圭太郎君みたいに真面目な子だったら私も安心できるんだけど……」
いやもう、母親同伴ってだけで、なんだろう。
この居たたまれなさ!
無理やり押し切られたことを、今更ながらに後悔する。
しかしもうすでに日取りは決まり、ブランドスーツも準備したと追い込まれては、とてもじゃないけど断ることができなかった。
何より母が、向こうも「悪からず思っているらしい」なんて話をしてくるもんだから、ついつい、期待してしまったのも事実である。
でも、はっきり言って恋愛方面の自分のスペックの無さを考えてなかった。
すっごく好みの男性が目の前にいたとしても、何を話しかけていいのか分からない。
第一、恥ずかしくてまともに顔が上げられない。
意を決して話しかけようと顔を上げても、彼の顔を見ると何も言えずにうつむいてしまう。
三十もとうに過ぎていて、全く経験なしという訳でもないのに、なんという体たらく!!
恋愛から遠ざかると、恋愛経験値は初心者に逆戻りするようだ。
もちろん彼ほど美形の男性に相対したことがない、ということもある。
もしゲイ限定のお見合いパーティーで見かけたとしても、絶対に話しかけることはないだろう。
それだけの美形が、俺とテーブルを挟んだ向かいに座っていて笑っている状況なんて、はっきりいってアリエナイ状況なのだから。
相変わらず母親同士で姦しく話が続いていたところに、「参りますよね?」と、彼は困ったように話しかけてきた。
ああ、そうか、いやそうだろう。
彼も母親に押し切られた口か。
そうでなければこんな冴えない男と見合いするはずがない。
「え、ええ。
まぁ」
俺はほんのちょっぴり落胆しながら、苦笑した。
それにしても、本当に好みだよ。
彫りが深く、男らしい鼻梁。
薄い唇も、優しそうな目元も、どれもこれも見惚れてしまう。
どうせ二度と会うことはないだろう。
せっかくだから、しっかりその美しさを堪能したいものだ。
そう思って俺は、注がれたままで机に放置されていたグラスに手を伸ばし中を煽った。
酔っていれば、緊張せずに顔を見れるに違いない。
そんな邪な、気持ちを抱いて。
そう言って、彼は笑顔で会釈をした。
写真より、二割増しの美形を目の前にして、俺は……緊張していた。
いや、そもそも、どうしてこういうことになってるんだか……。
俺は、明らかに服に着せられてる感満載のブランドのスーツを身にまとっていて、正直尻の座りが悪い。
「……鈴木圭太郎です」
そう言って挨拶している間も、俺の横で座る母親の甲高い声が続いてる。
「圭太郎ったら、ねえ。
武流君の写真見るなり好みだなんて言って、ほんと身の程知らずに面食いで……」
「まぁ、ホントだったら、嬉しいわぁ。
武流は父親にに似て顔はいいけど、わがままで甘えん坊だから、なかなか恋人と長続きせんみたいで、圭太郎君みたいに真面目な子だったら私も安心できるんだけど……」
いやもう、母親同伴ってだけで、なんだろう。
この居たたまれなさ!
無理やり押し切られたことを、今更ながらに後悔する。
しかしもうすでに日取りは決まり、ブランドスーツも準備したと追い込まれては、とてもじゃないけど断ることができなかった。
何より母が、向こうも「悪からず思っているらしい」なんて話をしてくるもんだから、ついつい、期待してしまったのも事実である。
でも、はっきり言って恋愛方面の自分のスペックの無さを考えてなかった。
すっごく好みの男性が目の前にいたとしても、何を話しかけていいのか分からない。
第一、恥ずかしくてまともに顔が上げられない。
意を決して話しかけようと顔を上げても、彼の顔を見ると何も言えずにうつむいてしまう。
三十もとうに過ぎていて、全く経験なしという訳でもないのに、なんという体たらく!!
恋愛から遠ざかると、恋愛経験値は初心者に逆戻りするようだ。
もちろん彼ほど美形の男性に相対したことがない、ということもある。
もしゲイ限定のお見合いパーティーで見かけたとしても、絶対に話しかけることはないだろう。
それだけの美形が、俺とテーブルを挟んだ向かいに座っていて笑っている状況なんて、はっきりいってアリエナイ状況なのだから。
相変わらず母親同士で姦しく話が続いていたところに、「参りますよね?」と、彼は困ったように話しかけてきた。
ああ、そうか、いやそうだろう。
彼も母親に押し切られた口か。
そうでなければこんな冴えない男と見合いするはずがない。
「え、ええ。
まぁ」
俺はほんのちょっぴり落胆しながら、苦笑した。
それにしても、本当に好みだよ。
彫りが深く、男らしい鼻梁。
薄い唇も、優しそうな目元も、どれもこれも見惚れてしまう。
どうせ二度と会うことはないだろう。
せっかくだから、しっかりその美しさを堪能したいものだ。
そう思って俺は、注がれたままで机に放置されていたグラスに手を伸ばし中を煽った。
酔っていれば、緊張せずに顔を見れるに違いない。
そんな邪な、気持ちを抱いて。
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