お見合い小夜曲

高牧 まき

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その3

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「あ、やっぱり覚えてた?

 あんた、好みだって言ってたもんね?」

 この十年ですっかり俺の性癖にもなれた母親が、揶揄う様に笑った。

「この子ねぇ、松崎さんの息子さん」

 え?

 松崎さん?

 と言われ、俺は子供の頃の記憶を思い起こす。

 確か母さんの中学の時の同級生で、親友、だったよな??

 子供の頃、家に遊びに来た記憶がある。

 小柄で、笑顔が印象的な人、だったと思う。

「それがねえ、この前会ったとき、松崎さんから息子さんのこと相談されてねぇ……」

「相談って、なんの??」

「カミングアウト、されたんだって。

 去年の冬」

「カミングアウトって、彼、ゲイだった、ってこと??」

「そうそう。

 まぁ、あんたがそうだってことは、昔ね、松崎さんに喋ったことあったのよ。

 何かの時に。

 それ、きっと覚えてたのね?

 息子とどう接していいのか分からないって、泣きついてきて」

「……それで、どう答えたの?」

「……どうもこうも、ないって。

 どんな人を好きになろうが、息子は息子で、何も変わらないわよって、答えたわよ。

 まぁ、残念ながら、孫は諦めなきゃならないけどって、ね」

 あっけらかん、と、母親は答えた。
 
 まぁ、変なトコで肝が太いっていうか、一度覚悟決めたら強いっていうか、そう言うとこ、あるよな?

 俺はほんの少し抱いていた母親への「罪悪感」から、ほんの少し、解放された気がした。

 ほんと、母親の方はもう吹っ切れてるのに、俺の方が嫌われるんじゃないかといつまでもビクビクしてたなって、思い当たった。

 おかげで恋人の話なんて聞かれてもろくに答えられなかったのが、いらぬ心配だったのかもしれない。

 もっともきちんと答えらるような恋人なんて、いやしないんだけど。

「むしろ、今は、あまりに純情すぎて、なかなか恋人が出来なくて、そっちの方が心配な位よって言ったら」

「おいおい、何言ってるんだよ??

 俺だって恋人くらい……」

「あんたね、恋人がいたら帰省中、携帯電話リビング置き忘れて放置するとか、無いから。

 電話来るんじゃないか、メールくるんじゃないかって、ドキドキ待つもんなのよ??

 それに、いつ電話したって、すぐ出るでしょ。

 いつも自宅にいるみたいだし、誰かと一緒にいる様子はないし……。

 あんた、はっきりいってここ数年、恋人らしい恋人なんて、居ないでしょうが!!」

 はっきり、きっぱり言われて、俺はぐうの音も出なかった。

 
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