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 フェリシアが目を覚ますと、見慣れた寝室の天井が見えた。
 薄暗い室内に月明かりが差し込んでおり、相当時間が経ってしまったことに気が付いてフェリシアは眠たげに目をこする。

 「…私、…カミルさんに抱き寄せられて、それで……甘えて…」

 そのあとに眠ってしまったことに気が付いてフェリシアはがくりと肩を落とす。本当は押し返さないといけない状況だったのに、甘えてしまったのだ。

 (…どうしよう。本当にどうしよう…)

 フェリシアが頭を抱えていると、ドアがノックされて彼女は思わず返事をした。


 「はい」


 ドアを開けて入ってきたのはカミルだったが、怒った風はなく心配そうな表情を浮かべていた。

 「起きたのか」

 そう言うと、カミルはフェリシアの背中に手を回してギュッと掻き抱いた。彼の胸元に顔を押し付けられる形となり、彼女は困惑したような表情を浮かべる。
 だが、何かを言う前にカミルは右手を腰から離し、フェリシアの頬に添えた。

 「まだ寝ていろ。熱があるじゃないか」

 フェリシアの額に額をこつんと当てたカミルはそう言うと、彼女は目を泳がせる。

 「目が覚めたので、それで…」

 だが、その時、キュルルッとか細い音でお腹の音が鳴った。フェリシアは慌ててお腹を押さえると、カミルは穏やかに微笑んだ。
 その表情を間近に見て彼女の胸の内がトンっと跳ねる。

 「ッ…」

 「何か作ってくる。――期待はあまりしてくれるな、としか言いようがないが…」

 「いえ、でも…」

 逡巡を見せたフェリシアをゆっくりと押し倒して横にさせると、カミルはフェリシアから離れてドアの方へと向かった。

 「あの、…カミル、さん…」

 ためらいがちに声を掛けたフェリシアを振り返ったカミルは不思議そうな顔をしたが、何か言いたさそうにモジモジしている彼女に肩をすくめてみせた。

 「あんたの信頼を勝ち取り切れなかった俺の責任だよ、フェリシア。でも、一つだけ聞かせてくれるか?」

 フェリシアは瞬くと、カミルが少し悲しそうに微笑んだ。

 「俺のことは、いるだけで嫌悪するくらい、嫌いなのか?」

 彼女は瞬いて叫びそうになるのをぐっと飲みこんだ。答えてもらえないと思ったのか、カミルはわずかに目を伏せて去っていこうとしたが、そんな彼の背に向かって声をかける。

 「私は!」

 大声に彼が振り返る。だが、そんな彼に想いを告げて迷惑か心配になり、慌てて声のトーンを落とした。

 「私は…あなたに幸せになってほしいだけです。あなたの重荷になるくらいなら、消えた方がいい。…って、そう思った。――それだけのことなんです」

 か細い声でそう言ったフェリシアに彼は深くため息を漏らした。ちょっと怒っているのか眉間に皺が寄る。
 踵を返して戻ってきたカミルを見上げたフェリシアは、彼がベッドに手をついて身を乗り出したので目を見開いて彼の顔を見ていた。

 「好きじゃないなら…」

 カミルの顔を見ていた彼女は戸惑いながら小首を傾げると、彼は彼女の顎に手を添え、身を乗り出した。


 「好きじゃないなら、甲斐甲斐しく世話を焼いたりしない」


 そう告げると、彼はそっと唇を重ねた。久しぶりの濃厚な感触にフェリシアは頬が熱くなるのを感じていた。何度も唇を重ね、甘い吐息が室内に漏れる。
 思わず手を伸ばしたフェリシアの手を掴んだ彼はフェリシアの唇から顔を離し、そして、首筋にキスを落とした。

 「ああ…っ」

 艶っぽい声を漏らすフェリシアの首筋に印をつけた彼だったが、慌てて我に返ったように手を離し、彼女から離れた。

 「これ以上は、また今度な…」

 ぼんやりしながらフェリシアが彼の背を見上げると、彼は振り返ったものの、その頬が朱に染まっていた。

 「まだ病み上がりなのに無茶をさせたら、あんたが死ぬじゃないか」

 「カミルさん…?」

 「と、とにかくそういうことだからっ!」

 カミルはそう言い放って大きな音を立ててドアを閉めた。まるで逃げるように。
 フェリシアはキョトンとしていたが、カミルの去っていったドアの方をぼんやりと見やり、唇に軽く指先で触れて頬を朱に染めながら寝返りを打ち、ドアに背を向けた。


 (あんなに激しいキス、久しぶりです…)


 幸せいっぱいに目を閉じたフェリシアは、穏やかな気持ちになってそっと目を閉じる。


 その後、焦げた匂いで再び目を覚ますこととなるのだが、心の底から幸せな気持ちになってフェリシアは我が身を抱えながら再び眠りへと堕ちて行った。

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