異世界の婚活イベントに巻き込まれて言葉が通じないままイヌ耳黒騎士に娶られてネコにされてしまいました。

篠崎笙

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同じ世界の、ヒト?

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王都テタルティを発って。


そびえ立つ岩山の連なりが見えてきた。あちこち削られた山肌。
鉱山地帯、サヴァトだそうだ。

サバトと聞くとあんまり良いイメージを抱かないのは、俺が異世界人だからだろうな……。

石炭とか鉱石とか、色々な資源が採れるんだそうだ。
昔は石炭採掘で爆発事故とか多かったけど、”仙人エリミティス”のアドバイスのお陰でだいぶ減ったとか。


仙人もいるんだ。
どういう世界観だかわからなくなってきたぞ……。

「”仙人”と会ってみるか?」

「うん、せっかくだし、会ってみたい」
ゼノンはどっちみちその”仙人”に用があったらしくて、ツガイとして紹介してくれることになった。


この辺りは荒くれものが多いので、決して一人にならないよう気を付けろ、と注意された。

南のノーティオ王国以外で猫族を見ること自体、珍しい。
その上、毛並みが良いから攫われて外国に売られちゃうかもしれないって? 治安悪いなあ。

国の外れで、ここに住む国民の多くは鉱山勤務の荒くれものなせいもあって、なかなか兵の目も届かないんだって。

「そういう場所こそ、多く兵を置いたら? 鉱山で働いてて引退した人を警備に雇うとか。そういう人なら顔も広いだろうし、強そう」

「……”仙人”と同じことを言う」
ゼノンが苦笑した。


今まで、他の国が攻めてきても、工夫らが自主的に追い払っていたので、特に兵を配置する必要もないかと思っていたらしい。

制服とか地位を与えれば意識も変わるだろうし。
地位が上がって給金も上がればそれだけやる気も出る。

それによって治安も良くなると思うんだけどなあ。


*****


仙人の家は、鉱山で働く工夫たちの住む集落の外れにあった。

木や石で作られた家だ。
家の作りが、これまで見たような西洋っぽい建物じゃないな、と感じた。

何となく、懐かしい感じがする。
何でだろう?


ゼノンは戸をノックすると。

「仙人、いるか? ゼノンだ」
ゆっくり、綺麗な発音で話しかけた。

「おお、ゼノンか。よく来た」
しゃがれた声が応えて。

着物っぽい服を着た老人が出て来た。
60歳くらいかな? 背筋は伸びて、しゃんとしてる。

その老人には、獣耳が生えてなかった。


ああ、この人が。
猿人と呼ばれてさげすまれていた人なんだと思った。

獣人の国にいたのに、俺の耳を見てもあんまり驚かなかったのは、こういう耳をした知り合いがいたからだったんだ。


老人は俺の顔を見て、不思議そうな顔をした。

「そちらの、お嬢さんは?」
「ああ、は俺のツガイゼーヴゴスだ」


「ふむ、とうとう結婚したのか。めでたい。中で、詳しく話してくれ」


*****


タキたち近衛騎士は一緒に来ないで、馬車と家の前で警備をするそうで。
俺とゼノンは仙人の家にお邪魔した。

木で作ったテーブルに、丸い椅子。
手作り感あふれる家具だ。家もお手製みたいだし。

どこも家具というのは変わらないのかな?


あ、お茶だ。
わー、茶柱立ってる。

素焼きっぽい急須に茶碗。
こっちにも急須とかあるんだな……。デザインも同じとか。


「猫族というのは、皆、東洋人のような顔立ちをしているのか……?」

「え? ……?」
仙人の呟きに、思わず反応してしまった。

確かに東洋人、って言ったよな?


「君は、日本語がわかるのか?」
仙人は腰を浮かせ、驚いた顔をしている。

どうやら、仙人は日本語で呟いていたらしい。
違いが全然わかんなかった。


「俺、元々日本人ですよ? 何とかいう儀式でこっちに来て、ゼノンのツガイになって、こうなっちゃったけど」
色の変わった目と、猫耳を示す。


「そんなことが……、信じられない……」


*****


俺がこっちに来た経緯を、簡単に話した。


”仙人”の方は、二十歳で出兵して。乗っていた戦闘機が南米で撃墜されて。
気が付いたら、身一つでカルデアポリの迷路の中に立っていたらしい。

最初はここが天国か何かだと思ったらしい。
でも、見世物にされそうになったりして。天国じゃない、別の世界に来てしまったんだと理解したそうだ。

言葉もわからないまま、あちこちを彷徨って。
容姿も違う、得体のしれない自分を受け入れてくれたここ、ヴォーレィオ王国の外れ、サヴァトに落ち着いたそうだ。

言葉は、彷徨ってるうちに少しずつ覚えたんだって。
凄いな。


仙人は、日本人だったんだ。

ああ、それで、この家が何だか懐かしい感じがしたんだな。
お爺ちゃんの住んでた昔の日本家屋っぽいもん。


ここで自分の知っていることを話したり、実践して作ったりしてるうちに、”仙人”と呼ばれるようになってしまった、と苦笑して。

「まさか、同郷の人間と再会できるとは思いもしなかった。……ああ、久しぶりの日本語だ。懐かしい。ありがとう、ありがとう」
と涙ながらに握手された。

「二十歳で出兵って……、もしかして、明治時代か昭和時代の方ですか? 平成の間は戦争してないし……」
そこまでの年齢には見えないけど。

何しろ異世界だ。
時間が歪んでいてもおかしくない。


「大正15年、浅草生まれだ。戦争は、終わったのかね? ということは。まさか、陛下はご崩御された……?」

「ええと、確か終戦は1945年の8月15日だったかと。昭和だと、20年頃かな? 年号は、昭和が64年までと、平成31年までで、今は西暦2020年。令和2年です」

うう。
ややこしいから、西暦で揃えてくれればいいのに。


*****


「何と……、もう、あとほんの数日で、終わっていたのか……!」
仙人は、悔しそうにテーブルを叩いた。


まだ学生だった、未来ある若者まで、終戦ギリギリまで戦わせられて。
特攻でも、何人もの友人を喪った。

片道だけのガソリンしか積んでない戦闘機で、敵に辿りつく前に墜落した機だってあった、と。
生きて戻れば非国民と謗られ。自決した者も少なくない。

もうすぐ終わるとわかっていれば、若い命を無為に散らせず止められたのに。
そう言って、泣いている。


目の前に、リアルタイムで第二次世界大戦を経験した人がいるんだ。

しかも、俺から話を聞くまでは。
この人の中で、戦争は終わってなかったんだ。

信じられない。

そんな人が異世界に来て。
常識も見た目も違う、言葉も通じずに。たった一人で。

大変だったんだろうな。
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