超絶美形だらけの異世界に普通な俺が送り込まれた訳だが。

篠崎笙

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夏の王

再会

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「あ、魔女だ」
アフダルが空を見上げた。


またか。
毎年のように、はやってくる。

雷鳴を引き連れ、暗雲を轟かせ。

恵みの雨を降り注いでくれるのはありがたいが。
雷はやめて欲しいものだ。

今のところ、住民に被害はないが。せっかく植えた木が、落雷により黒焦げになったではないか。


◆◇◆


の存在をはじめて知ったのは。わたしが王座についてからしばらくのことだった。

こちらを見詰めている気配はしたが、害意は感じなかった。
ただ、現れて去っていくだけのものだ。


黒い塊で、暗雲を連れて来るため、魔女と呼ばれている。
魔女というが、性別は、わからぬ。

どうやら世界中を巡っているようで。
他の国でも、怪談のひとつに語られているらしい。

しかし。
近頃、になりつつあるようだ。瘴気を帯びてきている。

まだ大した害のないうちに、処分するべきであろうか。


「そういえば、”冬の国”に、アズキソーバっていう、聞くと死ぬって噂の怖い話が……」
「やめてよー」
ハルがアブヤドを脅かしていた。

「こらハル、アブヤド様におかしな話を吹き込むな」
ラクはそれを注意している。

いつもの光景である。


もうじき15になるというのに、アブヤドは、イチのように小さい。
真っ直ぐな黒い髪も、黒い瞳も、イチに良く似ている。

愛らしいが。
こんなに愛らしいと、心配になる。


家庭教師兼世話係のラクもそれは同じようで。ともすればわたしよりも過保護である。
自分の子よりも大切にしているのではないかと思われるほどだ。

イチが消えてしばらく後、皆が子を授かったのだ。
代わりの人員はいないので、仕事は休めない、休みたくないと言われ。

王の間が、長らく託児所と化した。

おかげで思い悩む暇もなくなり、毎日大変であった。
子供らが大きくなり、学校に通い始めたのが寂しく思えるほど。


ラクは去年、アブヤドを庇い足を怪我して以来、少し引き摺っていた。
歩くと痛むようだが、泣き言などは吐かなかった。

アブヤドが悲しむからである。


「過保護すぎだよ……」
ハルはラクに呆れていた。

「そうだな」

「ウーさんもだからね?」
……そうだろうか?


まあ、愛しいイチとの間に授かった、たった一人の子である。
愛おしくないわけがない。


◆◇◆


アブヤドが、15歳になった。


印を授ける儀式を行うため、皆で儀式の洞窟へ向かった。
儀式の洞窟は足場が悪いため、ラクは城で待機である。無念そうであったが、仕方ない。

儀式の様子は記録しておくとハルが言い、やっと納得したようだ。


「では、これより印授の儀式を始めます」
神官の宣言を聞き、アブヤドを円形に囲んで腰を下ろした。

その時であった。


「いってえ!」
という声と共に、何者かがどこからか落下した音がした。

祭壇の辺りか。
隠し穴など存在しない洞窟の中で、どこから?

……しかし。今の声は。

聞き覚えのある声に、貌を上げる。


きょろきょろと、不思議そうに辺りを見回している、夏服の少年。
額には、紫の印。


「……まさか……イチなのか……?」

立ち上がり、フードを下ろしてみせた。
イチは、わたしを真っ直ぐに見、目を瞠って。


「ウージュ、」
嬉しそうに。わたしの名を呼んだ。イチだけに赦した、唯一の呼び名で。


ああ。
これは夢ではなかろうな?

現実に、イチが戻って来たというのか?


◆◇◆


「イチ……!」

思わずイチの元に駆け寄り、抱き締める。
ぎゅっと抱き返され。

その確かな感触に。ぬくもりに。
喜びで胸が詰まり、物狂おしい気持ちでいっぱいになる。


少し、小さくなったか?
否、わたしが大きくなったのだ。

「15年だ。イチ。ちょうど、あの日より15年経ったのだ。ああ、よく見せておくれ。余の愛しいイチよ。今まで、どこへ行っていたのだ。そなたは少しも変わっていないな?」

触れて、確かめる。
夢ではない。

確かに、ここに存在している。

まさか、またここへ戻ってきてくれるとは。
どういった奇跡であろうか。

神はイチを、わたしの元に返してくれたのか?


イチは、わたしを見上げ、頬を染めている。
相変わらず、愛らしい貌で。

……しかし。

「イチ……これは?」

左手の赤い印だけでなく。
両耳にも。白と青?

春の国のことは、覚悟していたが。
他にも、こんなに……。

「赤、青、白? 初めて見るな。待て……黒だと? どういうことだ」


黒の王。
冬の国に嫁いだというのは。シグルズの著書は、全て事実だったというのか?

イチは気まずそうに視線を逸らせた。


◆◇◆


「あの、王、儀式の最中ですが……?」
神官に声を掛けられた。

大事な儀式の最中であった。詮議は後にしよう。


「ああそうだった。余とイチの子、アブヤドの儀式の途中であったのだ。……これは我が后、イチである。アブヤドよ、母だぞ」
イチの肩を抱え、アブヤドに紹介する。

「母上!?」
アブヤドは嬉しそうだ。

感動の親子再会であるが、儀式の最中である。


イチにもローブを着せ、儀式に参加してもらう。
アブヤドを囲むように座り。

神官が呪文を唱えながら、聖水をアブヤドの額につける。


しるしを、さずけたまえ。
全員で祈りを捧げる。

アブヤドの額が、光っている。

これは。
印は授かったようだが。白い印であった。


「印は、授けられたようですが……白?」
神官も、困惑している。

「白? これは……どういうことだ?」


黒、紫、赤、桃、青、緑、黄以外の印の存在は、確認されていない。
黒の存在すらも、物語の上か、噂話程度の認知度である。


「白は、黒よりも強い力だったよ」
イチは、知っているようだ。

耳についていた、白い印。
それは。


「イチ?」
「白の印について、ご存知なのですか?」
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