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秋の国

ここはどこなんでしょうか。

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「いってえ!」


固い床に落ちたっぽい。
ソファーから、寝ぼけて落ちたのか?


『誰だ! 神聖なる”儀式”の邪魔をするのは!?』

え、……儀式?
何の?

青みがかった銀色っぽい髪に、同じような瞳をした超絶美形な青年が、驚いたような顔をしてこっちを見ていた。


見回してみれば、洞窟のような場所で。
蝋燭の灯りしかなくて、薄暗い。

ローブを着た人たちが数人いて、銀髪の青年を囲んでいる。

なにこれ、あやしい儀式?


『貴様、どこから侵入した!?』
ローブ姿でフードを頭から被った人が、俺の襟を掴んで持ちあげた。

わあ、すごい力持ち。

『しかし、隙間など、どこにも……』
兵士っぽい人は、あわててその辺を確認している。

『とりあえず、外に出しておけ! 沙汰はそれからだ!』
と、兵士っぽい人に渡されて。


外に連れ出された。


◆◇◆


ああ……秋の風が身にしみる……。
秋……だよな?

ここ、”秋の国”なんだよな!?

森の色とか、紅葉っぽいし。
涼しいというか、肌寒いし。夏服だからね!


あの日はヤってないのに。一緒に寝てたらアウトなわけ? わけわかんねえなもう!
ザラーム、あれだけ神経質になってたというのに。

荒れてないかな。
子を授かってたら、少しは落ち着いてくれてるかな?


左手の手に紋章はあるし。胸に、黒い印もある。額には、何も無い。
ということは。

”冬の国”にいた時よりも未来で、”夏の国”よりも過去か。


西暦みたいに。目星があったらわかりやすいのに。
無いんだよな。ここには年号が。

一日24時間と、12カ月を一年としてカウントはされてるらしいけど。それだけで。

でも、みんなそれに何の疑問も持たずに暮らしているんだ。
歴史を勉強する必要が無いから。

教会はあるけど、神の教え的なものは無くて。
慈善事業をする施設のようなものだ。でも、神様の存在は信じてる。

国語とか算数的な勉強をちゃんとするのは、それが必要な職業の人だけ。
歴代の王の名前とかも、テストに出るわけじゃない。知ってるのは、王の城にいる記録係くらいだろう。


ラグナルくらい有名になれば、他国にも王様の名が伝わるくらいで。
基本的に、他の国のことは知らないのが当たり前らしい。

計画性がないというか、その日暮らしなんだよな。


兵士は、俺の顔をチラチラ見て、頬を染めていた。
ああ、ここでも俺は”カワイイ”のか。

「なあ、ここって、”秋の国”?」
『何だそれは。ここは偉大なるマグナ皇帝インペラトールテルラである。そのような名前ではない』

ええええ。
春夏秋冬の他にも、国があったの!? 初耳だよ!


「じゃあ”冬の国”とか”春の国”って知ってる?」
『”冬の国テルラ ヒエムス”は氷菓子で有名な国で、”春の国テルラ ニクス”は偉大な発明王のいた国だな』


あ、氷菓子、有名になってる時代なんだ。
順調なようで何よりだ。

そんでもって、未だに有名なんだ、ラグナル……。さすがだ。


◆◇◆


がやがやと声がして。
洞窟から、人が出てきた。


『結果はいかがでしたか?』
兵士っぽい人が尋ねた。

『……アルブムだ』

あ、この声。
さっき俺を掴みあげた人だ。

ローブのフードをおろすと、黒い髪に、金色の瞳の超絶美形。肌の色も黒い。
めっちゃ怒ってるようだ。

『貴様、よくも我が弟の神聖なる儀式を邪魔してくれたな! 即刻う……、』

う?
男は俺の顔を見て、固まってる。


あの銀髪の青年、弟なのか。似てない兄弟だな。

「即刻、う、何?」
男は、みるみる内に真っ赤になって。

『う、……うちに連れ帰って、私の、嫁にする……!!』


えええええ。
どうしてそうなるんだよ!?

『ええええ!?』
『皇帝陛下!?』
『どういうことです兄上えええ!?』

周りの人も、同じように叫んでいた。


え、……皇帝陛下?
この人が!?


◆◇◆


皇帝陛下の名前は、偉大なるエセル、というらしい。自分でそう名乗った。
似てない弟の名は、ルーク。

『あ、あの、処罰を与えるのでは……?』
ローブ姿の神官らしき人が皇帝に言った。

『貴様、このような無垢で可愛らしい生き物に害をなそうというのか。血も涙も無いな。鬼なのか?』
なんか俺は、何故か皇帝の膝の上で、頭を撫でられてる。

『陛下が仰られたんですよね!?』


『ん? 何だこれは。刺青か?』
俺の左手を持ち上げて。

これ、この皇帝は知らないのか。
印持ちなのに?


『……それはニクスの……え、ルブルム……?』
神官は気づいたようだ。
そりゃ印を授ける儀式の神官なら、知ってるか。

『よく見れば、身体にもあるな。奴隷のあかしか何かか? かわいそうに、誰にこんな真似を……』
皇帝は、俺の胸の印を覗き込んでる。

夏服だから、見えちゃうんだよね。
このまま日本に戻ったら、間違いなく退学だよこれ。
夏休みデビュー扱いされるね。

ヒエムス……それも、アートルム……』
神官の顔が真っ青になっていく。
『あの、その方は……』


口に人差し指を持ってって。
後で、と合図した。

神官は黙って頷いた。


◆◇◆


神官は、セスという名前で。何となくラクさんに似た感じのする人だった。
耳が尖ってて。銀色の髪に、青い瞳。遠い親戚かな?


印を授ける儀式を担当する神官の間では、噂になっていたようだ。

左手に赤の后妃の印を持つものは、神の使いであり、現れた国にさちをもたらす。
”春の国”や”冬の国”は、そうして莫大な冨を得たのだと。


……いつのまに、そんな与太話が噂として広まってんだよ……。

人の噂ってあてにならないよね。
みんな、俺じゃなくて。王様たちの努力の成果だよ。

頑張ってたの、俺、傍で見てたから知ってるもん。
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