11 / 44
11・孤児院の問題
しおりを挟む
レナルドの急な訪問があって。
数日が経過したが、相変わらず私は妃教育で忙しく、それなりに充実した日々を過ごしていた。
そんなある日、またもやヴィーラントに呼び出され、私は執務室に向かった。
「失礼します。あっ……」
中に入ると、既にヴィーラントがいるのは予想通りだったが、彼の傍には護衛騎士兼執事のグレンの姿もあった。
「なにか?」
「いえ……」
正直、ヴィーラントと話すだけでも緊張するのに、グレンもいるのだ。
彼も感情が読みにくいタイプだし、やりにくい。
だが、それを正直に伝えるわけにもいかず、私は口を噤む。
「来てくれたか」
「殿下の呼び出しを無視出来るほど、私も偉くありませんわ。そんなことよりも……」
私はグレンとなるべく視線を合わせないようにして、ヴィーラントにこう質問する。
「もしかして、またレナルド殿下が来られているんですか?」
あの時は執務室にグレンはいなかったけど……先日と同じシチュエーションだ。否応がなしに、あの日の出来事が頭をよぎる。
だが。
「いや、そういうわけじゃない」
ヴィーラントから返ってきたのは、そんな言葉だった。
「どうせ、また来るんだろうなと思っていたが、めっきりそういう話も聞かなくなった。脅しを入れたのが効果的だったんだろう」
「その通りでしょうね」
「まあ……今後も同じとは限らないがな。とはいえ、安心してほしい。エルナが俺の婚約者である限り、守ってやる。なにせお前は、俺の大事な婚約者なんだからな」
私を見つめるヴィーラント。
彼の顔を見ていると、先日抱きしめられた記憶が蘇ってきて、顔が熱くなってしまう。
とはいえ、勘違いしてはいけない。
ヴィーラントのいう『大事な』というのは、私が『棘の魔法』の使い手だから。
存在価値を示さなければ、いつ捨てられてもおかしくない立場だということを。
「で、では、今日はどのようなご用があって、私は呼び出されたんでしょうか?」
恥ずかしさを誤魔化すように、私は彼に続けてそう問いかける。
「うむ……」
するとヴィーラントは執務机の引き出しから、紙束を取り出して、
「実はな……問題があってな。お前の意見を聞いてみたいと思ったんだ。まずはこれを見てくれ」
そう言い、私に手渡してきた。
パラパラと捲って、内容に目を通す。
「これは……帝都内にある孤児院の資料ですね」
「この一瞬で分かったか。やはり、見どころがあるな」
ニヤリとヴィーラントは笑う。
一方、この間もグレンは変に口を挟むまいと思っているのか、ただ黙って事の成り行きを見守っていた。
「五十年続いている孤児院だ。それなりに歴史と伝統がある。今まで上手くやっていたようだが……最近は不自然な資金の流用が確認された」
「そうですね。年々、予算が増えていっています。そしてそれは税金で賄われていることも」
「その通りだ。周りの人間はこれを『予算の不正利用じゃないか?』と疑っている。しかし決定的な証拠がないんだ。だから、エルナの意見が聞きたかった?」
「どうして私に?」
「ん? 最近の妃教育の結果は、俺の耳にも届いているからな。大変、優秀だと聞いている。だからお前の力を頼ろうとするのも、おかしくない話だろう?」
含みを持たせた言い方で、ヴィーラントは私にそう答えた。
なるほど……ね。
優秀だとか頼ろうだとか言っているけど、要は私の力を試そうとしているだけだ。
いくら『棘の魔法』という特異点があっても、王子の婚約者として最低限の知識は持ち合わせていなければならない。
いずれ王妃となったら、国政に携わる機会も増えるからね。ヴィーラントが私の力を見定めようとするのも不思議ではない。
だから、これは慎重に答えなければ……。
そう思い、孤児院の資料にさらに詳しく目を通していくと、不意に死に戻り前のことを思い出した。
──悪魔騒動。
この世界には悪魔と呼ばれる存在がいる。
悪魔は別の世界からやってきて、人々に害をなす。
昔の話では、上位の悪魔に一国が滅ぼされたという例も。
そんな恐ろしい連中に、ゼレギア帝国が目をつけられた。
死に戻り前、ゼレギア帝国の帝都で悪魔騒ぎが起こった。
悪魔が帝都にある孤児院を、より上位の悪魔を召喚するための儀式場として利用したのだ。
上位の悪魔が召喚されるまで、帝都の人間は誰も気が付かなかった。
召喚された悪魔は暴れ回り、帝都に甚大な被害を与えたという。
死人もたくさん出た。この悪魔騒ぎを抑えるために、帝都中の騎士や冒険者の方々が動員された。
その騒動に紛れて、窃盗や暴行といった犯罪も横行し、帝都の治安は悪化した。
有名な事件だったので、死に戻り前の私も聞き及んでいたことである。
どうしよう……。
帝都で起こった事件は多いせいで、今まで頭から抜け落ちてしまっていた。
このままでは帝都は悪魔によって蹂躙され、たくさんの人が死んでしまうだろう。
「…………」
私が考えている間も、ヴィーラントは答えを急かさずに、じっと待ってくれていた。
「……一つ、考えがあります」
「なんだ?」
好奇に満ちた視線で、ヴィーラントが私を見る。
心苦しいけど……この方法しかないよね。
私は覚悟を決めて、にこっと微笑みながらこう告げた。
「孤児院ごと焼き払いましょう」
数日が経過したが、相変わらず私は妃教育で忙しく、それなりに充実した日々を過ごしていた。
そんなある日、またもやヴィーラントに呼び出され、私は執務室に向かった。
「失礼します。あっ……」
中に入ると、既にヴィーラントがいるのは予想通りだったが、彼の傍には護衛騎士兼執事のグレンの姿もあった。
「なにか?」
「いえ……」
正直、ヴィーラントと話すだけでも緊張するのに、グレンもいるのだ。
彼も感情が読みにくいタイプだし、やりにくい。
だが、それを正直に伝えるわけにもいかず、私は口を噤む。
「来てくれたか」
「殿下の呼び出しを無視出来るほど、私も偉くありませんわ。そんなことよりも……」
私はグレンとなるべく視線を合わせないようにして、ヴィーラントにこう質問する。
「もしかして、またレナルド殿下が来られているんですか?」
あの時は執務室にグレンはいなかったけど……先日と同じシチュエーションだ。否応がなしに、あの日の出来事が頭をよぎる。
だが。
「いや、そういうわけじゃない」
ヴィーラントから返ってきたのは、そんな言葉だった。
「どうせ、また来るんだろうなと思っていたが、めっきりそういう話も聞かなくなった。脅しを入れたのが効果的だったんだろう」
「その通りでしょうね」
「まあ……今後も同じとは限らないがな。とはいえ、安心してほしい。エルナが俺の婚約者である限り、守ってやる。なにせお前は、俺の大事な婚約者なんだからな」
私を見つめるヴィーラント。
彼の顔を見ていると、先日抱きしめられた記憶が蘇ってきて、顔が熱くなってしまう。
とはいえ、勘違いしてはいけない。
ヴィーラントのいう『大事な』というのは、私が『棘の魔法』の使い手だから。
存在価値を示さなければ、いつ捨てられてもおかしくない立場だということを。
「で、では、今日はどのようなご用があって、私は呼び出されたんでしょうか?」
恥ずかしさを誤魔化すように、私は彼に続けてそう問いかける。
「うむ……」
するとヴィーラントは執務机の引き出しから、紙束を取り出して、
「実はな……問題があってな。お前の意見を聞いてみたいと思ったんだ。まずはこれを見てくれ」
そう言い、私に手渡してきた。
パラパラと捲って、内容に目を通す。
「これは……帝都内にある孤児院の資料ですね」
「この一瞬で分かったか。やはり、見どころがあるな」
ニヤリとヴィーラントは笑う。
一方、この間もグレンは変に口を挟むまいと思っているのか、ただ黙って事の成り行きを見守っていた。
「五十年続いている孤児院だ。それなりに歴史と伝統がある。今まで上手くやっていたようだが……最近は不自然な資金の流用が確認された」
「そうですね。年々、予算が増えていっています。そしてそれは税金で賄われていることも」
「その通りだ。周りの人間はこれを『予算の不正利用じゃないか?』と疑っている。しかし決定的な証拠がないんだ。だから、エルナの意見が聞きたかった?」
「どうして私に?」
「ん? 最近の妃教育の結果は、俺の耳にも届いているからな。大変、優秀だと聞いている。だからお前の力を頼ろうとするのも、おかしくない話だろう?」
含みを持たせた言い方で、ヴィーラントは私にそう答えた。
なるほど……ね。
優秀だとか頼ろうだとか言っているけど、要は私の力を試そうとしているだけだ。
いくら『棘の魔法』という特異点があっても、王子の婚約者として最低限の知識は持ち合わせていなければならない。
いずれ王妃となったら、国政に携わる機会も増えるからね。ヴィーラントが私の力を見定めようとするのも不思議ではない。
だから、これは慎重に答えなければ……。
そう思い、孤児院の資料にさらに詳しく目を通していくと、不意に死に戻り前のことを思い出した。
──悪魔騒動。
この世界には悪魔と呼ばれる存在がいる。
悪魔は別の世界からやってきて、人々に害をなす。
昔の話では、上位の悪魔に一国が滅ぼされたという例も。
そんな恐ろしい連中に、ゼレギア帝国が目をつけられた。
死に戻り前、ゼレギア帝国の帝都で悪魔騒ぎが起こった。
悪魔が帝都にある孤児院を、より上位の悪魔を召喚するための儀式場として利用したのだ。
上位の悪魔が召喚されるまで、帝都の人間は誰も気が付かなかった。
召喚された悪魔は暴れ回り、帝都に甚大な被害を与えたという。
死人もたくさん出た。この悪魔騒ぎを抑えるために、帝都中の騎士や冒険者の方々が動員された。
その騒動に紛れて、窃盗や暴行といった犯罪も横行し、帝都の治安は悪化した。
有名な事件だったので、死に戻り前の私も聞き及んでいたことである。
どうしよう……。
帝都で起こった事件は多いせいで、今まで頭から抜け落ちてしまっていた。
このままでは帝都は悪魔によって蹂躙され、たくさんの人が死んでしまうだろう。
「…………」
私が考えている間も、ヴィーラントは答えを急かさずに、じっと待ってくれていた。
「……一つ、考えがあります」
「なんだ?」
好奇に満ちた視線で、ヴィーラントが私を見る。
心苦しいけど……この方法しかないよね。
私は覚悟を決めて、にこっと微笑みながらこう告げた。
「孤児院ごと焼き払いましょう」
348
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる