最凶の悪役令嬢になりますわ 〜処刑される未来を回避するために、敵国に逃げました〜

鬱沢色素

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11・孤児院の問題

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 レナルドの急な訪問があって。
 数日が経過したが、相変わらず私は妃教育で忙しく、それなりに充実した日々を過ごしていた。

 そんなある日、またもやヴィーラントに呼び出され、私は執務室に向かった。

「失礼します。あっ……」

 中に入ると、既にヴィーラントがいるのは予想通りだったが、彼の傍には護衛騎士兼執事のグレンの姿もあった。

「なにか?」
「いえ……」

 正直、ヴィーラントと話すだけでも緊張するのに、グレンもいるのだ。
 彼も感情が読みにくいタイプだし、やりにくい。

 だが、それを正直に伝えるわけにもいかず、私は口を噤む。

「来てくれたか」
「殿下の呼び出しを無視出来るほど、私も偉くありませんわ。そんなことよりも……」

 私はグレンとなるべく視線を合わせないようにして、ヴィーラントにこう質問する。

「もしかして、またレナルド殿下が来られているんですか?」

 あの時は執務室にグレンはいなかったけど……先日と同じシチュエーションだ。否応がなしに、あの日の出来事が頭をよぎる。

 だが。

「いや、そういうわけじゃない」

 ヴィーラントから返ってきたのは、そんな言葉だった。

「どうせ、また来るんだろうなと思っていたが、めっきりそういう話も聞かなくなった。脅しを入れたのが効果的だったんだろう」
「その通りでしょうね」
「まあ……今後も同じとは限らないがな。とはいえ、安心してほしい。エルナが俺の婚約者である限り、守ってやる。なにせお前は、俺の大事な婚約者なんだからな」

 私を見つめるヴィーラント。
 彼の顔を見ていると、先日抱きしめられた記憶が蘇ってきて、顔が熱くなってしまう。

 とはいえ、勘違いしてはいけない。
 ヴィーラントのいう『大事な』というのは、私が『棘の魔法』の使い手だから。
 存在価値を示さなければ、いつ捨てられてもおかしくない立場だということを。

「で、では、今日はどのようなご用があって、私は呼び出されたんでしょうか?」

 恥ずかしさを誤魔化すように、私は彼に続けてそう問いかける。

「うむ……」

 するとヴィーラントは執務机の引き出しから、紙束を取り出して、

「実はな……問題があってな。お前の意見を聞いてみたいと思ったんだ。まずはこれを見てくれ」

 そう言い、私に手渡してきた。
 パラパラと捲って、内容に目を通す。

「これは……帝都内にある孤児院の資料ですね」
「この一瞬で分かったか。やはり、見どころがあるな」

 ニヤリとヴィーラントは笑う。

 一方、この間もグレンは変に口を挟むまいと思っているのか、ただ黙って事の成り行きを見守っていた。

「五十年続いている孤児院だ。それなりに歴史と伝統がある。今まで上手くやっていたようだが……最近は不自然な資金の流用が確認された」
「そうですね。年々、予算が増えていっています。そしてそれは税金で賄われていることも」
「その通りだ。周りの人間はこれを『予算の不正利用じゃないか?』と疑っている。しかし決定的な証拠がないんだ。だから、エルナの意見が聞きたかった?」
「どうして私に?」
「ん? 最近の妃教育の結果は、俺の耳にも届いているからな。大変、だと聞いている。だからお前の力を頼ろうとするのも、おかしくない話だろう?」

 含みを持たせた言い方で、ヴィーラントは私にそう答えた。

 なるほど……ね。
 優秀だとか頼ろうだとか言っているけど、要は私の力を試そうとしているだけだ。

 いくら『棘の魔法』という特異点があっても、王子の婚約者として最低限の知識は持ち合わせていなければならない。
 いずれ王妃となったら、国政に携わる機会も増えるからね。ヴィーラントが私の力を見定めようとするのも不思議ではない。

 だから、これは慎重に答えなければ……。

 そう思い、孤児院の資料にさらに詳しく目を通していくと、不意に死に戻り前のことを思い出した。



 ──悪魔騒動。



 この世界には悪魔と呼ばれる存在がいる。
 悪魔は別の世界からやってきて、人々に害をなす。
 昔の話では、上位の悪魔に一国が滅ぼされたという例も。


 そんな恐ろしい連中に、ゼレギア帝国が目をつけられた。


 死に戻り前、ゼレギア帝国の帝都で悪魔騒ぎが起こった。
 悪魔が帝都にある孤児院を、より上位の悪魔を召喚するための儀式場として利用したのだ。
 上位の悪魔が召喚されるまで、帝都の人間は誰も気が付かなかった。

 召喚された悪魔は暴れ回り、帝都に甚大な被害を与えたという。
 死人もたくさん出た。この悪魔騒ぎを抑えるために、帝都中の騎士や冒険者の方々が動員された。
 その騒動に紛れて、窃盗や暴行といった犯罪も横行し、帝都の治安は悪化した。

 有名な事件だったので、死に戻り前の私も聞き及んでいたことである。

 どうしよう……。
 帝都で起こった事件は多いせいで、今まで頭から抜け落ちてしまっていた。

 このままでは帝都は悪魔によって蹂躙され、たくさんの人が死んでしまうだろう。

「…………」

 私が考えている間も、ヴィーラントは答えを急かさずに、じっと待ってくれていた。

「……一つ、考えがあります」
「なんだ?」

 好奇に満ちた視線で、ヴィーラントが私を見る。

 心苦しいけど……この方法しかないよね。

 私は覚悟を決めて、にこっと微笑みながらこう告げた。

「孤児院ごと焼き払いましょう」
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