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キリちゃん視点

エピローグ2 新たな企みという名のプロローグ

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 美しい整った道路、そびえ立つ建物はどれも洗練されたデザインで日の光を浴びてキラキラと輝く。植樹されている木々は青々と美しく輝き、その先端には得も言えぬ宝石の花を咲かせて、道行く神々の目を楽しませている。
 そんな美しい街並みから少し外れると、たちまち辺りは人気の無い、うっそうとした原生林に差し掛かる。道とも言えぬような獣道を歩いて暫くするとポツンと年季の入ったオンボロ木造のアパートメント。周りは高くそびえる木々で常に日当たりが悪くお世辞にも住みやすいとは言えない環境。
 私はそのアパートメントの一室の前に立つ。ドアのすぐ傍には人間の世界でも滅多に見なくなった蓋が壊れた二層式洗濯機が置かれていて、哀愁が漂う。
 一応呼び鈴を鳴らすと中から「開いてるわよ~」と返事がある。
 私は返事を聞いてからドアを開け、狭い1Kの部屋の中に入る。
 そこには全身包帯を巻いた”先生”が煎餅布団に横たわっていた。

「や~、ビーナス。久しぶり~。そろそろ訊ねてくると思ってたわ~。てか、そろそろ来てくれないと色々やばかった。」

「せ、先生!?うっ・・・この臭い・・・」

「や~、最初は能力で何とかしてたんだけどさ~。変換できる物無くなっちゃって~。あっ、差し入れとかない?もう何日も飲まず食わずなんだよね~。死なないけどきついわ。あと、外ではその態度ダメよ。私とあなたは友達って事にしてるんだから。」

「分かってます、先生。二人きりの時だけですから。それよりも、どこの神に誰にやられたんです!ぶっ殺してきます!そいつ!」

「私が神同士の揉め事でこんなになると思う?」
 そう言って先生はケラケラと笑う。確かに・・・先生ほどの実力者がその辺の神と争ってこんな風になるとは思え無かった。

 先生はニヤリと笑い、
「聞いて驚くわよ~。これね・・・下界の奴にやられたの。しかも素手よ?素手。」

「そんなまさか!?」
 それこそありえない!?下界の奴がライブラ様を素手で!?こんな風にするなんて!?・・・そうだ!手を抜いたとしか・・・
「天秤の力を縛ったとかですか!?」

「違う違う。最後は全力で能力を使って逃げたわ。一瞬で距離を詰められて、防御結界も障子紙を破るみたいだったわよ。それでこの様ってわけ。ま、そもそも正面からのぶつかり合いじゃなければ幾らでもやりようはあったんだけどね。」
 そう言って包帯グルグル巻きの手を上げる。
 
 先生の話はにわかには信じられない。先生の戦闘スタイルの本領は決して正面からではない。しかし例え正面からの打ち合いでも殆どの神が先生には勝てないだろう。私もそうだ。
 それが下界の奴に先生以上の実力者が!?ありえない・・・それに余りにも危険だ!それはつまり正面切っての戦いなら、ほぼすべての神に勝てる奴が下界に存在してるってことだ。

「先生・・・そいつを処分しなければ・・・」
 私は酷く冷たい口調でそう言うが、先生はあっけらかんとして

「大丈夫よ。もう死んでいる。もう一人は・・・発動出来ないでしょうね・・・」

「二人も居るんですか!?そんなやばい奴!!」

「大丈夫だって。お前は心配性だなぁ~。ただ・・・始末しないといけない奴は出来た。」
 
「誰です?そいつ。私に任せてください!ぶっ殺してきます。」
 私は身を乗り出し興奮気味に志願する。

「まぁまぁまぁ~。お前は遊び心が足りなくて駄目ね~。それにお前じゃ難儀するわよ?」
 私の顔を押しのけて挑発的な顔で先生は言う。

「む?私が下界の奴に遅れを取るとでも?」
 私は膨れて反論した。

「下界の奴じゃないわ。この神界の奴よ。」
 
「か、神殺しですか・・・?先生・・・」
 バレたら重罪だ。流石に私も尻込みする。

「そうよ。獣をやらないとダメだわ。」

「獣の神を!?」
 まずい・・・確かにアイツは私では厳しい・・・。それを秩序の神の目を掻い潜って成し遂げるとなると不可能だ。
「何故やつを始末しなければならないんです!?」

「私をこんな風にした奴が私と獣との共同作業で作った”アイツ”だからよ。」

「まさかっ・・・・!あのときの人間が!?」
 先生はあの人間が神殺しを為す能力値になるかもしれないと言っていたが・・・これ程になるとは・・・

「この手法は闇に葬らなければならないわ。お前と私以外知っていてはならない。分かるでしょ?獣には”代替わり”して貰うわ。」

「でも、私がやらないとなると・・・先生の傷が治ってから、手ずからですか?」

「お前は・・・ほんっとうにつまらないわね~。」
 呆れ顔で言われてしまう。だって・・・それ以外何があるのですか。

「今度、あの下界の奴等に脱出のチャンスを与えるの。獣をね・・・そのチャンスの最後の障壁にするのよ。」
 恍惚の表情でそう言う先生。ああ・・・痛々しい姿なのにとても楽しそう。
 いいな~、下界の奴らは。先生にこんなにも愛してもらって。私も昔みたいに愛してくれないかしら?いいや・・・それではダメよ!私も先生の望むことをして少しでも愛していただけるよう努力しなくちゃ!
 しかし・・・

「先生。楽しそうなところ申し訳ないのですが、下界の奴が獣に勝てるなんてとても思えません。あいつの速さに付いていける奴なんて先生の使徒でも無理でしょう?」

「そうね。”今の”下界の子らの中に勝てる奴なんて居ないわ。・・・でも~・・・」
 そう言って、先生は怪我をしている腕で自身を指す。
「ね?居るでしょ?獣を殺れそうなやつ。」

「ええ!?でもさっき・・・死んだって・・・能力発動できないって・・・」

「下界の奴等の勝ち筋は用意するわ~。その勝ち筋を手繰り寄せれるかどうかは知らないけど。駄目だった場合は私が獣を始末する。でも、あいつらは・・・きっと成功させる。こういう時の私の勘は当たるのよ。」
 ギャンブルでスリまくって、こんな貧乏暮らしをしている人が何言っているんだろう?と、いつもならそう思うところだが、不思議とこういう時だけ当てるんだ。この人は・・・

「作戦は至ってシンプルに考えてる。ただその為に大量の代償が要るわ。かき集めて頂戴。あと、お前は秩序の奴と取引できるよう賭場の証拠を集めておきなさい。この余興もそろそろ終いよ。お前まで豚箱に行くことないわ。」
 
 先生・・・!私を守ろうと・・・そこまで・・・なんてお優しい。
 
「先生・・・わかりました。お任せください!後は何をすればよろしいでしょうか?」

「そうねぇ~。とりあえず・・・お腹減った、喉乾いた~。後、身体綺麗にして~。」
 今まで凛々しかった先生が液体のように『ぐてー』っとへたる。
 ああ!おいたわしや、先生。不肖、先生の一番ペット(自称)である、この美の神が先生のお世話をさせていただきま~す。ぐふ、ぐふふ・・・

「ぐへへ・・・わかりました!下は・・・はぁはぁ・・・舐めとればよろしいですね?じゅるり・・・」
 おっと、うっかり涎が出てしまいましたわ。私ったらはしたない・・・

「よろしいですね?・・・ちゃうわ!変態!自重しろ!」
 先生が青い顔して私を叱る。そうは言っても・・・でゅふふふ・・・先生はそう・・・満・身・創・痍!何もできまい。隅々まで”綺麗に”して差し上げますから~。というわけで~、いただきま~す!

「ちょ!や、やめ・・・アーーーーーーーー!!!!」

 今日は晴天。気持ちの良い日差しもこのオンボロアパートには届かない。薄暗い人気のない森に一人の神の叫びがこだまする。
 先生と私の共同作業はまだ始まったばかりだ♡


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