快晴に咲く

雫花

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訪ね歩くは静かなる水

水の街

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 道中で魔獣も何匹か現れたが、難なく倒し肉をはぎ取る。
 ビオンの得意な空間魔法で荷物をしまい、身軽な状態で歩く。


「お、ちょっとだけ涼しくなってきたね」

「そうだな。近いな」

「ふあ……マシなの……」


 それからしばらく歩くと、石畳が現れる。
 少し青みがかった石を使用しているため、水の涼しさが一層強くなる。
 街の門番はやはりおらず、花だけが咲いていた。

 街の中を見ても、栄えていた水の街は驚く程に静かになっていた。


「やっぱり……人間は居ないみたいだね」

「でもこの街にだってほかの魔法使い居るだろ?」

「いると思うけど、引きこもってるんじゃないかなあ」


 とにかく、確実性を求めてリジェネの屋敷を目指す。
 この街は、リジェネの屋敷を頂点にしてかなり傾斜のある地形を利用し、水を上から下へ流している。
 この水は循環しており、その過程で濾過を挟むため生活水に使われているようだ。

 街の景観は真っ白な壁を使用している。そのため、この天気ともなれば眩しいくらいだった。この白さが維持されているということは、誰かが外壁掃除をしているのは間違いないだろう。

 階段が多い為、やはり浮いて移動する。


「にしても、水の音だけで涼しいね」

「そうだな、あると無いとじゃ天と地の差だ」


 屋敷はそう遠くはなく、上を目指し数分移動すると街の1番上段に見えた。


「あれがリジェネ様のおやしき?」

「そうだ」


 屋敷の玄関に降り立ち、セイカはマホを抱えて移動していたため地面に降ろす。
 真っ白な外壁と、白い鉄作に囲まれた屋敷だ。木製の扉だが、木目がキメ細やかで白い装飾が施されている。


「リジェネー!居るかー!」


 セイカは大声で呼び掛ける。すると、しばらくして扉が開いた。


『わう!!!』


 扉の中から出迎えたのは、白く賢そうな中型の従魔だった。
 リジェネは昔から、妖精ではなくこの従魔を連れている。
 言葉は話さないが、指示はよく通るようだ。


「お。久しぶりに見たコイツ。連れてってくれんの?」

「可愛いねえアッシュちゃん~」

『ご主人様……浮気ですか……』

「あっ、ちがうよララも可愛いよ」

『わう!わう!』

「着いてきて欲しいみたいだね!えへへ!可愛いねえ!!」

『マホが嬉しそうで何よりだわ。行きましょう』


 従魔のアッシュに連れられ、リジェネの居るであろう部屋へとむかう。
 主の部屋に相応しい、白い装飾が施された扉が見えてくる。
 その扉を、アッシュは器用に開ける。


『わう!』

「お。連れてきたかアッシュ。待っていたぞセイカ…………、多くないか?」

「そうか?えっとなー、ビオンとー」

「いや、ビオンは見れば分かる。元気か?」

「うん、セイカのおかげで元気だよ」

「んで、そのチビが俺の弟子でこの白いのが弟子の妖精」

「名前を教えろ名前を。相変わらず下手くそだな」

「弟子のマホです!えっと……5歳!」

『マホの妖精リリィよ。よろしくねリジェネ』

「ああ、よろしく2人とも。ゆっくりしていくとい」


 リジェネはそう言って微笑むと、ソファから立ち上がりマホに目線を合わせ頭を撫でた。


「師匠はどうだ?コイツ教えるのが下手くそだろう」

「えへへ、でもね師匠、やさしーよ!マホに魔力をくれたの!助けてくれたの!」

「ほー?お前にしちゃ珍しいなセイカ?弟子をとるところから驚きだがな」

「してくれって言われてな……妖精召喚出来たら考えるって言ったら次の日にやってのけるし白妖精だし……」

『ウフフッ、でも何となくできる気がしてたのでしょう?うちのマホは優秀だもの』

「まぁな……。このクソ暑い中だ、とりてぇ冬の薬草が生えてすらいねぇし、夏の薬草ばっかで教えることなんもねぇんだよ」

「夏はマホ覚えちゃった……」

「え?夏は覚えちゃったのか君?凄いなセイカ、この子は天才だお前の教えなのに」

「なんだ?喧嘩か?」


 そうして会話をしていくうちに、マホの表情も和らいでいった。リジェネはマホが緊張していると分かったのだろう。
 それから、今までの事と他の魔法使いの事を軽く話す。
 リジェネは紅茶を1口のみ、そうか、と呟いた。


「クラウド卿がお元気で何よりだな。さて……その晴花だが、俺の泉の女神が昔おとぎ話を読んでくれたような気がするな。あと師匠」

「そうなのか?お前の泉ってどこだ。あと師匠は」

「泉はここから南に3kmくらいだな。さして遠くもない。師匠はこの街の前守護者だ。まだ街にいるとは思うが、……えっとだな……凄くヨボヨボなんだ……」

「は?何歳だよ」

「しらん、もう数えてないらしい。歯が抜けて何言っているか分からんのだ」

「おぉ……。なんかこう……入れ歯とか……人間が使ってるやつあるだろアレ」

「持ってるようだが、気持ち悪いと言ってつけないんだ」

「難攻不落だな。俺はお前の予想通り年寄りの暗号は訳が分からん。ビオンに任せた」

「え!?」


 プラチナ魔法使い3名が、たった1人の老魔法使いに頭を悩ませている光景はかなり滑稽だった。
 本来魔法使いは寿命の長い分、老ける速度もかなり遅い。
 そして、年老いた魔法使いはとても珍しい。魔獣との戦闘、魔法使い特有の病などで大半が若い見た目のうちに亡くなる事が多い。
 それほどに老けているのなら、万などとうに超えているのだろう。


「女神と老人かあ……まぁ、長く生きてればそれだけ昔のことは知ってるハズだ。女神は泉から動けないから口伝しかないが、動ける魔法使いの話も別視点から聞いておきたい」

「なら師匠には聞かねばならんな。師匠はこの街の1番下の居住区に居る。歳が歳だからな、上に来ると腰がダメだそうだ」

「わかった…。飛べばいいのに……」

「それは思う。が動きたくないらしい。それとセイカ、お前は女神の方だろう。泉はココだ」


 リジェネが地図を出し、その地点に丸を付ける。
 それを受け取り、セイカはローブの内側にしまった。

 マホはどうするかと聞くと、しばらく悩んだあとここで遊んでいると言った。疲れているのだろう。


「じゃ、マホ良い子にしてろよ。1人で外に出ないで、リジェネと一緒にいろ」

「はーい!」

「いい返事だ。じゃあ行ってくるわ」

「ああ、安心して行ってこい。お前の可愛い弟子は俺とアッシュが見守ってる」

「おう、頼むぜ」


 セイカはそのまま、女神の元へ出かけていくのだった。

 セイカの背を見送ると、リジェネはひとつ息をつき、少し待っていろとマホに言った。
 しばらく部屋で待っていると、リジェネは縦に連なった皿に大量のスイーツを乗せてやってきた。


「ほら、好きなだけ食べていいぞ」

「わぁぁ!!リジェネさま、これなぁに!?」

「これは人間から魔法使いに伝わった文化、アフタヌーンティーというらしい。本来サンドイッチなども乗っているが……今日はスイーツだ」

「わぁぁぁ……!!!ぴんく!みどり!すごーい!」

「マカロンだな。とても甘くて美味しいぞ」


 目を輝かせて出されたスイーツを頬張る。目の前で嬉しそうにスイーツを頬張るマホを、リジェネも嬉しそうな顔で眺めていた。


「なぁマホ、セイカは好きか?」

「うん!大好き!セイカさまかっこいいし、優しいし、あとねあとね、強いの!」

「あっはは、そうだな、セイカはあんな感じだが、学生時代かなり女子にモテていたんだぞ」

「もて?」

「女の子に沢山好きですと言われていたんだ。凄いだろう?全て冷たくあしらっていたが」

「すごーい!!あのね、村のねおねーさん達もね、セイカ様とビオン様にね、きゃー!かっこいいー!ていってた!」

「ははっ、そうかそうか、変わらないなあ」

「リジェネさまは、なんさいなの?」

「俺は3500歳だ。学生の頃のセイカ達を知ってるのは、しばらくの間、学園の研究員だったからだ」

「すごぉーい!!」


 リジェネは、マホの子供特有の質問攻撃に笑顔で答え続けた。
 その様子からも、マホは短い期間でセイカが大好きになったのだと容易に分かる。良い師匠であることは間違いないようだった。

 スイーツを美味しそうに頬張るマホを、リジェネはただにこやかに見守り、その後は従魔とふれあい遊び、疲れてソファで眠ってしまった。
 毛布を掛け、2人の帰りを待つ。早いのはビオンだろう。

 人が居なくなり魔法使いのみとなったこの世界で、そこにはただ、子供を見守る優しい男性の姿があった。
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