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壱ノ章:災いを継ぐ者
第26話 瞬殺
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騒ぎを聞きつけた風巡組のチンピラたちは、料亭の奥へと向かいかけた。が、曲がり角の向こうから殺気が迸った気がして一斉に立ち止まる。距離はかなりある。いくつか持ってきている拳銃でも構えて狙い撃ちにすればいい。確かにそう思ったのだが、なぜか使う気になれない。標的として霧島龍人について紹介され、彼が仲間に対して行った所業を知らされた事で、彼らはとんだ貧乏くじを引かされたと薄々感づいていた。
”ただの拳銃程度では殺せない”…目撃情報から分かっていた確かな情報である。案の定、そんな最悪の相手が曲がり角からゆっくりと姿を現した。開醒によって顔や体の脈が輝いており、その姿があの玄紹院佐那の弟子…すなわち幽生繋伐流の使い手である事を証明していた。人間の小僧を殺せと、兼智は怒鳴り散らすように命令して自分達を送り込んだが、あの口先と金持ちである事以外に取り柄のないバカもつれて来るべきだったとその場にいたチンピラの誰もが思っていた。小僧だなんてとんでもない。人の姿に擬態した得体の知れない魔物のように見えたのだ。
「抵抗しない相手は殺せる癖に、たかが俺一人にビビってんのか」
龍人の言葉には憤りは勿論の事、僅かに呆れが含まれていた。他の部屋にいた客の死体を見たからだろう。理由を付けて暴れたいだけの馬鹿の集まり風情が、一丁前に仕事人を気取っている滑稽さが癪に障った。
最前でたじろいでいた一人がヤケクソ気味に走ってきた。あまり使い込まれていない、この時のためだけにわざわざ購入したかのような新品のバットを持っていたがそれを振り下ろしてくる。素人め。龍人はそれを横へ避けながらそう思った。床へ叩きつけられたバットを龍人へ向けてもう一度振りかぶろうにも、廊下の壁が邪魔で上手く振り回せないのだ。狭い空間で長尺の物は使うべきではない。慣れてないのなら猶更である。
相手が余計な事をしてくる前に龍人は拳をチンピラの顔面に当てた。一撃で倒れ、血を吐く彼の姿を尻目に印を結んで武装錬成を行う。両手の間から現れたのは、小さな刃物…短刀であった。佐那の様に槍などの大きな刃物はまだ作れないが、この程度なら彼にもできる。それを逆手で持って動き出すと、背後の曲がり角から颯真も射撃を始めた。
銃による援護射撃をする颯真と、短刀で前列から斬り殺していく龍人の二人を相手にするのは分が悪いと判断したのか、後方にいたチンピラ達は一瞬躊躇いつつも撤退を決めた。立ち向かっては刺され、斬られ、殴られ、蹴られ、撃たれる仲間たちを尻目に玄関からもつれるように飛び出していく。だが、別の脅威が迫っていた。
空から義翼が飛来した。誰かの背中に取り付けられているわけでは無い。銀色の翼のみが滑空するかのようにチンピラ達の下へ突っ込んで来る。そして翼の羽に備わった刃で羽毛に覆われた肉体を斬り裂いた。
「何だ⁉」
銃撃を浴びせるものの、強固な金属で作られたその義翼が相手では、せいぜい傷を作る程度が限界だった。まるで自立した意識を持ってるかの如く義翼は暴れ回り、料亭から逃げだした者達をたちまち殲滅する。やがて建物の方からも、血濡れになった龍人が出てきた。息がある者を見つけて念入りにトドメを刺しながら颯真も後に続く。
「うぉっ」
屍の海のど真ん中で、翼をはためかせながら待機している義翼を見つけた龍人が動揺した。
”生体ID照合完了、登録者の生存を確認”
義翼からそんな平坦な声が聞こえた。やがて颯真の方にゆっくり寄って行き、彼が背を向けたタイミングで針の様な形状をした結合用のアームを見せる。そして背骨に沿うようにして埋め込まれたインプラント機器に突き刺さった。
「おあっ…ううん…」
颯真がほんの少しだけ苦悶の表情を浮かべる。やはり痛いのだろうか。複数本あるアームがインプラント機器の挿入口に全て刺さり、ゆっくりと沈み込んで連結される。それが終わってから自分の意思で義翼を動かして動作を確認する。問題ないらしく颯真は若干満足げだった。
「最近導入してみたはいいけど結合する時に痛いし、服が破れるのが難点なんだ。この遠隔操作。だから市販の物には搭載してない」
一難去ってリラックスしたのか、解説をしながら颯真は背伸びをした。一方で龍人はどうも穏やかじゃない雰囲気で周辺に倒れているチンピラたちを睨む。
「こいつら、やっぱりあのピンク野郎に言われてんのかな」
「まあそうだろ。自分がやり返された途端ムキになるタイプっているしな」
「風巡組を潰すって言ったが、この後ずっとこうやって追われるんじゃまともに準備も出来ないぞ。何とかしないと」
「それはそう。対策を考えるついでに呑み直そうぜ。どこか店知ってるか ? 邪魔が入らなそうで、そこそこ美味い場所」
「……一軒、知ってる」
颯真の提案を龍人は承諾し、少し悩んだ末にスマホを使ってアンディの電話番号へと連絡をかける。そして二名で予約を入れた。
”ただの拳銃程度では殺せない”…目撃情報から分かっていた確かな情報である。案の定、そんな最悪の相手が曲がり角からゆっくりと姿を現した。開醒によって顔や体の脈が輝いており、その姿があの玄紹院佐那の弟子…すなわち幽生繋伐流の使い手である事を証明していた。人間の小僧を殺せと、兼智は怒鳴り散らすように命令して自分達を送り込んだが、あの口先と金持ちである事以外に取り柄のないバカもつれて来るべきだったとその場にいたチンピラの誰もが思っていた。小僧だなんてとんでもない。人の姿に擬態した得体の知れない魔物のように見えたのだ。
「抵抗しない相手は殺せる癖に、たかが俺一人にビビってんのか」
龍人の言葉には憤りは勿論の事、僅かに呆れが含まれていた。他の部屋にいた客の死体を見たからだろう。理由を付けて暴れたいだけの馬鹿の集まり風情が、一丁前に仕事人を気取っている滑稽さが癪に障った。
最前でたじろいでいた一人がヤケクソ気味に走ってきた。あまり使い込まれていない、この時のためだけにわざわざ購入したかのような新品のバットを持っていたがそれを振り下ろしてくる。素人め。龍人はそれを横へ避けながらそう思った。床へ叩きつけられたバットを龍人へ向けてもう一度振りかぶろうにも、廊下の壁が邪魔で上手く振り回せないのだ。狭い空間で長尺の物は使うべきではない。慣れてないのなら猶更である。
相手が余計な事をしてくる前に龍人は拳をチンピラの顔面に当てた。一撃で倒れ、血を吐く彼の姿を尻目に印を結んで武装錬成を行う。両手の間から現れたのは、小さな刃物…短刀であった。佐那の様に槍などの大きな刃物はまだ作れないが、この程度なら彼にもできる。それを逆手で持って動き出すと、背後の曲がり角から颯真も射撃を始めた。
銃による援護射撃をする颯真と、短刀で前列から斬り殺していく龍人の二人を相手にするのは分が悪いと判断したのか、後方にいたチンピラ達は一瞬躊躇いつつも撤退を決めた。立ち向かっては刺され、斬られ、殴られ、蹴られ、撃たれる仲間たちを尻目に玄関からもつれるように飛び出していく。だが、別の脅威が迫っていた。
空から義翼が飛来した。誰かの背中に取り付けられているわけでは無い。銀色の翼のみが滑空するかのようにチンピラ達の下へ突っ込んで来る。そして翼の羽に備わった刃で羽毛に覆われた肉体を斬り裂いた。
「何だ⁉」
銃撃を浴びせるものの、強固な金属で作られたその義翼が相手では、せいぜい傷を作る程度が限界だった。まるで自立した意識を持ってるかの如く義翼は暴れ回り、料亭から逃げだした者達をたちまち殲滅する。やがて建物の方からも、血濡れになった龍人が出てきた。息がある者を見つけて念入りにトドメを刺しながら颯真も後に続く。
「うぉっ」
屍の海のど真ん中で、翼をはためかせながら待機している義翼を見つけた龍人が動揺した。
”生体ID照合完了、登録者の生存を確認”
義翼からそんな平坦な声が聞こえた。やがて颯真の方にゆっくり寄って行き、彼が背を向けたタイミングで針の様な形状をした結合用のアームを見せる。そして背骨に沿うようにして埋め込まれたインプラント機器に突き刺さった。
「おあっ…ううん…」
颯真がほんの少しだけ苦悶の表情を浮かべる。やはり痛いのだろうか。複数本あるアームがインプラント機器の挿入口に全て刺さり、ゆっくりと沈み込んで連結される。それが終わってから自分の意思で義翼を動かして動作を確認する。問題ないらしく颯真は若干満足げだった。
「最近導入してみたはいいけど結合する時に痛いし、服が破れるのが難点なんだ。この遠隔操作。だから市販の物には搭載してない」
一難去ってリラックスしたのか、解説をしながら颯真は背伸びをした。一方で龍人はどうも穏やかじゃない雰囲気で周辺に倒れているチンピラたちを睨む。
「こいつら、やっぱりあのピンク野郎に言われてんのかな」
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「風巡組を潰すって言ったが、この後ずっとこうやって追われるんじゃまともに準備も出来ないぞ。何とかしないと」
「それはそう。対策を考えるついでに呑み直そうぜ。どこか店知ってるか ? 邪魔が入らなそうで、そこそこ美味い場所」
「……一軒、知ってる」
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