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21章 責任
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「ほう……まだ、何かあるというのか」
裁判長は席に座り直す。
大臣様を挟んで座っているルーク様とお兄様。
わたしはてっきり、ルーク様もこれからお兄様が言おうとしていることはご存知なのかと思っていたけど、大臣様同様、ルーク様も訝しげにお兄様を見ている。
きっと、これは2人の間で打ち合わせていないことなのだろう。
「見て欲しいものがあります」
お兄様はそう言うと、裁判官の前に歩み出る。
懐に手を入れると、小さな封筒を出し、そこから何か茶色と白の色が付いた物を裁判長の前に置く。
3人の裁判官は、お兄様が差し出したそれを、覗き込むようにしている。
「これは、何かね?」
「これは、わたしの妹であるジーナ・ミラーが魔獣に襲われた時に側に落ちていたものです」
前世のわたしの名前が出て、傍聴席の人達も裁判官達も首を傾げる。
「ここは王族の裁判の席ですよ。貴殿の妹が魔獣に殺されたのは不幸な事故であったが、今は関係が」
「いえ。王女の罪です」
裁判長の言葉を遮り、お兄様はきっぱりと言い切った。
そして、くるりと向きを変え、王女に向き直る。
「ローゼリア王女、俺は不思議だったんだ。何故、唐突にあの日魔獣が学園内に入ってきたのか。何故ジーナを狙うように魔獣はジーナを追いかけて行ったのか。その理由がこのハンカチです」
睨みつけるお兄様を、ローゼリア様は目を見開いて見つめ返す。
「魔獣が学園内に入ってくる少し前、学園で管理されている模擬剣が刃を潰していない剣にすり替えられる事件がありました。そして、その時に剣で切り付けられたのはルーク様です。わたしの妹のジーナは光の魔法保持者でした。ルーク様を治療するためにやってきて、自分のハンカチでルーク様の血を拭ったのです」
そういえば、そんなこともあったかも……。
あの時はびっくりしたけど、ルーク様の傷も深くなくて……。
あれ? ほんとだ。
ルーク様の血を拭った後、ハンカチをどうしたか記憶にない。
血液の染みは落ちないから、ゴシゴシと洗うはずなのに、洗った記憶がない。
「ルーク様は英雄です。英雄の血は魔獣を酔わせる。なんらかの方法で、ルーク様の血のついたハンカチを手に入れた者が、それを使って魔獣を学園におびき寄せたのです。実行犯は、ローゼリア王女に付いて回っていたモニカ・フリーク男爵令嬢。どうですか? ローゼリア王女」
ローゼリア様は、目を見開いて首を振る。
「知らない……知らないわ。わたくしは確かにモニカを側に置いていましたわ。でも、モニカが何をしていたかまでは、わたくしの預かり知らぬこと。わたくしのせいではありません」
「そうですか……。では、もう一つお見せしたいものを出しましょう」
お兄様は一冊の冊子を出した。
それは、紐閉じしてある薄い帳簿のようで、かなり古そうなものだった。
「これは、王宮書庫の訪問記録です。王宮内にある図書館は王宮奉公人なら誰でも閲覧可能ですが、王宮書庫は王族と王族の許可がある者しか入れない。ここに出入りする者は滅多にいない。王族もほとんど訪れないが、その時代の宰相や大臣などはポツリポツリと訪問記録があります」
お兄様は、厳しい目でローゼリア様を睨みつける。
「ここに、ニーナが死んだあの年に、モニカ嬢の訪問記録があるんですよ。それも何日にも渡って、何回も。それを許可した人物はローゼリア王女、あなたです」
お兄様は裁判官の真ん前から、ローゼリア様の近くへと移動する。
「王宮書庫の閲覧許可証だけじゃない。学園で剣がすり替えられた事件の前日、夜間の学園立ち入り許可証もローゼリア王女の名前で発行されている。これらは、王族に力があった当初は、どんなに調べても世に出ることはなかった。各所が王族の為に秘匿していたからだ」
ダンっ!!
お兄様はローゼリア王女の立つ証言台に、音を立てて手をついた。
「モニカ嬢は実行犯。そして、共犯者はあんただ。ローゼリア王女」
裁判長は席に座り直す。
大臣様を挟んで座っているルーク様とお兄様。
わたしはてっきり、ルーク様もこれからお兄様が言おうとしていることはご存知なのかと思っていたけど、大臣様同様、ルーク様も訝しげにお兄様を見ている。
きっと、これは2人の間で打ち合わせていないことなのだろう。
「見て欲しいものがあります」
お兄様はそう言うと、裁判官の前に歩み出る。
懐に手を入れると、小さな封筒を出し、そこから何か茶色と白の色が付いた物を裁判長の前に置く。
3人の裁判官は、お兄様が差し出したそれを、覗き込むようにしている。
「これは、何かね?」
「これは、わたしの妹であるジーナ・ミラーが魔獣に襲われた時に側に落ちていたものです」
前世のわたしの名前が出て、傍聴席の人達も裁判官達も首を傾げる。
「ここは王族の裁判の席ですよ。貴殿の妹が魔獣に殺されたのは不幸な事故であったが、今は関係が」
「いえ。王女の罪です」
裁判長の言葉を遮り、お兄様はきっぱりと言い切った。
そして、くるりと向きを変え、王女に向き直る。
「ローゼリア王女、俺は不思議だったんだ。何故、唐突にあの日魔獣が学園内に入ってきたのか。何故ジーナを狙うように魔獣はジーナを追いかけて行ったのか。その理由がこのハンカチです」
睨みつけるお兄様を、ローゼリア様は目を見開いて見つめ返す。
「魔獣が学園内に入ってくる少し前、学園で管理されている模擬剣が刃を潰していない剣にすり替えられる事件がありました。そして、その時に剣で切り付けられたのはルーク様です。わたしの妹のジーナは光の魔法保持者でした。ルーク様を治療するためにやってきて、自分のハンカチでルーク様の血を拭ったのです」
そういえば、そんなこともあったかも……。
あの時はびっくりしたけど、ルーク様の傷も深くなくて……。
あれ? ほんとだ。
ルーク様の血を拭った後、ハンカチをどうしたか記憶にない。
血液の染みは落ちないから、ゴシゴシと洗うはずなのに、洗った記憶がない。
「ルーク様は英雄です。英雄の血は魔獣を酔わせる。なんらかの方法で、ルーク様の血のついたハンカチを手に入れた者が、それを使って魔獣を学園におびき寄せたのです。実行犯は、ローゼリア王女に付いて回っていたモニカ・フリーク男爵令嬢。どうですか? ローゼリア王女」
ローゼリア様は、目を見開いて首を振る。
「知らない……知らないわ。わたくしは確かにモニカを側に置いていましたわ。でも、モニカが何をしていたかまでは、わたくしの預かり知らぬこと。わたくしのせいではありません」
「そうですか……。では、もう一つお見せしたいものを出しましょう」
お兄様は一冊の冊子を出した。
それは、紐閉じしてある薄い帳簿のようで、かなり古そうなものだった。
「これは、王宮書庫の訪問記録です。王宮内にある図書館は王宮奉公人なら誰でも閲覧可能ですが、王宮書庫は王族と王族の許可がある者しか入れない。ここに出入りする者は滅多にいない。王族もほとんど訪れないが、その時代の宰相や大臣などはポツリポツリと訪問記録があります」
お兄様は、厳しい目でローゼリア様を睨みつける。
「ここに、ニーナが死んだあの年に、モニカ嬢の訪問記録があるんですよ。それも何日にも渡って、何回も。それを許可した人物はローゼリア王女、あなたです」
お兄様は裁判官の真ん前から、ローゼリア様の近くへと移動する。
「王宮書庫の閲覧許可証だけじゃない。学園で剣がすり替えられた事件の前日、夜間の学園立ち入り許可証もローゼリア王女の名前で発行されている。これらは、王族に力があった当初は、どんなに調べても世に出ることはなかった。各所が王族の為に秘匿していたからだ」
ダンっ!!
お兄様はローゼリア王女の立つ証言台に、音を立てて手をついた。
「モニカ嬢は実行犯。そして、共犯者はあんただ。ローゼリア王女」
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