もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
228 / 255
21章 責任

10

しおりを挟む
肩を落とし、髪もほつれたままで証言台に立つローゼリア様。
かつて着ていた豪華なドレスもなく、ベージュのワンピースのみ。もちろん、パニエもない。
ただ、顔にある白い包帯だけが、真っ白く光を反射させている。

そこに、かつて美貌の王女として名を馳せた姿はなかった。

ざわざわと細波のように、傍聴席の市民からつぶやきがもれる。
変わり果てた自国の王女に、思うところもあるのだろう。

また、裁判長がガベルを鳴らす。
「ローゼリア王女、これよりあなたの裁判が始まります。嘘偽りなく、事実を述べるように」

裁判長がローゼリア様にゆっくり諭すように言う。
でも、ローゼリア様は俯いたまま、返事をしなかった。

「ローゼリア王女、あなたはこの討伐が無意味なものであると知っていましたか?」

裁判長の問いかけに、ローゼリア様は顔を上げた。

「……はい」
「知っていて国民に知らせることなく、国民が死んでいくのを黙って見ていたということですね?」
「……はい」

裁判長は手元の資料をめくり、またローゼリア様に視線を移す。

「あなたは光の討伐隊の長も務めていた。共に戦う仲間に罪悪感は抱かれませんでしたか?」

…………。

今度はうつろな瞳で裁判長を見るが、返事はしなかった。

あんなに堂々として我儘に生きていたローゼリア様が、こんなに小さな存在であったことに気付く。
わたしは一体何を恐れていたんだろう。
前の生も、今も。

返事をしないローゼリア様に、裁判長がもう一度問いかける。
「討伐隊としての責任は、どう思われていましたか?」

裁判長の強い問いかけに、やっと口を開く。

「そういうものだと、思っていたので」
「そういうもの、とは?」
「……魔法はなくてはならないもの。討伐はしなくてはならないもの。ルークは、わたくしのために全てを捧げるものだと、そう教えられてきました」

裁判長は、ふぅと息をもらす。

「ルーク侯爵子息は、あなたたちのおもちゃではないのですよ。しかも、あなたは一度ルーク侯爵子息との婚約を断っていますね。それなのに、あなたのために全てを捧げる意味は?」

あきれたような裁判長の言い方に、ローゼリア様は一瞬だけ身をこわばらせたが、すぐに口を開いた。

「英雄に選ばれた人間でしたので、王家に取り込む必要があったのですわ。しかし、あんなに醜い火傷跡のある者を、幼いわたくしは自分の婚約者と認めることはできませんでした」

わたしはなんとも言えない気持ちで、ルーク様の方を見た。
だって、わたしはその頃のルーク様を知っている。
魔獣火傷のせいで心を閉ざして、何者も寄せ付けなかった幼いルーク様を。

でも、今、ルーク様は凛とした瞳で法廷を見つめていた。

そこには、かつて暗い部屋の中でシーツを被って身を守るように小さくなっていた幼子の姿はなかった。

カンカン、とまた裁判長のガベルが鳴る。

「さて。ローゼリア王女にはもう一つ罪がある。あなたは討伐が失敗したと思い込んだ時に、塔の抜け道を使って1人だけ魔物の森から逃走しましたね? その時に、孤児の少年を御者として雇った。調書では、孤児にしたのは後から殺すためだったとありますが、これは事実ですか? 孤児であれば、遺族に騒がれる心配がないからと、あなたが考えたとありますがどうですか?」

あまりに酷い内容に、傍聴席が騒つく。
その音に怯えるように、ローゼリア様は口を開く。

「はい。戻らぬ御者の家族が騒ぎ立てるのを未然に防ぐためでした」

なんて酷い! そう呟いたのは傍聴席のおばさん。
他にも、ローゼリア様や王族を非難する声が、だんだんと大きくなっていく。

それら全部、ローゼリア様の耳に入っていることだろう。
でも、ローゼリア様はぴくりとも動かない。



カンカンカン!

「静粛に願います。では、判決を告げる前に、一旦休廷とします」

裁判長がそう言って立ち上がった瞬間、お兄様が立ち上がった。

「待ってください、裁判長。ローゼリア王女については、もう一つ審議していただきたい事柄があります」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」  出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。  だがアーリンは考える間もなく、 「──お断りします」  と、きっぱりと告げたのだった。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

処理中です...