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21章 責任
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肩を落とし、髪もほつれたままで証言台に立つローゼリア様。
かつて着ていた豪華なドレスもなく、ベージュのワンピースのみ。もちろん、パニエもない。
ただ、顔にある白い包帯だけが、真っ白く光を反射させている。
そこに、かつて美貌の王女として名を馳せた姿はなかった。
ざわざわと細波のように、傍聴席の市民からつぶやきがもれる。
変わり果てた自国の王女に、思うところもあるのだろう。
また、裁判長がガベルを鳴らす。
「ローゼリア王女、これよりあなたの裁判が始まります。嘘偽りなく、事実を述べるように」
裁判長がローゼリア様にゆっくり諭すように言う。
でも、ローゼリア様は俯いたまま、返事をしなかった。
「ローゼリア王女、あなたはこの討伐が無意味なものであると知っていましたか?」
裁判長の問いかけに、ローゼリア様は顔を上げた。
「……はい」
「知っていて国民に知らせることなく、国民が死んでいくのを黙って見ていたということですね?」
「……はい」
裁判長は手元の資料をめくり、またローゼリア様に視線を移す。
「あなたは光の討伐隊の長も務めていた。共に戦う仲間に罪悪感は抱かれませんでしたか?」
…………。
今度はうつろな瞳で裁判長を見るが、返事はしなかった。
あんなに堂々として我儘に生きていたローゼリア様が、こんなに小さな存在であったことに気付く。
わたしは一体何を恐れていたんだろう。
前の生も、今も。
返事をしないローゼリア様に、裁判長がもう一度問いかける。
「討伐隊としての責任は、どう思われていましたか?」
裁判長の強い問いかけに、やっと口を開く。
「そういうものだと、思っていたので」
「そういうもの、とは?」
「……魔法はなくてはならないもの。討伐はしなくてはならないもの。ルークは、わたくしのために全てを捧げるものだと、そう教えられてきました」
裁判長は、ふぅと息をもらす。
「ルーク侯爵子息は、あなたたちのおもちゃではないのですよ。しかも、あなたは一度ルーク侯爵子息との婚約を断っていますね。それなのに、あなたのために全てを捧げる意味は?」
あきれたような裁判長の言い方に、ローゼリア様は一瞬だけ身をこわばらせたが、すぐに口を開いた。
「英雄に選ばれた人間でしたので、王家に取り込む必要があったのですわ。しかし、あんなに醜い火傷跡のある者を、幼いわたくしは自分の婚約者と認めることはできませんでした」
わたしはなんとも言えない気持ちで、ルーク様の方を見た。
だって、わたしはその頃のルーク様を知っている。
魔獣火傷のせいで心を閉ざして、何者も寄せ付けなかった幼いルーク様を。
でも、今、ルーク様は凛とした瞳で法廷を見つめていた。
そこには、かつて暗い部屋の中でシーツを被って身を守るように小さくなっていた幼子の姿はなかった。
カンカン、とまた裁判長のガベルが鳴る。
「さて。ローゼリア王女にはもう一つ罪がある。あなたは討伐が失敗したと思い込んだ時に、塔の抜け道を使って1人だけ魔物の森から逃走しましたね? その時に、孤児の少年を御者として雇った。調書では、孤児にしたのは後から殺すためだったとありますが、これは事実ですか? 孤児であれば、遺族に騒がれる心配がないからと、あなたが考えたとありますがどうですか?」
あまりに酷い内容に、傍聴席が騒つく。
その音に怯えるように、ローゼリア様は口を開く。
「はい。戻らぬ御者の家族が騒ぎ立てるのを未然に防ぐためでした」
なんて酷い! そう呟いたのは傍聴席のおばさん。
他にも、ローゼリア様や王族を非難する声が、だんだんと大きくなっていく。
それら全部、ローゼリア様の耳に入っていることだろう。
でも、ローゼリア様はぴくりとも動かない。
カンカンカン!
「静粛に願います。では、判決を告げる前に、一旦休廷とします」
裁判長がそう言って立ち上がった瞬間、お兄様が立ち上がった。
「待ってください、裁判長。ローゼリア王女については、もう一つ審議していただきたい事柄があります」
かつて着ていた豪華なドレスもなく、ベージュのワンピースのみ。もちろん、パニエもない。
ただ、顔にある白い包帯だけが、真っ白く光を反射させている。
そこに、かつて美貌の王女として名を馳せた姿はなかった。
ざわざわと細波のように、傍聴席の市民からつぶやきがもれる。
変わり果てた自国の王女に、思うところもあるのだろう。
また、裁判長がガベルを鳴らす。
「ローゼリア王女、これよりあなたの裁判が始まります。嘘偽りなく、事実を述べるように」
裁判長がローゼリア様にゆっくり諭すように言う。
でも、ローゼリア様は俯いたまま、返事をしなかった。
「ローゼリア王女、あなたはこの討伐が無意味なものであると知っていましたか?」
裁判長の問いかけに、ローゼリア様は顔を上げた。
「……はい」
「知っていて国民に知らせることなく、国民が死んでいくのを黙って見ていたということですね?」
「……はい」
裁判長は手元の資料をめくり、またローゼリア様に視線を移す。
「あなたは光の討伐隊の長も務めていた。共に戦う仲間に罪悪感は抱かれませんでしたか?」
…………。
今度はうつろな瞳で裁判長を見るが、返事はしなかった。
あんなに堂々として我儘に生きていたローゼリア様が、こんなに小さな存在であったことに気付く。
わたしは一体何を恐れていたんだろう。
前の生も、今も。
返事をしないローゼリア様に、裁判長がもう一度問いかける。
「討伐隊としての責任は、どう思われていましたか?」
裁判長の強い問いかけに、やっと口を開く。
「そういうものだと、思っていたので」
「そういうもの、とは?」
「……魔法はなくてはならないもの。討伐はしなくてはならないもの。ルークは、わたくしのために全てを捧げるものだと、そう教えられてきました」
裁判長は、ふぅと息をもらす。
「ルーク侯爵子息は、あなたたちのおもちゃではないのですよ。しかも、あなたは一度ルーク侯爵子息との婚約を断っていますね。それなのに、あなたのために全てを捧げる意味は?」
あきれたような裁判長の言い方に、ローゼリア様は一瞬だけ身をこわばらせたが、すぐに口を開いた。
「英雄に選ばれた人間でしたので、王家に取り込む必要があったのですわ。しかし、あんなに醜い火傷跡のある者を、幼いわたくしは自分の婚約者と認めることはできませんでした」
わたしはなんとも言えない気持ちで、ルーク様の方を見た。
だって、わたしはその頃のルーク様を知っている。
魔獣火傷のせいで心を閉ざして、何者も寄せ付けなかった幼いルーク様を。
でも、今、ルーク様は凛とした瞳で法廷を見つめていた。
そこには、かつて暗い部屋の中でシーツを被って身を守るように小さくなっていた幼子の姿はなかった。
カンカン、とまた裁判長のガベルが鳴る。
「さて。ローゼリア王女にはもう一つ罪がある。あなたは討伐が失敗したと思い込んだ時に、塔の抜け道を使って1人だけ魔物の森から逃走しましたね? その時に、孤児の少年を御者として雇った。調書では、孤児にしたのは後から殺すためだったとありますが、これは事実ですか? 孤児であれば、遺族に騒がれる心配がないからと、あなたが考えたとありますがどうですか?」
あまりに酷い内容に、傍聴席が騒つく。
その音に怯えるように、ローゼリア様は口を開く。
「はい。戻らぬ御者の家族が騒ぎ立てるのを未然に防ぐためでした」
なんて酷い! そう呟いたのは傍聴席のおばさん。
他にも、ローゼリア様や王族を非難する声が、だんだんと大きくなっていく。
それら全部、ローゼリア様の耳に入っていることだろう。
でも、ローゼリア様はぴくりとも動かない。
カンカンカン!
「静粛に願います。では、判決を告げる前に、一旦休廷とします」
裁判長がそう言って立ち上がった瞬間、お兄様が立ち上がった。
「待ってください、裁判長。ローゼリア王女については、もう一つ審議していただきたい事柄があります」
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