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21章 責任
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叫び声は、魔獣の体液を浴びたローゼリア様のものだった。
ローゼリア様の顔は、右半分が魔獣火傷で黒く爛れている。そして、それはまだシュウシュウと焼ける音を立てていた。
その姿は、幼き日のルーク様のようだった。
「ローゼリア様、」
「何をしている!! おまえが犠牲にならんか! わたくしの盾となるのです。おまえなんか死んでも構わないでしょう。わたくしを庇い、守りなさい!」
死んだら構います!!
そう思ったけど、ローゼリア様に反論することは無駄だと思ったわたしは、再び剣を構えた。
魔獣は背を低くして、唸り声をあげる。
また襲ってくる気だ。
魔獣が一層身を低くしてから、また飛び掛かってきた!
「えい!」
わたしは無我夢中で剣を振り下ろす。
お兄様が剣に魔法をかけておいてくれたからか、剣からは風が吹き、魔獣が少し煽られて一旦引く。
わたしが魔獣と睨み合っていると、通路の奥からカタカタと何か音が聞こえてきた。
そちらに顔を向けると、とても小さな馬車がこちらへと向かってくるのが見えた。
1人乗りだろう小さな馬車には、わたしと歳の変わらないような少年が御者として乗っていた。
少年は、こちらを見ると「ひっ」と僅かに悲鳴を上げて、馬車をそこで止めた。
ローゼリア様は、馬車を見ると少年に向かって声を上げる。
「何をしておる! さっさと馬車の向きを変えなさい! わたくしが乗り込むのですよ!」
少年は魔獣とローゼリア様に怯えながら、馬車から降りて馬を馬車から外した。
端に寄せられた馬車から馬を誘導して、馬を奥の道へと連れて行く。
馬車は、後ろと前を逆さにしても馬をつけられるようになっているらしく、進行方向を逆にして馬をつけたようだった。
この狭い抜け道では、馬車をターンさせることはできない。
多分、この道のために作られた馬車なのだろう。
ローゼリア様は、しっかりと馬がつけられたのを見ると、わたしを突き飛ばして馬車の方へと走った。
「あっ」と声を立てて、わたしは魔獣の方へと転んでしまった。
魔獣がわたしの方を見て、さらに唸り声をあげる。
魔獣はわたしの方へと、涎を垂らしながら飛び掛かってきた。
「っ!!」
わたしはなんとか起き上がり、剣を両手で握る。
と、同時に、魔獣がわたしに迫ってきたが、必死で振り下ろした剣から、ブワッと風が吹いた。
剣に掛けてあった、お兄様の風魔法だ。
それがなんとか、わたしに魔獣の体液がかかることを防いでくれる。
お兄様、ありがとう!
でも、魔獣はわたしに触れられなかったせいか、苛立つように更に唸り、またわたしに飛び掛かろうとしている。
わたしは、うまく剣を使うことはできない。
次に襲われたらやられてしまうだろう。
ルーク様、ごめんなさい。
わたしは形だけ剣を構えて、身を固くして目を閉じた。
ぶわっと魔獣が地を蹴る音がする。
来る!!
わたしがそう思った瞬間、わたしを呼ぶ声が聞こえた。
「ニーナ!!!」
それは、ここにいるお兄様の声ではなく、もちろんわたしを犠牲に逃げ出したローゼリア様の声でもなく……。
「ルーク様っ」
目を開けたわたしは、自分の目を疑った。
だって、激痛のためにここには来られないはずのルーク様がわたしを庇って魔獣に剣を突き刺していたからだ。
ルーク様は、苦しそうに息をして、肩を震わせている。
きっと、恐怖からではない。痛みから、身体が痙攣を起こしているようだった。
「ニーナ、ひ、かりの魔法、を……」
剣を構えてわたしを庇うように前に立つルーク様は、わたしを振り返らずに言う。
「はいっ!」
わたしが祈るのと、魔獣がルーク様を襲うのは同時だった。
「光の魔法よ、ルーク様を守って!!」
わたしが必死に叫ぶと、わたしから放たれた魔法は、ルーク様の剣に宿った。
「やあああー!!!」
ルーク様が剣を振り下ろすと、剣から炎が立ち昇り、魔獣の身体を包み込んだ。
ワオぉぉー……ン……。
最後の力を振り絞って、魔獣は遠吠えを上げると、その場に横たわる。
青白い炎が魔獣を包み込んでいたのだけど、
ふっ、といきなり炎が消えた。
?
今までこんな消え方をしたことはないんだけど……。
何か違和感を感じながらも、わたしはルーク様に駆け寄った。
「ルーク様! 大丈夫ですか?」
ルーク様はその場に座り込むと、こちらをギロリと睨んだ。
「こんの、バカニーナ! 勝手に走って行って、心配するだろうが!」
怒ってはいるけど、肩で息をしているルーク様は、腕一本動かすのも辛そうに顔だけをわたしの方に向けた。
「ルーク様、痛いところはわたしが治しますね」
わたしは胸の前で指を組み合わせて、光の魔法を使った。
……使ったのだけど……。
「あれ?」
わたしの身体からは、なんの魔法反応もなくなっていた。
魔法が使えない?
なんで?
ローゼリア様の顔は、右半分が魔獣火傷で黒く爛れている。そして、それはまだシュウシュウと焼ける音を立てていた。
その姿は、幼き日のルーク様のようだった。
「ローゼリア様、」
「何をしている!! おまえが犠牲にならんか! わたくしの盾となるのです。おまえなんか死んでも構わないでしょう。わたくしを庇い、守りなさい!」
死んだら構います!!
そう思ったけど、ローゼリア様に反論することは無駄だと思ったわたしは、再び剣を構えた。
魔獣は背を低くして、唸り声をあげる。
また襲ってくる気だ。
魔獣が一層身を低くしてから、また飛び掛かってきた!
「えい!」
わたしは無我夢中で剣を振り下ろす。
お兄様が剣に魔法をかけておいてくれたからか、剣からは風が吹き、魔獣が少し煽られて一旦引く。
わたしが魔獣と睨み合っていると、通路の奥からカタカタと何か音が聞こえてきた。
そちらに顔を向けると、とても小さな馬車がこちらへと向かってくるのが見えた。
1人乗りだろう小さな馬車には、わたしと歳の変わらないような少年が御者として乗っていた。
少年は、こちらを見ると「ひっ」と僅かに悲鳴を上げて、馬車をそこで止めた。
ローゼリア様は、馬車を見ると少年に向かって声を上げる。
「何をしておる! さっさと馬車の向きを変えなさい! わたくしが乗り込むのですよ!」
少年は魔獣とローゼリア様に怯えながら、馬車から降りて馬を馬車から外した。
端に寄せられた馬車から馬を誘導して、馬を奥の道へと連れて行く。
馬車は、後ろと前を逆さにしても馬をつけられるようになっているらしく、進行方向を逆にして馬をつけたようだった。
この狭い抜け道では、馬車をターンさせることはできない。
多分、この道のために作られた馬車なのだろう。
ローゼリア様は、しっかりと馬がつけられたのを見ると、わたしを突き飛ばして馬車の方へと走った。
「あっ」と声を立てて、わたしは魔獣の方へと転んでしまった。
魔獣がわたしの方を見て、さらに唸り声をあげる。
魔獣はわたしの方へと、涎を垂らしながら飛び掛かってきた。
「っ!!」
わたしはなんとか起き上がり、剣を両手で握る。
と、同時に、魔獣がわたしに迫ってきたが、必死で振り下ろした剣から、ブワッと風が吹いた。
剣に掛けてあった、お兄様の風魔法だ。
それがなんとか、わたしに魔獣の体液がかかることを防いでくれる。
お兄様、ありがとう!
でも、魔獣はわたしに触れられなかったせいか、苛立つように更に唸り、またわたしに飛び掛かろうとしている。
わたしは、うまく剣を使うことはできない。
次に襲われたらやられてしまうだろう。
ルーク様、ごめんなさい。
わたしは形だけ剣を構えて、身を固くして目を閉じた。
ぶわっと魔獣が地を蹴る音がする。
来る!!
わたしがそう思った瞬間、わたしを呼ぶ声が聞こえた。
「ニーナ!!!」
それは、ここにいるお兄様の声ではなく、もちろんわたしを犠牲に逃げ出したローゼリア様の声でもなく……。
「ルーク様っ」
目を開けたわたしは、自分の目を疑った。
だって、激痛のためにここには来られないはずのルーク様がわたしを庇って魔獣に剣を突き刺していたからだ。
ルーク様は、苦しそうに息をして、肩を震わせている。
きっと、恐怖からではない。痛みから、身体が痙攣を起こしているようだった。
「ニーナ、ひ、かりの魔法、を……」
剣を構えてわたしを庇うように前に立つルーク様は、わたしを振り返らずに言う。
「はいっ!」
わたしが祈るのと、魔獣がルーク様を襲うのは同時だった。
「光の魔法よ、ルーク様を守って!!」
わたしが必死に叫ぶと、わたしから放たれた魔法は、ルーク様の剣に宿った。
「やあああー!!!」
ルーク様が剣を振り下ろすと、剣から炎が立ち昇り、魔獣の身体を包み込んだ。
ワオぉぉー……ン……。
最後の力を振り絞って、魔獣は遠吠えを上げると、その場に横たわる。
青白い炎が魔獣を包み込んでいたのだけど、
ふっ、といきなり炎が消えた。
?
今までこんな消え方をしたことはないんだけど……。
何か違和感を感じながらも、わたしはルーク様に駆け寄った。
「ルーク様! 大丈夫ですか?」
ルーク様はその場に座り込むと、こちらをギロリと睨んだ。
「こんの、バカニーナ! 勝手に走って行って、心配するだろうが!」
怒ってはいるけど、肩で息をしているルーク様は、腕一本動かすのも辛そうに顔だけをわたしの方に向けた。
「ルーク様、痛いところはわたしが治しますね」
わたしは胸の前で指を組み合わせて、光の魔法を使った。
……使ったのだけど……。
「あれ?」
わたしの身体からは、なんの魔法反応もなくなっていた。
魔法が使えない?
なんで?
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