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19章 闘い
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みんなが一斉にわたしを見る。
「ニ、ニーナ!?」
お兄様が飛び出そうなくらいに、目を見開いてこっちを見た。
「ふふ。お兄様、お兄様の驚いた顔なんて、15年降りくらいに見ましたよ」
「なんでお前がここに居るんだよ!」
「わたしがここに居るのは当たり前のことですよ。だって、ルーク様が戦っているんですもの!」
「いや、当たり前じゃないだろう……」
わたし達のやりとりに、訳もわからずミルテ様がオロオロしだした。
「ミラー卿、この人は……? 光の隊服を着ていますが、見たことのない顔ですね」
わたしは臆することなくミルテ様に微笑んだ。
「ミルテ様、わたしは光の隊員です」
そう。
ジーナとして生きていれば、光の討伐隊に入って、ここに居るみんなと同じように武力討伐隊のみんなを支ているはずだった。
「だから、ルーク様をお助けするために、森に行かせてください」
お兄様もミルテ様も、目を丸くしてわたしを見ていたけど、すぐにお兄様は我に返ってわたしの腕を引っ張った。
「わかった。ニーナ、お前を連れて行こう。ミルテ様はあいつの治療を頼む」
「待ってください、ミラー卿。本当にその者は光の隊員なのですか?」
魔物を討伐できる唯一の存在。ルーク様の治療に向かうのが得体の知れない者だということに、ミルテ様は疑いの目を向ける。
他の光の隊員もこの騒ぎに集まってきた。
ざわざわとする中、ひとりの隊員が口を開く。
「こんな時こそ、ローゼリア様の魔法が必要なのではないですか?」
「そうよ。婚約者なのですし、光の討伐隊の長でしょう? こんな時こそ行くべきだわ」
ざわざわとし始めるホールに、お兄様はため息をつく。
「あの女の魔法が本物かとうかは、光の隊員であるみんなの方が知ってるんじゃないか?」
お兄様の声に光の隊員は口を閉ざす。
だって、同じ光の術者であれば、あれは見せかけだけの、弱い魔法だということがわかってしまうから。
「で、でも、ルーク様の婚約者ですし、光の魔法は想い合う心が強く反映されるものです」
隊員のひとりから、声があがる。
お兄様はわたしの腕を、より一層強く掴んだ。
「それならなおのこと、あの女には務まらないな。あの女はルーク様のことを魔物討伐の道具か、他国のボンクラ王子からの縁談避けにしか思っていない。ルーク様に至っては、自分を困らせる厄介な存在としか思っていないだろう。みんなも、出陣前の加護の付与の時に見ていただろう?」
しん、と静まり返るその場で、ただ一人ミルテ様だけが一歩前へと踏み出した。
「それでも! 私はこれを見過ごすことができません。いくら光の隊員の中で一番魔力が残っていそうだからといって、ルーク隊長に縁もゆかりもない者を、英雄ルーク様の治療に行かせることはできないのです。ローゼリア様がダメだと言うのなら、私が行きます。おそらく、隊の中で一番魔力が高いはずですから」
お兄様と一緒に外に出ようとするミルテ様を、お兄様は手で制した。
「いや、ミルテ様。責任感からそのようなことを言ってくれているのはわかる。だが、その震える手を納めてくれ」
何も武力訓練をしていない光の術者が、魔物の森に入るのだ。
恐怖がないはずがない。
「大丈夫だ。この者はこの世で一番ルーク様を想っている者だからだ」
「っ、そんなはずは……。ミラー卿、その者は誰なのですか?」
ミルテ様の問いに、お兄様はニヤリと笑って答えた。
「ローゼリアに殺された、オレの妹だ。ルーク様のために、死の淵から蘇ってきたのだよ」
「ニ、ニーナ!?」
お兄様が飛び出そうなくらいに、目を見開いてこっちを見た。
「ふふ。お兄様、お兄様の驚いた顔なんて、15年降りくらいに見ましたよ」
「なんでお前がここに居るんだよ!」
「わたしがここに居るのは当たり前のことですよ。だって、ルーク様が戦っているんですもの!」
「いや、当たり前じゃないだろう……」
わたし達のやりとりに、訳もわからずミルテ様がオロオロしだした。
「ミラー卿、この人は……? 光の隊服を着ていますが、見たことのない顔ですね」
わたしは臆することなくミルテ様に微笑んだ。
「ミルテ様、わたしは光の隊員です」
そう。
ジーナとして生きていれば、光の討伐隊に入って、ここに居るみんなと同じように武力討伐隊のみんなを支ているはずだった。
「だから、ルーク様をお助けするために、森に行かせてください」
お兄様もミルテ様も、目を丸くしてわたしを見ていたけど、すぐにお兄様は我に返ってわたしの腕を引っ張った。
「わかった。ニーナ、お前を連れて行こう。ミルテ様はあいつの治療を頼む」
「待ってください、ミラー卿。本当にその者は光の隊員なのですか?」
魔物を討伐できる唯一の存在。ルーク様の治療に向かうのが得体の知れない者だということに、ミルテ様は疑いの目を向ける。
他の光の隊員もこの騒ぎに集まってきた。
ざわざわとする中、ひとりの隊員が口を開く。
「こんな時こそ、ローゼリア様の魔法が必要なのではないですか?」
「そうよ。婚約者なのですし、光の討伐隊の長でしょう? こんな時こそ行くべきだわ」
ざわざわとし始めるホールに、お兄様はため息をつく。
「あの女の魔法が本物かとうかは、光の隊員であるみんなの方が知ってるんじゃないか?」
お兄様の声に光の隊員は口を閉ざす。
だって、同じ光の術者であれば、あれは見せかけだけの、弱い魔法だということがわかってしまうから。
「で、でも、ルーク様の婚約者ですし、光の魔法は想い合う心が強く反映されるものです」
隊員のひとりから、声があがる。
お兄様はわたしの腕を、より一層強く掴んだ。
「それならなおのこと、あの女には務まらないな。あの女はルーク様のことを魔物討伐の道具か、他国のボンクラ王子からの縁談避けにしか思っていない。ルーク様に至っては、自分を困らせる厄介な存在としか思っていないだろう。みんなも、出陣前の加護の付与の時に見ていただろう?」
しん、と静まり返るその場で、ただ一人ミルテ様だけが一歩前へと踏み出した。
「それでも! 私はこれを見過ごすことができません。いくら光の隊員の中で一番魔力が残っていそうだからといって、ルーク隊長に縁もゆかりもない者を、英雄ルーク様の治療に行かせることはできないのです。ローゼリア様がダメだと言うのなら、私が行きます。おそらく、隊の中で一番魔力が高いはずですから」
お兄様と一緒に外に出ようとするミルテ様を、お兄様は手で制した。
「いや、ミルテ様。責任感からそのようなことを言ってくれているのはわかる。だが、その震える手を納めてくれ」
何も武力訓練をしていない光の術者が、魔物の森に入るのだ。
恐怖がないはずがない。
「大丈夫だ。この者はこの世で一番ルーク様を想っている者だからだ」
「っ、そんなはずは……。ミラー卿、その者は誰なのですか?」
ミルテ様の問いに、お兄様はニヤリと笑って答えた。
「ローゼリアに殺された、オレの妹だ。ルーク様のために、死の淵から蘇ってきたのだよ」
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