もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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17章 隊服

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「愛しきものの為に、祝福を……!」

わたしが魔法を言葉に乗せて、ルーク様の剣に注ぐ。
魔法はキラキラと光を纏い、剣を覆って行く。

いつもの演習場副隊長室で、わたしはいつものように魔法をかけた。
3ヶ月近く続けていることなので、もう慣れたものだ。

そう。あれから月日は流れ、あと1ヶ月足らずで討伐当日を迎える。


部屋の中はいつもの3人。ルーク様、お兄様、そしてわたし。この光景も見慣れてきた。

ルーク様は剣を見て、にこりと笑う。

「ニーナの魔法もオレとこの剣に馴染んできたな。加護の持続時間も長くなっている。とても助かるよ」

ルーク様は大事そうに剣を鞘に収めると、ソファに腰を下ろした。
わたしもルーク様に倣って腰を下ろす。
お兄様は休憩時間なので、すでに座ってお茶を飲んでいた。

3人で頭を突き合わせて、ほのぼのとお茶を飲むこの時間が大好きだ。

「ふう。もうすぐ討伐ですね。当日は早めにわたしのところに来てくださいね。加護が切れる前に、重ね掛けしますから」
わたしがティーカップを持ってそう言うと、ルーク様とお兄様が顔を見合わせた。

「ニーナ、おまえ当日は討伐に来るつもりだったのか?」
お兄様がわたしに訳の分からないことを聞く。
「何言ってんですか。当たり前じゃないですか。加護が切れたら普通の剣に戻ってしまうんですよ? それに、他の光の術者は戻ってきた隊士に再度加護を与えるんでしょう?」

すると、今度はルーク様が戸惑い気味に口を開く。
「いや、当日はニーナは来られないよ」
「えっ、どうしてですか!?」

わたしはびっくりして、ルーク様とお兄様に詰め寄った。

「え、だっておまえ光の討伐隊のメンバーじゃないじゃないか。魔物の森の結界の極には討伐隊が居て結界の中と外を護り、そこから討伐塔までは騎士が護る。討伐塔から街までの道は、それぞれの領地の私兵隊が護るから、一般の市民はそこには入れないぞ」
「じゃあ、わたしが行けるのは……」
「街の外れまでだな」
「そんなっ! じゃあ、加護が切れたらルーク様はどうするんですか!?」

お兄様はポンポンとわたしの頭を撫でながら言う。
「よしよし、落ち着け。今まで、加護を数回に分けて与える練習と一回の魔法で目一杯の加護を与える練習を平行してやってきただろう? 一応、どうなってもいいように両方のやり方を練習してきたが、これまでの城での会議の状況だと、一回の魔法で目一杯の方で加護を掛けてもらうことになるかな」

わたしは茫然とお兄様の言葉を聞いていた。
そりゃ、両方のやり方を練習していたけど。
でも、信じられない。理解することができない。
わたしはルーク様と一緒に討伐に連れて行ってもらえるものだとばかり思っていた。
何があっても、お側にいられると思っていたのに……。

ルーク様はそんなわたしの肩に手を置く。
「ニーナ。大丈夫だ。これまで、もらった加護を調節して少しずつ使う練習もしてきたから、オレはかなり加護を消費せずに闘えると思うよ」

安心させるように微笑むけど、わたしはやっぱり心配だ。

「なんとか、わたしも連れて行ってもらえないでしょうか……」
わたしがしょんぼりそう言うと、お兄様が困ったような顔をする。
「うーん。オレたちはもちろん、光の討伐隊も隊服があるから、それを着ていない者が立ち入り禁止区域にいたら見咎められるからなぁ」
「お兄様、隊服があれば入れるのですか?」

隊服があれば!

わたしの瞳に希望が宿ったのを見て、ルーク様が眉根を寄せた。
「何考えてるか丸わかりだ。ニーナ、隊服は数を数えられて支給されている。ちょっと拝借、なんてことはできないぞ」
「……隊服って、どこで作ってるんですか?」
「偽物を作ろうとしてもダメだ。光の方の隊服は教会の認定章がついている。これは、教会の大司教が光の魔法を込めているものだから、偽造できないぞ。ニーナの華奢な体つきでは、普通の隊士の振りも無理だからな」
「そんな……」

落ち込むわたしにお兄様が声をかける。
「大丈夫だ。ルーク様を信じろ。今まで二人で訓練してきて、その成果を見てるだろう? 心配することないさ。オレから見ても、充分に勝機はある。これもニーナのおかげだぞ。ローゼリアの加護では森に入るのすら心配だったが、今はもう安心してルーク様と討伐に向かえる。ありがとな、ニーナ」

いくらそう言われたって、納得できるものではない。
「そんなの嫌です! わたしだってルーク様とお兄様と一緒に、闘うつもりでいたんです!」

「仕方ないさ。ある程度、安全なところでないとニーナは連れて行けないし、森近くの安全なところは討伐塔だけになり、隊員でないと入れないんだ。だから、その分ニーナは加護がすぐ切れないように、持続できるような加護を掛けるようにがんばってくれ」

お兄様がそう言い、ルーク様は困ったようにわたしに笑顔を向けたのだった。
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