もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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16章 討伐前

8〜独り言〜

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使用人棟の自室で、わたしはまだ微睡んでいた。
今日は討伐隊のお休み3日間の最終日。

遠出などしたことのないわたしが旅行なんてしたから、思ったよりも疲れていたらしい。
今日は仕事はお休みをさせてもらってるから、まだまだゴロゴロできる。

まだまだ眠い目を擦り、そっと目を開けると、窓から差し込む陽の光はお昼頃を思わせる光の強さだった。

自分の部屋。
自分のベッド。

昨日寝ていた豪華な天蓋付きのベッドと違い、簡素な作りのベッドだ。

昨日は素敵なベッドに寝て、ドレスまで着させてもらって、本当に幸せだった。
見せかけだけだけど、ルーク様に似合う女の子に慣れた気がした。

でも、それは一瞬だけのこと。

討伐が終われば、もうルーク様のお側に居られないだろう。

討伐が終わったら、わたしはどうしようかな。
実家に戻って、家の手伝いでもしようかな。

ルーク様がわたしでない、別の人ローゼリア様と結婚するように、わたしもルーク様でない別の誰かと結婚するのかな。

記憶が戻る前は、ただ漠然と考えていた将来が、いつの間にか"近い"将来となってきている。


ううん。
そんな考えてもしようがないことは置いておこう。

「よっ、と」

わたしは元気よく布団を跳ね返した。
そして起き上がり、精一杯伸びをする。

大丈夫。
わたしは元気!

さあ、着替えをして出掛けよう。
せっかく、ルーク様がくださったお休みだもの。

わたしはクローゼットの前に行き、それを開けた。
クローゼットに掛かっているのは、いつも着ているわたしの服。
昨日来ていたワンピースに比べると、明らかに見劣りするが、これでもわたしが働いて得たお金で買ったものだ。

その中で、一番お気に入りの服を手に取り、素早く着替えた。

ルーク様は、今日はお城で討伐のための会議に参加している。
きっと、疲れて帰っていらっしゃるルーク様に、何か美味しいお菓子でも買って来よう。

わたしは気分を上げるために、クローゼットの中の一番お気に入りのワンピースに着替えをして、街に繰り出した。

そういえば、サリーさんが新しいケーキ屋さんができたって言ってたな。

そんなことを考えながら、商店街の中を歩いて行く。

新しいケーキ屋さんを探して歩いていたらはずなのに、わたしの足は、何度か入ったことのある喫茶店で止まった。

「ここ……」

"パルフェ"と看板のあるここは、前にルーク様と入ったことのあるお店だ。

あの時はまだ、ルーク様はわたしと距離を置いていた。
そっけなく、でもわたしを気にかけてくれるルーク様が、恥ずかしそうに乙女チックなこの喫茶店のドアをくぐったのがおかしかったっけ。

吸い寄せられるように、わたしはパルフェのドアを開けて中に入る。

パルフェは、入り口付近にはテイクアウトのお菓子が並んでいて、奥が喫茶コーナーになっている。

いつも混んでいるお店なのに、今日はそれほどでもなく、ゆっくりと店内を見ることができる。

ふと、商品棚に目をやると、ハートの形をしたクッキーが目に入る。

商品ポップには何も書いていないけど、これはこの店の大人気商品の、恋の叶うクッキーじゃないですか!?

たった一袋だけ残っていたそれを、わたしは素早く手に取った。
他に、アップルシナモンが乗っていふカップケーキとナッツの乗っているカップケーキをルーク様用に、パウンドケーキをサリーさん用におみやげとして選んでレジに向かう。

レジには、いつだったかわたしが喫茶コーナーを利用した時に、クッキーをおまけしてくれたお姉さんが座っていた。

「いらっしゃいませー」
お姉さんは元気にそう言うと、わたしが差し出した商品を見て、目を見開いた。

「あれ? このクッキー、まだ残ってました? おかしいなあ。今日の分は完売したと思ったのに。こんな時間まで残ってるなんて、珍しいんですよ、これ」
ニコニコと愛想良くお姉さんはレジを打っていく。

「そうですよね。オープンに並ばないと買えないって聞いていたから、びっくりしました」
わたしがそういうと、お姉さんは微笑んだ。
「きっと、このクッキーがあなたに買ってほしくて残っていたのかもしれないわね。全部一緒に袋に入れていい?」
「あ、はい。全部うちで食べるので一緒で大丈夫です」

お姉さんは紙袋に全部入れると、最後に袋の取っ手に赤いリボンを掛けてくれた。

「はい、お待たせしました」

わたしはそれを受け取り、お金を払った。

お姉さんはおつりをわたしに渡しながら、わたしの顔を覗き込んだ。

「あなたが信じるかどうかはわからないけど、うちの商品、不思議な力があるの。このクッキーは、多分あなたを待ってたんだと思うわ。いいことがあるといいわね」

ニコニコとそう言うお姉さんに、わたしも笑顔を返す。
「はいっ!」





その夜、帰ってきたルーク様は疲れ切っていたけど、わたしが買ってきたこのクッキーとカップケーキを食べたら少し元気が出たって言ってくださった。

やっぱり、疲れには糖分が効くのかしら……。





あと3ヶ月後には、討伐が始まる。

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