もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
129 / 255
13章 確信

7

しおりを挟む
次の日も、わたしは朝お兄様を送り出し、屋敷の掃除をしていたけれど、さすがに少人数とはいえメイドさんがいる屋敷に汚れているところはもう見当たらず、屋敷から離れて庭の掃除をすることにした。

ミラー家にもちゃんと庭師はいるのだが、ジーナが小さい頃、すでにおじいちゃんだった庭師は、もうヨボヨボしている。
それでも、腕は確かなので庭の花は綺麗に咲き誇っているけれど。

箒で落ち葉を集めていると、その噴水の側に小さな赤いデイジーが萎れているのが見えた。

もう寿命なのだろう。

わたしは箒を置いて、デイジーの側にしゃがみ込んだ。

どうしてだか、くったりと下を向く花を見たら、ルーク様を思い出した。

ルーク様、ちゃんとごはん食べてるかな。
気持ちよくお部屋で過ごされているだろうか。
ルーク様はお部屋にいる時に、よく水分を取られる。
水差しのお水は、少しレモンを入れてあげるとさっぱりとするのか喜んでくれた。
そうそう。
夜中にお腹空いても、わたしがいないと夜食が食べたいって言えないんじゃないかな。

いろいろと、やって差し上げたいことがあるのに、どうしてわたしはルーク様のお側にいないんだろう。

俯く幼い頃のルーク様に、デイジーが重なる。

そっと、デイジーに手を伸ばし、元気になってと思いをかける。

ふぅっ、と意識せずに魔力が溢れ出し、デイジーに光の魔法がかかった。

その瞬間、わたしの思考が弾ける。

わたしは何のために生まれ変わってもここに来たの?
ルーク様のお側にいるためではなかったの?

帰ろう。
ディヴイス家に。
ルーク様は許してくださらないかも知れない。
でも誠心誠意、言葉を尽くして謝ろう。

わたしはすっくと立ち上がり、庭の掃除を再開した。

庭の掃除を終わらせてから、わたしが出来る仕事を終わらせていった。
泊めてもらった恩をちゃんと返してから、ディヴイス家に帰ろうと思う。
と、なると帰るのは明日かな、なんて思いながら仕事をしていった。

壁にかかっていた絵の埃を払うと、広間の鐘が鳴った。

あ、そろそろお兄様が帰られる時間だわ。

わたしは掃除道具を片付けて、お迎えの為に玄関に向かった。

ちょうど馬車が到着したようで、玄関がザワザワしていた。

わたしと入れ違いで、何故か侍従が走って執事の所へ向かっていく。



なんだろう?

まあ、わたしには関係ないかと暢気に玄関のお迎えスペースに立つと、ちょうどお兄様が入ってくる所だった。

「お帰りなさいませ」
いつものように外套を受け取ろうとすると、お兄様の後ろに、いつもいない人が見える。

「……ルーク様」

おかしな光景にわたしが固まると、お兄様がポリポリと頭をかいてわたしを見た。

「あー、ニーナ。迎えだ。帰る準備をしとけって言ってあっただろう? すぐ、帰れるか?」

バツが悪そうなお兄様と見比べると、ルーク様は明らかに不機嫌だ。

何か、背景に暗雲立ち込めているような気さえする。

「えーっ、と。か、帰れます……」

わたしがそう言うと、不機嫌なルーク様はわたしの腕を掴んだ。

「では、ニーナ。帰るぞ」
そのままずんずんと玄関の外へ出ようとするルーク様を、お兄様が止める。

「いやいや、待て待て。ルーク様、ニーナにだって荷物をまとめる時間が必要だ。服だって我が家のお仕着せのままだろう? ニーナ、大丈夫だからさっさと支度をして来い」

お兄様がルーク様とわたしの手を取り、離してくれた。
「は、はいっ!」

手が離れたと同時に、わたしはぱっと身を引いて走り出した。

ジーナの部屋に行き、ミラー家のお仕着せを脱いで自分の服を着る。
荷物はお兄様の言う通りに纏めてあったので、支度はすぐに終わってしまうだろう。

着ていたお仕着せを綺麗にたたみ、使わせてもらっていたベッドのシーツを替える。サッと簡単に掃除をして、最後に、机に置いておいた小さな箱を手にする。

それをじっと見ていると、ドアがノックされ、返事を待たずにお兄様が部屋に入ってきた。

「お兄様、まだ着替え中だったらどうするんですか」
「別に妹の着替えなんか見ても何とも思わんよ。まあ、今は血が繋がってないから、マズイと言えばマズイのか……。ところで、今、応接間で母上がルーク様と応対しているが、早くしないとルーク様がキレそうだ。まだ行けないか?」
「一体、ルーク様に何があったんですか?」

わたしが聞くと、お兄様はため息をついた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...