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13章 確信
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次の日も、わたしは朝お兄様を送り出し、屋敷の掃除をしていたけれど、さすがに少人数とはいえメイドさんがいる屋敷に汚れているところはもう見当たらず、屋敷から離れて庭の掃除をすることにした。
ミラー家にもちゃんと庭師はいるのだが、ジーナが小さい頃、すでにおじいちゃんだった庭師は、もうヨボヨボしている。
それでも、腕は確かなので庭の花は綺麗に咲き誇っているけれど。
箒で落ち葉を集めていると、その噴水の側に小さな赤いデイジーが萎れているのが見えた。
もう寿命なのだろう。
わたしは箒を置いて、デイジーの側にしゃがみ込んだ。
どうしてだか、くったりと下を向く花を見たら、ルーク様を思い出した。
ルーク様、ちゃんとごはん食べてるかな。
気持ちよくお部屋で過ごされているだろうか。
ルーク様はお部屋にいる時に、よく水分を取られる。
水差しのお水は、少しレモンを入れてあげるとさっぱりとするのか喜んでくれた。
そうそう。
夜中にお腹空いても、わたしがいないと夜食が食べたいって言えないんじゃないかな。
いろいろと、やって差し上げたいことがあるのに、どうしてわたしはルーク様のお側にいないんだろう。
俯く幼い頃のルーク様に、デイジーが重なる。
そっと、デイジーに手を伸ばし、元気になってと思いをかける。
ふぅっ、と意識せずに魔力が溢れ出し、デイジーに光の魔法がかかった。
その瞬間、わたしの思考が弾ける。
わたしは何のために生まれ変わってもここに来たの?
ルーク様のお側にいるためではなかったの?
帰ろう。
ディヴイス家に。
ルーク様は許してくださらないかも知れない。
でも誠心誠意、言葉を尽くして謝ろう。
わたしはすっくと立ち上がり、庭の掃除を再開した。
庭の掃除を終わらせてから、わたしが出来る仕事を終わらせていった。
泊めてもらった恩をちゃんと返してから、ディヴイス家に帰ろうと思う。
と、なると帰るのは明日かな、なんて思いながら仕事をしていった。
壁にかかっていた絵の埃を払うと、広間の鐘が鳴った。
あ、そろそろお兄様が帰られる時間だわ。
わたしは掃除道具を片付けて、お迎えの為に玄関に向かった。
ちょうど馬車が到着したようで、玄関がザワザワしていた。
わたしと入れ違いで、何故か侍従が走って執事の所へ向かっていく。
?
なんだろう?
まあ、わたしには関係ないかと暢気に玄関のお迎えスペースに立つと、ちょうどお兄様が入ってくる所だった。
「お帰りなさいませ」
いつものように外套を受け取ろうとすると、お兄様の後ろに、いつもいない人が見える。
「……ルーク様」
おかしな光景にわたしが固まると、お兄様がポリポリと頭をかいてわたしを見た。
「あー、ニーナ。迎えだ。帰る準備をしとけって言ってあっただろう? すぐ、帰れるか?」
バツが悪そうなお兄様と見比べると、ルーク様は明らかに不機嫌だ。
何か、背景に暗雲立ち込めているような気さえする。
「えーっ、と。か、帰れます……」
わたしがそう言うと、不機嫌なルーク様はわたしの腕を掴んだ。
「では、ニーナ。帰るぞ」
そのままずんずんと玄関の外へ出ようとするルーク様を、お兄様が止める。
「いやいや、待て待て。ルーク様、ニーナにだって荷物をまとめる時間が必要だ。服だって我が家のお仕着せのままだろう? ニーナ、大丈夫だからさっさと支度をして来い」
お兄様がルーク様とわたしの手を取り、離してくれた。
「は、はいっ!」
手が離れたと同時に、わたしはぱっと身を引いて走り出した。
ジーナの部屋に行き、ミラー家のお仕着せを脱いで自分の服を着る。
荷物はお兄様の言う通りに纏めてあったので、支度はすぐに終わってしまうだろう。
着ていたお仕着せを綺麗にたたみ、使わせてもらっていたベッドのシーツを替える。サッと簡単に掃除をして、最後に、机に置いておいた小さな箱を手にする。
それをじっと見ていると、ドアがノックされ、返事を待たずにお兄様が部屋に入ってきた。
「お兄様、まだ着替え中だったらどうするんですか」
「別に妹の着替えなんか見ても何とも思わんよ。まあ、今は血が繋がってないから、マズイと言えばマズイのか……。ところで、今、応接間で母上がルーク様と応対しているが、早くしないとルーク様がキレそうだ。まだ行けないか?」
「一体、ルーク様に何があったんですか?」
わたしが聞くと、お兄様はため息をついた。
ミラー家にもちゃんと庭師はいるのだが、ジーナが小さい頃、すでにおじいちゃんだった庭師は、もうヨボヨボしている。
それでも、腕は確かなので庭の花は綺麗に咲き誇っているけれど。
箒で落ち葉を集めていると、その噴水の側に小さな赤いデイジーが萎れているのが見えた。
もう寿命なのだろう。
わたしは箒を置いて、デイジーの側にしゃがみ込んだ。
どうしてだか、くったりと下を向く花を見たら、ルーク様を思い出した。
ルーク様、ちゃんとごはん食べてるかな。
気持ちよくお部屋で過ごされているだろうか。
ルーク様はお部屋にいる時に、よく水分を取られる。
水差しのお水は、少しレモンを入れてあげるとさっぱりとするのか喜んでくれた。
そうそう。
夜中にお腹空いても、わたしがいないと夜食が食べたいって言えないんじゃないかな。
いろいろと、やって差し上げたいことがあるのに、どうしてわたしはルーク様のお側にいないんだろう。
俯く幼い頃のルーク様に、デイジーが重なる。
そっと、デイジーに手を伸ばし、元気になってと思いをかける。
ふぅっ、と意識せずに魔力が溢れ出し、デイジーに光の魔法がかかった。
その瞬間、わたしの思考が弾ける。
わたしは何のために生まれ変わってもここに来たの?
ルーク様のお側にいるためではなかったの?
帰ろう。
ディヴイス家に。
ルーク様は許してくださらないかも知れない。
でも誠心誠意、言葉を尽くして謝ろう。
わたしはすっくと立ち上がり、庭の掃除を再開した。
庭の掃除を終わらせてから、わたしが出来る仕事を終わらせていった。
泊めてもらった恩をちゃんと返してから、ディヴイス家に帰ろうと思う。
と、なると帰るのは明日かな、なんて思いながら仕事をしていった。
壁にかかっていた絵の埃を払うと、広間の鐘が鳴った。
あ、そろそろお兄様が帰られる時間だわ。
わたしは掃除道具を片付けて、お迎えの為に玄関に向かった。
ちょうど馬車が到着したようで、玄関がザワザワしていた。
わたしと入れ違いで、何故か侍従が走って執事の所へ向かっていく。
?
なんだろう?
まあ、わたしには関係ないかと暢気に玄関のお迎えスペースに立つと、ちょうどお兄様が入ってくる所だった。
「お帰りなさいませ」
いつものように外套を受け取ろうとすると、お兄様の後ろに、いつもいない人が見える。
「……ルーク様」
おかしな光景にわたしが固まると、お兄様がポリポリと頭をかいてわたしを見た。
「あー、ニーナ。迎えだ。帰る準備をしとけって言ってあっただろう? すぐ、帰れるか?」
バツが悪そうなお兄様と見比べると、ルーク様は明らかに不機嫌だ。
何か、背景に暗雲立ち込めているような気さえする。
「えーっ、と。か、帰れます……」
わたしがそう言うと、不機嫌なルーク様はわたしの腕を掴んだ。
「では、ニーナ。帰るぞ」
そのままずんずんと玄関の外へ出ようとするルーク様を、お兄様が止める。
「いやいや、待て待て。ルーク様、ニーナにだって荷物をまとめる時間が必要だ。服だって我が家のお仕着せのままだろう? ニーナ、大丈夫だからさっさと支度をして来い」
お兄様がルーク様とわたしの手を取り、離してくれた。
「は、はいっ!」
手が離れたと同時に、わたしはぱっと身を引いて走り出した。
ジーナの部屋に行き、ミラー家のお仕着せを脱いで自分の服を着る。
荷物はお兄様の言う通りに纏めてあったので、支度はすぐに終わってしまうだろう。
着ていたお仕着せを綺麗にたたみ、使わせてもらっていたベッドのシーツを替える。サッと簡単に掃除をして、最後に、机に置いておいた小さな箱を手にする。
それをじっと見ていると、ドアがノックされ、返事を待たずにお兄様が部屋に入ってきた。
「お兄様、まだ着替え中だったらどうするんですか」
「別に妹の着替えなんか見ても何とも思わんよ。まあ、今は血が繋がってないから、マズイと言えばマズイのか……。ところで、今、応接間で母上がルーク様と応対しているが、早くしないとルーク様がキレそうだ。まだ行けないか?」
「一体、ルーク様に何があったんですか?」
わたしが聞くと、お兄様はため息をついた。
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