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13章 確信
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「教会への奉仕って、まさか……」
「ええ。ジーナのことをお祈りしているわ。天国で、心安らかに過ごせますように、と」
知らなかった……。
ミラー家に来る時はいつも、お父様は不在だった。
まさか、ジーナのために、教会に奉仕活動に行っていたなんて……。
「お母様、ジーナは幸せですから、お父様をお止めすることはできませんか? こんなに働き詰めでは、お身体を壊してしまいます」
お母様は優雅に紅茶を口にする。
「この十数年の間に、何度も止めたわ。でも、ジーナも知っているように、あの人、一度言い出したら聞かないのよ。しかも自己調整ができる人だから、倒れる前にはちゃんと休養も取るのよ」
「でも、」
「もしかしたら、お父様がお祈りをしてくださったから、ジーナはルーク様のお側に戻ってこられたかもしれないわ。だから、お父様のやりたいように、やらせてあげましょう。大丈夫よ。次にあなたがここに来る時には、お父様にも会えるといいわね」
お母様はそう言って微笑んだ。
ジーナがここに居ると言うことは、お父様に言うつもりはないらしい。
わたしは、今日も屋敷の細々としたところを手入れしている。
ジーナの部屋はもちろんだけど、お姉様のお部屋も綺麗に掃除をしていく。
聞けば、お姉様はたまにお泊まりに来ることもあるそうで、お姉様のお部屋にはベビーベッドが入っていた。
お泊まりに来た時は、お姉様の部屋だったところにお姉様と子ども達が泊まり、旦那様は客間で眠るらしい。
お姉様の旦那様、お会いしたことはないけど、どんなかたなのかしら。
そして、まだ見ぬ甥っ子姪っ子に思いを馳せて、丁寧にベビーベッドも磨き上げた。
……きっと、お姉様にもニーナがジーナであることは言わないつもりだろう。
お父様にも言わないようだったから。
なんとなく、お母様もお兄様も、それについては天に任せているような気がする。
隠しているわけでもないけど、わざわざ言うつもりもないらしい。
お母様からは午後のお茶に呼ばれるけど、それ以外は普通に使用人として仕事をしている。
そして、夜になればお兄様がお仕事から帰ってくる。
今日もお父様はお帰りになられないらしく、お兄様がご帰宅されたあとは、侍従が玄関の鍵を閉めた。
「お帰りなさいませ」
わたしが近付くと、お兄様は慣れてきたのか、脱いだ外套をわたしに渡す。
「ニーナ、そろそろディヴイス家に帰る準備をしておいた方がいいぞ」
歩きながら襟元のボタンをいくつか外して、お兄様がそう言った。
わたしは受け取った外套と鞄を持って、お兄様の後をついて行く。
「どうしてですか?」
お兄様の部屋に着き、中に入るとわたしは外套にブラシをかけながら、お兄様に質問をする。
お兄様は腰にある剣を外して、大事そうにソードホルダーに仕舞った。
「ルーク様がイライラしている」
「へ?」
わたしはブラシをかける手を止めた。
ルーク様がイライラしているのと、わたしがこの家に居るのと、なんの関係があるんだろう。
「だから、ルーク様がイライラしているから、ニーナは帰ることになるだろうって言ってんの」
「だから、なんの関係があるんですか? ルーク様はしばらく暇を出すって言ってましたし、まだ二日ほどしか経っていません。そんなんですぐ帰れる訳がないでしょう」
「いや、おまえの意思の方がよっぽど関係ないと思うぞ。賭けてもいい。近々、ニーナは帰ることになる」
「お兄様……」
わたしは外套をクローゼットに仕舞ってから、呆れた顔をお兄様に向けた。
「まだ、賭け事なんかやってるんですか? 学生の頃、お母様にうんと怒られたでしょう」
「うっ、なんでそんなこと覚えてるんだよ。じゃなくて、賭け事なんかやってないぞ。今のは言葉のアヤだ」
「はいはい。無駄だと思いますが、荷物はまとめておきますよ」
あんなに悲壮な決意でディヴイス家を出てきたのに、そんなに簡単に帰れてたまるもんかと、わたしは心の中でお兄様に舌を出した。
「ええ。ジーナのことをお祈りしているわ。天国で、心安らかに過ごせますように、と」
知らなかった……。
ミラー家に来る時はいつも、お父様は不在だった。
まさか、ジーナのために、教会に奉仕活動に行っていたなんて……。
「お母様、ジーナは幸せですから、お父様をお止めすることはできませんか? こんなに働き詰めでは、お身体を壊してしまいます」
お母様は優雅に紅茶を口にする。
「この十数年の間に、何度も止めたわ。でも、ジーナも知っているように、あの人、一度言い出したら聞かないのよ。しかも自己調整ができる人だから、倒れる前にはちゃんと休養も取るのよ」
「でも、」
「もしかしたら、お父様がお祈りをしてくださったから、ジーナはルーク様のお側に戻ってこられたかもしれないわ。だから、お父様のやりたいように、やらせてあげましょう。大丈夫よ。次にあなたがここに来る時には、お父様にも会えるといいわね」
お母様はそう言って微笑んだ。
ジーナがここに居ると言うことは、お父様に言うつもりはないらしい。
わたしは、今日も屋敷の細々としたところを手入れしている。
ジーナの部屋はもちろんだけど、お姉様のお部屋も綺麗に掃除をしていく。
聞けば、お姉様はたまにお泊まりに来ることもあるそうで、お姉様のお部屋にはベビーベッドが入っていた。
お泊まりに来た時は、お姉様の部屋だったところにお姉様と子ども達が泊まり、旦那様は客間で眠るらしい。
お姉様の旦那様、お会いしたことはないけど、どんなかたなのかしら。
そして、まだ見ぬ甥っ子姪っ子に思いを馳せて、丁寧にベビーベッドも磨き上げた。
……きっと、お姉様にもニーナがジーナであることは言わないつもりだろう。
お父様にも言わないようだったから。
なんとなく、お母様もお兄様も、それについては天に任せているような気がする。
隠しているわけでもないけど、わざわざ言うつもりもないらしい。
お母様からは午後のお茶に呼ばれるけど、それ以外は普通に使用人として仕事をしている。
そして、夜になればお兄様がお仕事から帰ってくる。
今日もお父様はお帰りになられないらしく、お兄様がご帰宅されたあとは、侍従が玄関の鍵を閉めた。
「お帰りなさいませ」
わたしが近付くと、お兄様は慣れてきたのか、脱いだ外套をわたしに渡す。
「ニーナ、そろそろディヴイス家に帰る準備をしておいた方がいいぞ」
歩きながら襟元のボタンをいくつか外して、お兄様がそう言った。
わたしは受け取った外套と鞄を持って、お兄様の後をついて行く。
「どうしてですか?」
お兄様の部屋に着き、中に入るとわたしは外套にブラシをかけながら、お兄様に質問をする。
お兄様は腰にある剣を外して、大事そうにソードホルダーに仕舞った。
「ルーク様がイライラしている」
「へ?」
わたしはブラシをかける手を止めた。
ルーク様がイライラしているのと、わたしがこの家に居るのと、なんの関係があるんだろう。
「だから、ルーク様がイライラしているから、ニーナは帰ることになるだろうって言ってんの」
「だから、なんの関係があるんですか? ルーク様はしばらく暇を出すって言ってましたし、まだ二日ほどしか経っていません。そんなんですぐ帰れる訳がないでしょう」
「いや、おまえの意思の方がよっぽど関係ないと思うぞ。賭けてもいい。近々、ニーナは帰ることになる」
「お兄様……」
わたしは外套をクローゼットに仕舞ってから、呆れた顔をお兄様に向けた。
「まだ、賭け事なんかやってるんですか? 学生の頃、お母様にうんと怒られたでしょう」
「うっ、なんでそんなこと覚えてるんだよ。じゃなくて、賭け事なんかやってないぞ。今のは言葉のアヤだ」
「はいはい。無駄だと思いますが、荷物はまとめておきますよ」
あんなに悲壮な決意でディヴイス家を出てきたのに、そんなに簡単に帰れてたまるもんかと、わたしは心の中でお兄様に舌を出した。
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