もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
101 / 255
10章 影

10

しおりを挟む
お母様は、リビングの三人掛け用のソファにもたれかかり、頭には小さな氷嚢を乗せていた。

「それで? そんな話をわたくしに信じろって言うの?」
お兄様が慌ててこれまでのことを説明するけど、お母様はなかなか信じてくれなかった。
それはそうだと思う。身も知らない娘が来て、いきなり14年前に亡くなったあなたの娘です。と言われても、例えお母様がどんなに優しくても信じることなどできないと思う。

お母様はジト目で、向かいの1人用ソファに座っているお兄様を、見つめている。

「信じてくれ、母上。ジーナとの仲を疑われるなんて、名誉毀損も甚だしい。オレは、お転婆よりも清楚で上品な令嬢が好みだ」
「お兄様、ひどいです! わたしだって、ドレスを着たら清楚で上品になります」
「は! おまえのどこが淑女だって言うんだ」
「は? どこから見ても淑女でしょう」

きーっっ、とわたしが悔しそうに歯ぎしりすると、お母様が大きなため息と共に、わたしに声をかけた。
「もう信じなければならないくらい、14年前と同じ兄妹喧嘩を見させられてるのはわかったわ。でも、まだ信じられないのよ。何か、わたくしを信じさせられるような話は覚えていないの?」

お母様にそう言われて、わたしは腕を組む。
うーん。
お母様が信じられるようなこと……。要は、ジーナでなければ知り得ないことをお母様に言えばいいのよね?
あ、そうだ!

「へそくりはまだお母様の寝室の本の中ですか?」
「ひっ!」
わたしが尋ねると、お母様は顔を青くして小さな悲鳴を上げた。

「な、なんでそれを……」
お母様が信じられないような表情でわたしを見ていると、お兄様がニヤニヤした顔でお母様を見ていた。
「へえ、母上、へそくりなんてしてたんだ」
「オリバー! お黙りなさい!」

わたしはお母様の方を見て、話を続ける。
「小さい頃、お母様のベッドで跳ねて遊んでいた時に、偶然本が棚から落ちてきて、中にお金が挟まっていたのでびっくりしてお母様に言うと、お母様はベッドで飛び跳ねたわたしを少し怒ったあとに、ウインクしてこう言いました。「これは、お母様が刺繍したハンカチを何枚かお店に卸してもらったお金だから、お父様のお金をもらったんじゃないのよ」って。お父様のお誕生日のプレゼントを買うときは、お父様からもらったお金ではなく、自分のお金で買いたいからって言ってました。今もまだ、お父様へのプレゼントは、お母様のお金で買っていらっしゃいますか?」

思い出していく。
暖かな家族。
貴族の子女がお金を稼ぐのは容易ではない。
お母様が刺繍したハンカチを売ったって、たいした金額にはならないだろう。
それでも、お母様はお父様のために、何かをしたかったと言っていた。
もちろん、お父様はそのことは知らない。

「ーーもう、認めるしかないわね」
お母様は手に持っていた氷嚢をテーブルに置いた。

「失ったと思った娘が還ってくるなんて」
お母様は器用に笑いながら泣き出した。
「ジーナ、おかえりなさい」
「……お母様」

わたしはそっと歩いてお母様の側に跪いた。
お母様の顔を見上げると、お母様は微笑んでわたしを見てくれる。
「ああ、信じられないわ。もう一度、ジーナにお母様と呼んでもらえる日がくるなんて」

お母様はわたしの腕を引き寄せ、わたしを抱きしめた。
「お母様!」
わたしの目からホロホロと涙が溢れ出すと、お母様の目からも涙がこぼれ落ちてきた。

「ごめんなさい、お母様。先に逝くなんて、親不孝をしてごめんなさい」
「ジーナ、わたしの口からはいいとは言えないけど、あなたはジーナとしての生を精一杯生きたわ。だから、きっとこんなとんでもない奇跡を起こせたのよ」

そうして、わたしたち母と娘は、目蓋が腫れ上がるくらい泣きながら笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...