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11章 光を探して
幻想
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ジーナが言うんだ。
トマトを食べろと。
好き嫌いをしていたら大きくなれないと。
ニーナも同じことを言った。
好き嫌いをしていたら、大きくなれないと。
オレがニーナの顔をじっと見ると、ニーナは弟がいつもオレと同じように、サンドイッチからトマトをはずすから、弟に言うようにオレに言ってしまったと、言い訳をした。
ある日、義姉上の出産祝いを買うために、ニーナの実家である商会を訪れた。
ディヴイス家から少し離れたところにある商会は、こじんまりとしていたが、なかなか品のいい商品を取り扱っていた。
オレはニーナの母親から、応接室に通された。
しばらくすると、ニーナの父親、母親が応接室にやってくる。
仲の良い親子の会話がなされ、ミラー子爵家で繰り広げられた、ジーナと義兄上、義姉上たち家族との温かなやりとりが思い出された。
そして、ふと、ニーナの弟にも会ってみたくなったのだ。
オレの弟は、本館で暮らしている。
会うこともあるし、会話もするが、一緒に暮らしていないので、普通の兄弟がする会話ではないだろう。
もしかしたら、ニーナの弟とも義兄上義姉上のように話せるかもしれないと思ったのだ。
話せたところで、義兄上義姉上のような関係にはならないが。
ニーナが父親と何かの品物を探しに応接室を出て行った時に、会話がなくなり、ニーナの母親にそれを言ってみようと思った。
出された紅茶を手をつけながら、ニーナの母親に話しかける。
「ニーナは、弟がいるそうですね」
ニーナの母親は、嬉しそうに笑った。
「ニーナはそんな事までルーク様にお話ししているのですね。ええ、弟がおります。ニーナがルーク様のところに奉公に出る時には泣いていましたわ」
コロコロと母親は笑った。
「弟さんはトマトが嫌いだそうですね。オレがトマトを残すのを見て、弟さんを思い出したそうです」
オレがそう言うまで笑っていた母親は、オレの言葉に首を傾げる。
「あら? ニルスはトマト大好きですけど……。うちの教育方針は、食べ物は粗末にしない。好き嫌いは許さないというものですから、二人とも好き嫌いはありませんわ」
トマトが嫌いではない……?
では、ニーナはあの時誰を思い浮かべてあの言葉を?
考え込むオレを見て、ニーナの母親は心配そうにオレを見る。
「ルーク様、何かわたし失礼なことでも……?」
オレはニーナの母親に、安心させるように笑顔を見せた。
「いえ、では、オレの勘違いでしょう。ニーナから弟さんの話を聞いて、会ってみたいと思ったのですが、今日はいないんですか?」
「ええ。まだ学校に行ってます。今日ニーナが来たって知ったら、きっと悔しがるでしょうね。とても会いたがっていましたから」
ニーナの母親の言葉に、ふとオレの頬も緩む。
「仲の良い姉弟なんですね」
「ええ! もちろん! ニーナは小さい頃、自分もまだ小さいのにルフィをおんぶしてくれたり、本当に仲のいい子たちで、自慢の娘と自慢の息子ですわ」
オレは、ニーナの顔を思い浮かべて、もう一つ、ニーナの母親に聞いてみた。
「ニーナは実家でも食事を作ったりしていたんですか?」
「食事? うちは少ないながらも使用人がいますので、炊事はやらせたことがありませんけど……」
「サンドイッチやホットケーキなどの軽食も?」
「サンドイッチは見様見真似で作れるかも知れませんが、ホットケーキは無理なんじゃないですかね」
「そうですか」
ホットケーキを作ったことがない……?
そんなはずはない。
ニーナのホットケーキは、ちゃんとオレが覚えているホットケーキの味がした。
覚えているホットケーキの味……?
オレの言葉にニーナの母親は怪訝そうな顔をする。
「もしかして、作れないと仕事に差し支えてますか?」
「いえ。ニーナはそのあたりもがんばってくれていますよ。ほんとに、自慢の娘さんとおっしゃるのがよくわかります」
オレがそう言うと、ニーナの母親はにっこりと嬉しそうに笑った。
そうこうしているうちに、ニーナと父親が戻ってきた。
「ルーク様、お待たせしました」
ニコニコといい笑顔で両手に荷物を抱えて、ニーナはソファに腰掛けた。
オレの目はニーナに釘付けになっていた。
何かあるとすぐに少し首を傾げるところ。
笑い方。
話し方。
言っていることの中身さえ、ジーナと重なる。
「ルーク様?」
ニーナが首を傾げる。
ほら、その角度もジーナと同じだ。
「……いや、なんでもない」
口ではそう言うが、なんでもないはずがない。
ジーナが居なくなって、何年経ってもジーナの思い出は鮮明で。
だからと言って、ニーナと重ねていいことなんてなくて。
待て。
ジーナが居なくなって何年だ?
ニーナの歳は?
いや、よせ。
そんな考えは幻想だ。
オレが思う、都合良いい夢だ。
ニーナがジーナであるなんて、ありえないだろう?
明日もオレは、ジーナのいない世界で生きていく。
トマトを食べろと。
好き嫌いをしていたら大きくなれないと。
ニーナも同じことを言った。
好き嫌いをしていたら、大きくなれないと。
オレがニーナの顔をじっと見ると、ニーナは弟がいつもオレと同じように、サンドイッチからトマトをはずすから、弟に言うようにオレに言ってしまったと、言い訳をした。
ある日、義姉上の出産祝いを買うために、ニーナの実家である商会を訪れた。
ディヴイス家から少し離れたところにある商会は、こじんまりとしていたが、なかなか品のいい商品を取り扱っていた。
オレはニーナの母親から、応接室に通された。
しばらくすると、ニーナの父親、母親が応接室にやってくる。
仲の良い親子の会話がなされ、ミラー子爵家で繰り広げられた、ジーナと義兄上、義姉上たち家族との温かなやりとりが思い出された。
そして、ふと、ニーナの弟にも会ってみたくなったのだ。
オレの弟は、本館で暮らしている。
会うこともあるし、会話もするが、一緒に暮らしていないので、普通の兄弟がする会話ではないだろう。
もしかしたら、ニーナの弟とも義兄上義姉上のように話せるかもしれないと思ったのだ。
話せたところで、義兄上義姉上のような関係にはならないが。
ニーナが父親と何かの品物を探しに応接室を出て行った時に、会話がなくなり、ニーナの母親にそれを言ってみようと思った。
出された紅茶を手をつけながら、ニーナの母親に話しかける。
「ニーナは、弟がいるそうですね」
ニーナの母親は、嬉しそうに笑った。
「ニーナはそんな事までルーク様にお話ししているのですね。ええ、弟がおります。ニーナがルーク様のところに奉公に出る時には泣いていましたわ」
コロコロと母親は笑った。
「弟さんはトマトが嫌いだそうですね。オレがトマトを残すのを見て、弟さんを思い出したそうです」
オレがそう言うまで笑っていた母親は、オレの言葉に首を傾げる。
「あら? ニルスはトマト大好きですけど……。うちの教育方針は、食べ物は粗末にしない。好き嫌いは許さないというものですから、二人とも好き嫌いはありませんわ」
トマトが嫌いではない……?
では、ニーナはあの時誰を思い浮かべてあの言葉を?
考え込むオレを見て、ニーナの母親は心配そうにオレを見る。
「ルーク様、何かわたし失礼なことでも……?」
オレはニーナの母親に、安心させるように笑顔を見せた。
「いえ、では、オレの勘違いでしょう。ニーナから弟さんの話を聞いて、会ってみたいと思ったのですが、今日はいないんですか?」
「ええ。まだ学校に行ってます。今日ニーナが来たって知ったら、きっと悔しがるでしょうね。とても会いたがっていましたから」
ニーナの母親の言葉に、ふとオレの頬も緩む。
「仲の良い姉弟なんですね」
「ええ! もちろん! ニーナは小さい頃、自分もまだ小さいのにルフィをおんぶしてくれたり、本当に仲のいい子たちで、自慢の娘と自慢の息子ですわ」
オレは、ニーナの顔を思い浮かべて、もう一つ、ニーナの母親に聞いてみた。
「ニーナは実家でも食事を作ったりしていたんですか?」
「食事? うちは少ないながらも使用人がいますので、炊事はやらせたことがありませんけど……」
「サンドイッチやホットケーキなどの軽食も?」
「サンドイッチは見様見真似で作れるかも知れませんが、ホットケーキは無理なんじゃないですかね」
「そうですか」
ホットケーキを作ったことがない……?
そんなはずはない。
ニーナのホットケーキは、ちゃんとオレが覚えているホットケーキの味がした。
覚えているホットケーキの味……?
オレの言葉にニーナの母親は怪訝そうな顔をする。
「もしかして、作れないと仕事に差し支えてますか?」
「いえ。ニーナはそのあたりもがんばってくれていますよ。ほんとに、自慢の娘さんとおっしゃるのがよくわかります」
オレがそう言うと、ニーナの母親はにっこりと嬉しそうに笑った。
そうこうしているうちに、ニーナと父親が戻ってきた。
「ルーク様、お待たせしました」
ニコニコといい笑顔で両手に荷物を抱えて、ニーナはソファに腰掛けた。
オレの目はニーナに釘付けになっていた。
何かあるとすぐに少し首を傾げるところ。
笑い方。
話し方。
言っていることの中身さえ、ジーナと重なる。
「ルーク様?」
ニーナが首を傾げる。
ほら、その角度もジーナと同じだ。
「……いや、なんでもない」
口ではそう言うが、なんでもないはずがない。
ジーナが居なくなって、何年経ってもジーナの思い出は鮮明で。
だからと言って、ニーナと重ねていいことなんてなくて。
待て。
ジーナが居なくなって何年だ?
ニーナの歳は?
いや、よせ。
そんな考えは幻想だ。
オレが思う、都合良いい夢だ。
ニーナがジーナであるなんて、ありえないだろう?
明日もオレは、ジーナのいない世界で生きていく。
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