もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
92 / 255
10章 影

1

しおりを挟む
わたしは休みの日は図書館に通うようになった。
もちろん、光の魔法を勉強するためだ。

師事する人がいないから、本を使って独学で魔法を使えるようになりたいと思っていたけど、実際にやってみせてもらったりするのと、ただ本に書いてあることをやってみるのとでは全然違う。

厳しかったエミリア女史を、懐かしく思い出す日が来るなんて……。

やっぱり、教会に行って、二属性使えることを申告して、ちゃんと光の術者に指導してもらった方がいいんだろうか。

ただ、素直に二属性使えると申告してした場合、教会に囚われたりしないだろうか。
実験体として扱われるとか。

図書館での勉強ついでに調べてみたけど、今まで二属性使えた人はいないらしいし、その可能性を求めて、学者さんが色々と研究しているらしいけど、まだ成果は出ていない。

「ふぅ」
図書館の中は静かにしていないといけないので、わたしはため息だけつくと、本を抱きしめて席を立った。

カウンターに行き、貸し出し手続きをして、図書館を出る。

光の魔法で祝福する方法が説明してある本を借りたけど、それを人目につかずに練習するには、どこでやったらいいのかな。
自分の部屋でやって、何か起こったりしないかな。
何しろ、わたしは風魔法も使えるから、相乗効果で風魔法も暴走とかしたら、ディヴイス家のお屋敷に迷惑がかかる。

うーん。
悩みながら歩いていると、お菓子屋さんが目に入った。

図書館からの帰り道、わたしは商店街を通っていたのだけれど、この前ルーク様とクッキーを買いに来たパルフェというお店が見えたのだ。

この前ルーク様と来た時は、外まで行列ができていたのに、今日は空いているように見える。

気になったわたしは、パルフェのドアを開けた。

「いらっしゃいませ~」
赤毛を両側でおさげにしている女の人が元気に声を掛けてくれる。
この前は混んでてよく見れなかったけど、店内を見ると小さな喫茶店がついていて、店内の商品をそこで食べられるようだ。

「あの、すみません。食べて帰るのには、どうしたらいいですか?」
わたしが元気な店員さんに声をかけると、店員さんはにっこりと笑い、先に商品と飲み物の食券を買って、席についていればいいと教えてくれた。

わたしはトレーとトングを持ち、チェリーパイをそこに乗せ、レジでミルクティーの券も買って窓側の席についた。

少しすると、店員さんがミルクティーを持って席に来てくれる。

「お待たせしました。ミルクティーです」
「ありがとうございます。あの、前にも来たことあるんですけど、前はすごく混んでてこんな喫茶スペースがあるのに気がつきませんでした」
なんとなく、そう言うと、店員さんは苦笑いを浮かべる。
「ああ、クッキーのある時間帯にいらしたんですね。恋が叶うとかいう噂がでちゃってから、クッキーのある時間帯は混むようになっちゃったんです」
「え、恋が叶うって売り出したんじゃないんですか?」
「そんな宣伝はしたことありませんよ。よそにある本店でそんな噂が出て、それを聞いた人がくちコミで広げたみたいで……」

口コミ!
なるほど。
意図していないことだったけど、そんな宣伝効果もあるんだわ。
商会の娘として、勉強になったわ。

「ちょっと形の崩れたクッキーが余ってるから、食べてみる? 売り物にならないものだから、お金はいらないわよ」

店員さんは一度奥に下がり、手に3枚のクッキーを乗せた小皿を持って戻ってきた。

「食べて食べて」
人懐っこい店員さんは、わたしにクッキーをすすめた。
「いただきます」
サクッと音がするくらい軽くて香ばしいクッキーは、バターもたっぷり使われていて、とても美味しかった。
「美味しいです」
「ふふ。でも普通のクッキーでしょ?」
「普通よりも美味しいですよ?」
「あら、じょうずねぇ。ありがとう。じゃ、ゆっくりしていってね」

店員さんは次のお客さんが入ってきたのを見て、急いでレジに向かっていった。

サクサクとハート形のクッキーを食べる。
美味しい。

恋が叶うクッキーか……。
わたしの恋はもう叶っている。
ジーナわたしはルーク様と両想いだった。

でも、ニーナ今のわたしとルーク様は、恋の叶うクッキーを食べても、決して結ばれないけど。

それでも、ジーナは幸せだったから、もういいや。

温かいミルクティーを口元に運び、ほぅっと息をつくと、窓からコンコンと音がする。

何かと思ってそちらに視線を向けると、オリバーお兄様が、通り側の窓のすぐそこに立って、こちらに笑顔を向けていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...