もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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10章 影

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わたしは休みの日は図書館に通うようになった。
もちろん、光の魔法を勉強するためだ。

師事する人がいないから、本を使って独学で魔法を使えるようになりたいと思っていたけど、実際にやってみせてもらったりするのと、ただ本に書いてあることをやってみるのとでは全然違う。

厳しかったエミリア女史を、懐かしく思い出す日が来るなんて……。

やっぱり、教会に行って、二属性使えることを申告して、ちゃんと光の術者に指導してもらった方がいいんだろうか。

ただ、素直に二属性使えると申告してした場合、教会に囚われたりしないだろうか。
実験体として扱われるとか。

図書館での勉強ついでに調べてみたけど、今まで二属性使えた人はいないらしいし、その可能性を求めて、学者さんが色々と研究しているらしいけど、まだ成果は出ていない。

「ふぅ」
図書館の中は静かにしていないといけないので、わたしはため息だけつくと、本を抱きしめて席を立った。

カウンターに行き、貸し出し手続きをして、図書館を出る。

光の魔法で祝福する方法が説明してある本を借りたけど、それを人目につかずに練習するには、どこでやったらいいのかな。
自分の部屋でやって、何か起こったりしないかな。
何しろ、わたしは風魔法も使えるから、相乗効果で風魔法も暴走とかしたら、ディヴイス家のお屋敷に迷惑がかかる。

うーん。
悩みながら歩いていると、お菓子屋さんが目に入った。

図書館からの帰り道、わたしは商店街を通っていたのだけれど、この前ルーク様とクッキーを買いに来たパルフェというお店が見えたのだ。

この前ルーク様と来た時は、外まで行列ができていたのに、今日は空いているように見える。

気になったわたしは、パルフェのドアを開けた。

「いらっしゃいませ~」
赤毛を両側でおさげにしている女の人が元気に声を掛けてくれる。
この前は混んでてよく見れなかったけど、店内を見ると小さな喫茶店がついていて、店内の商品をそこで食べられるようだ。

「あの、すみません。食べて帰るのには、どうしたらいいですか?」
わたしが元気な店員さんに声をかけると、店員さんはにっこりと笑い、先に商品と飲み物の食券を買って、席についていればいいと教えてくれた。

わたしはトレーとトングを持ち、チェリーパイをそこに乗せ、レジでミルクティーの券も買って窓側の席についた。

少しすると、店員さんがミルクティーを持って席に来てくれる。

「お待たせしました。ミルクティーです」
「ありがとうございます。あの、前にも来たことあるんですけど、前はすごく混んでてこんな喫茶スペースがあるのに気がつきませんでした」
なんとなく、そう言うと、店員さんは苦笑いを浮かべる。
「ああ、クッキーのある時間帯にいらしたんですね。恋が叶うとかいう噂がでちゃってから、クッキーのある時間帯は混むようになっちゃったんです」
「え、恋が叶うって売り出したんじゃないんですか?」
「そんな宣伝はしたことありませんよ。よそにある本店でそんな噂が出て、それを聞いた人がくちコミで広げたみたいで……」

口コミ!
なるほど。
意図していないことだったけど、そんな宣伝効果もあるんだわ。
商会の娘として、勉強になったわ。

「ちょっと形の崩れたクッキーが余ってるから、食べてみる? 売り物にならないものだから、お金はいらないわよ」

店員さんは一度奥に下がり、手に3枚のクッキーを乗せた小皿を持って戻ってきた。

「食べて食べて」
人懐っこい店員さんは、わたしにクッキーをすすめた。
「いただきます」
サクッと音がするくらい軽くて香ばしいクッキーは、バターもたっぷり使われていて、とても美味しかった。
「美味しいです」
「ふふ。でも普通のクッキーでしょ?」
「普通よりも美味しいですよ?」
「あら、じょうずねぇ。ありがとう。じゃ、ゆっくりしていってね」

店員さんは次のお客さんが入ってきたのを見て、急いでレジに向かっていった。

サクサクとハート形のクッキーを食べる。
美味しい。

恋が叶うクッキーか……。
わたしの恋はもう叶っている。
ジーナわたしはルーク様と両想いだった。

でも、ニーナ今のわたしとルーク様は、恋の叶うクッキーを食べても、決して結ばれないけど。

それでも、ジーナは幸せだったから、もういいや。

温かいミルクティーを口元に運び、ほぅっと息をつくと、窓からコンコンと音がする。

何かと思ってそちらに視線を向けると、オリバーお兄様が、通り側の窓のすぐそこに立って、こちらに笑顔を向けていた。
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