もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
73 / 255
8章 記憶

記憶鮮明に

しおりを挟む
オレは絶対に嫌だと言ったが、討伐のためには光の術者の祝福が必要となる。
ジーナがいない今、ほかの光の術者と婚約をするのは当然のことだった。

ローゼリアとの婚約にオレは抵抗したが、婚約は親の承認ですることができてしまい、ジーナがいなくなってから4年後、勝手に婚約が結ばれた。
王族との婚約だったため、盛大な婚約式が行われたが、オレは当日、無断で欠席した。

勝手に結ばれた婚約に、勝手に催された婚約式。オレが出る必要がどこにある。
両親はそうなることがわかっていたようで、討伐前の体だから、と国民に言い訳をしていたが、ローゼリアは顔を真っ赤にして怒っていた。
オレの知ったことではない。

そんな関係だからか、ローゼリア率いる光の術者隊と、オレの討伐隊との合同演習は、あまりうまくいったことがない。

教会に属する光の術者たちは、討伐隊の全員の剣に祝福を授け、ローゼリアはオレの剣に祝福を与える。
祝福を受けた剣を振るうと、聖なる力が溢れ出すはずなのだが、討伐隊の他の者の剣から聖なる力が出ることはあっても、オレの剣から出たことはない。
これは、討伐隊と光の術者の間で箝口令が敷かれ、外には漏れていないが、このままでいけば今代の討伐は失敗に終わるだろう。

どうしたものかと悩んでいた。

そんな時、ローゼリアと会う月一回のの日に庭を掃除するメイドを見かけた。
オレが庭にも出なくなってから、庭は花が咲いているのを見たことがない。
そんな庭なのに、掃除をする者がいるんだと、その日はそれくらいしか思わなかった。

不覚だったのは、そのメイドの存在を認識していたにもかかわらず、ジーナと見間違えてしまったことだ。

たまたま、通りかかった時に、噴水の中で遊ぶバカ者がいた。
そのバカの顔を見に行こうとして噴水に近付くと、ジーナと同じ栗色の髪と、アンバーの瞳が目に入った。
幼い日のジーナと同じように、噴水の水を頭上に上げて楽しそうに大口を開けて笑っていた。

もう、オレにはジーナにしか見えなかった。

オレは走って行って、逃がさないようにジーナを抱きしめた。
いつもなら、幻のジーナに触れると、ジーナは消えてしまうが、このジーナは消えなかった。
それどころか、しっかりとした感触があった。

だから、もうこれはジーナがオレを迎えに来てくれたんだとばかり思って、思い切り抱きしめていると、腕の中からオレを呼ぶ声がする。
……が、オレの記憶の中にあるジーナの声と違った。

ゆっくりと顔を離し、ジーナを呼ぶと返事をするが、やはりジーナの声ではない。

よく顔を見ると、雰囲気はジーナにそっくりだったが、まったくの別人だった。
髪の色と瞳の色が同じなだけで、オレのジーナではなかった。



その夜、寝付けなかったために、仕事をしていたら、窓の外に動くものを見つけた。
部屋にある剣を取り出そうとしたが、よく見ると昼間の少女のようだった。
寝間着のような姿で、掃除用具を持って走っている。
大方、昼間片付け忘れたのを今更思い出したんだろう。
まったく。
朝になってから片付ければ良いものを。
オレはひとこと言ってやろうと思い、部屋を出た。

少女の後ろから声をかけると、悲鳴を上げられそうになり、咄嗟に後ろから口を塞いだ。
密着しているため、少女の髪からオレと同じシャンプーの香りが漂ってきたのがわかった。
何故か胸がきゅうっと痛くなる懐かしい感じがしたが、オレはその気持ちに蓋をした。

夜中に寝間着で外に出たことに小言を言うと、ひょこっと首を傾げた。
そのしぐさがまた、ジーナを思い出させる。

その後、厨房でサンドイッチを作ってもらったのだが、その時にオレにトマトを食べさせようとするところも、ジーナそのものだった。

雰囲気と髪や瞳の色が同じなだけで、顔の作りも声も違うのに。

オレはどうかしている。

オレの唯一はジーナだけだ。
それなのに、あの少女にジーナを重ねるなんて。

どうかしていると思いながらも、あの少女を見ていると、固く凍った心が溶けていくような錯覚が起こる。

オレはどうかしている。

ジーナの代わりは、どこにもいないのに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

処理中です...