もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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8章 記憶

記憶鮮明に

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オレは絶対に嫌だと言ったが、討伐のためには光の術者の祝福が必要となる。
ジーナがいない今、ほかの光の術者と婚約をするのは当然のことだった。

ローゼリアとの婚約にオレは抵抗したが、婚約は親の承認ですることができてしまい、ジーナがいなくなってから4年後、勝手に婚約が結ばれた。
王族との婚約だったため、盛大な婚約式が行われたが、オレは当日、無断で欠席した。

勝手に結ばれた婚約に、勝手に催された婚約式。オレが出る必要がどこにある。
両親はそうなることがわかっていたようで、討伐前の体だから、と国民に言い訳をしていたが、ローゼリアは顔を真っ赤にして怒っていた。
オレの知ったことではない。

そんな関係だからか、ローゼリア率いる光の術者隊と、オレの討伐隊との合同演習は、あまりうまくいったことがない。

教会に属する光の術者たちは、討伐隊の全員の剣に祝福を授け、ローゼリアはオレの剣に祝福を与える。
祝福を受けた剣を振るうと、聖なる力が溢れ出すはずなのだが、討伐隊の他の者の剣から聖なる力が出ることはあっても、オレの剣から出たことはない。
これは、討伐隊と光の術者の間で箝口令が敷かれ、外には漏れていないが、このままでいけば今代の討伐は失敗に終わるだろう。

どうしたものかと悩んでいた。

そんな時、ローゼリアと会う月一回のの日に庭を掃除するメイドを見かけた。
オレが庭にも出なくなってから、庭は花が咲いているのを見たことがない。
そんな庭なのに、掃除をする者がいるんだと、その日はそれくらいしか思わなかった。

不覚だったのは、そのメイドの存在を認識していたにもかかわらず、ジーナと見間違えてしまったことだ。

たまたま、通りかかった時に、噴水の中で遊ぶバカ者がいた。
そのバカの顔を見に行こうとして噴水に近付くと、ジーナと同じ栗色の髪と、アンバーの瞳が目に入った。
幼い日のジーナと同じように、噴水の水を頭上に上げて楽しそうに大口を開けて笑っていた。

もう、オレにはジーナにしか見えなかった。

オレは走って行って、逃がさないようにジーナを抱きしめた。
いつもなら、幻のジーナに触れると、ジーナは消えてしまうが、このジーナは消えなかった。
それどころか、しっかりとした感触があった。

だから、もうこれはジーナがオレを迎えに来てくれたんだとばかり思って、思い切り抱きしめていると、腕の中からオレを呼ぶ声がする。
……が、オレの記憶の中にあるジーナの声と違った。

ゆっくりと顔を離し、ジーナを呼ぶと返事をするが、やはりジーナの声ではない。

よく顔を見ると、雰囲気はジーナにそっくりだったが、まったくの別人だった。
髪の色と瞳の色が同じなだけで、オレのジーナではなかった。



その夜、寝付けなかったために、仕事をしていたら、窓の外に動くものを見つけた。
部屋にある剣を取り出そうとしたが、よく見ると昼間の少女のようだった。
寝間着のような姿で、掃除用具を持って走っている。
大方、昼間片付け忘れたのを今更思い出したんだろう。
まったく。
朝になってから片付ければ良いものを。
オレはひとこと言ってやろうと思い、部屋を出た。

少女の後ろから声をかけると、悲鳴を上げられそうになり、咄嗟に後ろから口を塞いだ。
密着しているため、少女の髪からオレと同じシャンプーの香りが漂ってきたのがわかった。
何故か胸がきゅうっと痛くなる懐かしい感じがしたが、オレはその気持ちに蓋をした。

夜中に寝間着で外に出たことに小言を言うと、ひょこっと首を傾げた。
そのしぐさがまた、ジーナを思い出させる。

その後、厨房でサンドイッチを作ってもらったのだが、その時にオレにトマトを食べさせようとするところも、ジーナそのものだった。

雰囲気と髪や瞳の色が同じなだけで、顔の作りも声も違うのに。

オレはどうかしている。

オレの唯一はジーナだけだ。
それなのに、あの少女にジーナを重ねるなんて。

どうかしていると思いながらも、あの少女を見ていると、固く凍った心が溶けていくような錯覚が起こる。

オレはどうかしている。

ジーナの代わりは、どこにもいないのに。
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