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8章 記憶
あの日の
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幻を見た。
白い花降る木の影から、ジーナが手招きする幻だ。
ジーナはあの頃と変わらず、12歳のままだ。
栗色の綺麗な髪を揺らして、アンバーの瞳は優しく三日月を描いている。
ジーナが死んだあの日から、オレは幾度となくジーナの幻を見ていた。
それは、夢の中だったのかもしれないし、眠れないオレが見た白昼夢だったのかもしれない。
触れようとすると、ジーナは消えてしまい、オレのこの手が宙を彷徨うだけだった。
眠ろうとしても、夢に出てくるのはジーナの最期ばかりだった。
白い綺麗な顔が、ジーナ自身と魔獣の血で汚れ、オレの腕の中でどんどん冷たくなっていく。
悪夢で目を覚まして夜中に叫び出し、何度フランクやサリーに宥められたかわからない。
あの頃のフランクとサリーは、ほとんど寝ずにオレについていたのではないだろうか。
食事を取ろうとしても戻してしまい、どんどん体は痩せ細っていった。
両親もどうしていいかわからず、医者が出す薬は安定剤と睡眠薬。
安定剤を飲んでも精神は安定されず、睡眠薬で眠れば悪夢で目を覚ます。
オレを生かそうとしたジーナを想うと、自ら命を断つことはできず、身も心もボロボロになり、あと少しこのままだったらジーナの元に行けると、そればかりを考えていた時に、義兄上と義姉上がオレの部屋を訪れた。
婚約者としてのジーナの兄妹だったふたりは、もうオレとは何の関係もないはずだった。
それなのに、こうして見舞いにきてくれたことは、オレにとって、ジーナとまだ繋がっていられるような気がして、とても有り難かった。
ベッドに横になったまま、体力もなく動けなくなったオレを見て、義姉上はポロポロ涙を溢す。
オレはそれを見て、泣き顔がジーナに似てるな等と考えていた時、義兄上が義姉上に負けないくらいポロポロと涙を流した。
ジーナの葬儀の間も、涙を溢さずに堪えていた義兄上が、オレの姿を見て泣くのだ。
「ジーナが、オレたちのジーナが自分の命をかけて守ったルーク様は、運命に負けたりなんかしないんだ。だから、ちゃんと眠ってくれ。食べてくれ。魔物なんか倒さなくてもいい。英雄になんかならなくてもいいから、生きてくれ!」
オレにとって、その言葉は衝撃だった。
両親でさえ、オレが死んだら魔物の討伐がどうなるかと口にしていた。
それが、魔物を倒さなくていいと言う。
「そうですわ。生きてくださいまし。あなたが死んでしまったら、ジーナが悲しみますわ。きっと、ジーナのことですもの。近くであなたを見守っているに違いないんですから」
オレは義姉上の言葉に、目を見開く。
「近くで……?」
「そうですわ! ジーナはあんなにルーク様のことが好きだったんですもの。きっと、近くにいますわ! もし、神があなたから離そうとしても、気合と根性で近くに来るに違いありませんもの」
そうか。
それなら、オレは生きないといけないな。
ジーナが側にいるのなら、こんな情けないオレは見せられないからな。
その日の夢は、悪夢の代わりに、ジーナがオレの側に来る夢だった。
遠くにいたのに、オレの方へがんばって、がんばって、流れに逆らってまで、オレの方へとやってきてくれる夢だった。
その日からオレは、少しずつ眠れるようになっていった。
義兄上と義姉上は、オレとはなんの繋がりもなくなったのに、よく様子を見に来てくれた。
義兄上に至っては、ミラー子爵の後を継ぐ勉強をしていたはずなのに、騎士隊に入り、オレが編成する討伐隊に来てくれた。
そんな中、オレが持ち直してまた訓練に参加し始めたのを見て、ローゼリアとの婚約話が持ち上がった。
白い花降る木の影から、ジーナが手招きする幻だ。
ジーナはあの頃と変わらず、12歳のままだ。
栗色の綺麗な髪を揺らして、アンバーの瞳は優しく三日月を描いている。
ジーナが死んだあの日から、オレは幾度となくジーナの幻を見ていた。
それは、夢の中だったのかもしれないし、眠れないオレが見た白昼夢だったのかもしれない。
触れようとすると、ジーナは消えてしまい、オレのこの手が宙を彷徨うだけだった。
眠ろうとしても、夢に出てくるのはジーナの最期ばかりだった。
白い綺麗な顔が、ジーナ自身と魔獣の血で汚れ、オレの腕の中でどんどん冷たくなっていく。
悪夢で目を覚まして夜中に叫び出し、何度フランクやサリーに宥められたかわからない。
あの頃のフランクとサリーは、ほとんど寝ずにオレについていたのではないだろうか。
食事を取ろうとしても戻してしまい、どんどん体は痩せ細っていった。
両親もどうしていいかわからず、医者が出す薬は安定剤と睡眠薬。
安定剤を飲んでも精神は安定されず、睡眠薬で眠れば悪夢で目を覚ます。
オレを生かそうとしたジーナを想うと、自ら命を断つことはできず、身も心もボロボロになり、あと少しこのままだったらジーナの元に行けると、そればかりを考えていた時に、義兄上と義姉上がオレの部屋を訪れた。
婚約者としてのジーナの兄妹だったふたりは、もうオレとは何の関係もないはずだった。
それなのに、こうして見舞いにきてくれたことは、オレにとって、ジーナとまだ繋がっていられるような気がして、とても有り難かった。
ベッドに横になったまま、体力もなく動けなくなったオレを見て、義姉上はポロポロ涙を溢す。
オレはそれを見て、泣き顔がジーナに似てるな等と考えていた時、義兄上が義姉上に負けないくらいポロポロと涙を流した。
ジーナの葬儀の間も、涙を溢さずに堪えていた義兄上が、オレの姿を見て泣くのだ。
「ジーナが、オレたちのジーナが自分の命をかけて守ったルーク様は、運命に負けたりなんかしないんだ。だから、ちゃんと眠ってくれ。食べてくれ。魔物なんか倒さなくてもいい。英雄になんかならなくてもいいから、生きてくれ!」
オレにとって、その言葉は衝撃だった。
両親でさえ、オレが死んだら魔物の討伐がどうなるかと口にしていた。
それが、魔物を倒さなくていいと言う。
「そうですわ。生きてくださいまし。あなたが死んでしまったら、ジーナが悲しみますわ。きっと、ジーナのことですもの。近くであなたを見守っているに違いないんですから」
オレは義姉上の言葉に、目を見開く。
「近くで……?」
「そうですわ! ジーナはあんなにルーク様のことが好きだったんですもの。きっと、近くにいますわ! もし、神があなたから離そうとしても、気合と根性で近くに来るに違いありませんもの」
そうか。
それなら、オレは生きないといけないな。
ジーナが側にいるのなら、こんな情けないオレは見せられないからな。
その日の夢は、悪夢の代わりに、ジーナがオレの側に来る夢だった。
遠くにいたのに、オレの方へがんばって、がんばって、流れに逆らってまで、オレの方へとやってきてくれる夢だった。
その日からオレは、少しずつ眠れるようになっていった。
義兄上と義姉上は、オレとはなんの繋がりもなくなったのに、よく様子を見に来てくれた。
義兄上に至っては、ミラー子爵の後を継ぐ勉強をしていたはずなのに、騎士隊に入り、オレが編成する討伐隊に来てくれた。
そんな中、オレが持ち直してまた訓練に参加し始めたのを見て、ローゼリアとの婚約話が持ち上がった。
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