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7章 こぼれ落ちた運命は再び拾えるか?
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「サリー、サリーはいないか?」
ルーク様はわたしを抱き抱えたまま、別棟に入って行った。
ルーク様の声に、サリーさんが別棟の玄関ホールにやって来る。
「まあっ! ニーナどうしたの?」
「……ニーナ?」
ルーク様はサリーさんの言葉に、眉をピクリとさせる。
サリーさんは走り寄ってくると、ルーク様に返事をする。
「はい。ニーナはその者の名ですが……。一体、どうなさったんですか?」
「いや、オレの不注意で、噴水を掃除していたこの者を濡らしてしまった。タオルと風呂の用意をしてくれ」
「かしこまりました」
サリーさんはルーク様の言葉に肯き、走ってタオルを撮りに行った。
ルーク様はわたしを抱えたまま、リビングへ向かう。
「あ、あの、ルーク様。わたしは歩けますから、下ろしてください」
わたしがそう言うと、ルーク様は眉を寄せたまま、こちらをちらりと見たが、何も言わずに歩き続けた。
リビングに着くと、やっとルーク様の腕から下ろしてもらえた。
そこに、タオルを持ったサリーさんがやってくる。
サリーさんはルーク様にもタオルを渡し、わたしにもタオルをくれて、わたしの髪をわしゃわしゃと拭いた。
「ルーク様、お部屋の方にお風呂の支度ができました。すぐご入浴されますか?」
サリーさんがわたしを拭きながら言う。
「では、その者を入れてやってくれ」
サリーさんのわたしを拭く手が止まる。
「申し訳ありません。ルーク様が入られると思って、ルーク様のお部屋のお風呂にお湯を張ってしまいました」
今度は、ルーク様の自分の髪を拭く手が止まった。
「……では、オレの部屋の風呂をその者に使わせてやれ。オレは鍛えているから大丈夫だが、その者は風邪をひくだろう」
「でも、」
「オレが良いと、言っているんだ。さっさと入れてやれ」
「かしこまりました」
サリーさんにタオルで体を包まれて連れてこられたのは、ルーク様の部屋に付いているバスルームだった。
バスルームなんて、婚約者時代でも入ったことないわ。
サリーさんは、わたしに新しいタオルを渡してくれる。
「わたしは一度下がるけど、気を抜かないでね。ルーク様が子どもを襲うとは思わないけど、ルーク様のお部屋に、子どもとは言えバスルームを使った者がいるとは、あまり人には知られない方がいいから」
「はい。わかりました。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「ルーク様が水をかけたんでしょ? しょうがないわよ。着替え、あとで持ってきておくから、風邪ひかないように温まってくるのよ」
「はい。ありがとうございます」
わたしは水に濡れた服を脱いで、素早くバスタブに身を浸した。
ふぅ~。
あったか~い。
強がってはみたものの、やっぱり寒かったんだよね。
初めて入ったルーク様のバスルームは、お姫様のバスルームみたいだった。
白い猫足のバスタブに、大きな窓。そしてそこにかかるレースのカーテン。
……乙女か。
いい匂いのするボディソープがあったので、遠慮なく使わせてもらった。
こんな高いボディソープ、もう使えないかもしれないもの。
お風呂を出ると、サリーさんが用意してくれたお仕着せを身につけて、バスルームを出た。
廊下に出るには、一度ルーク様の部屋を通らなくてはならないので、そーっとルーク様の部屋のドアを開けると、ルーク様が机に向かって頬杖をついているのが見えた。
「ルーク様、お風呂、ありがとうございました。とても温まりました」
ルーク様はわたしに気がつくと、椅子の向きをこちらに向けた。
「お前、名前は?」
ルーク様はさっきサリーさんに聞いたはずなのに、わたしに名前を確認してきた。
「ニーナと申します。今年、初等科を卒業して、こちらで働かせていただいております」
「ニーナか……。似た名前だから、返事をしたのか」
「はい?」
「ジーナと呼んだら、返事をしただろう?」
あ、そういえば、最初にジーナと呼ばれて返事をしたっけ。
わたしにとっては、ジーナもニーナも自分の名前だから、思わず返事をしてしまったけど。
ルーク様が勘違いをしてくれて良かった。
「はい。ニーナと呼ばれたのだと思いました」
「……そうか」
ルーク様は、悲しそうな笑みを浮かべた。
「また、幻のだったな。ニーナ、悪かった。この家の主人とはいえ、知らない男に抱きつかれて怖かっただろう。許せ」
「いえ、そのようなことはありません」
だって、ルーク様だもの。
わたしは部屋を出る前に、もう一度、ルーク様にお礼を言った。
「あの、本当にありがとうございました」
ペコリと頭を下げて、ルーク様の部屋を後にした。
パタン、とドアが閉まった後、ルーク様がジーナの名を呼び、過去を思い出し、辛そうにしていることなど、わたしにはわからなかった。
ルーク様はわたしを抱き抱えたまま、別棟に入って行った。
ルーク様の声に、サリーさんが別棟の玄関ホールにやって来る。
「まあっ! ニーナどうしたの?」
「……ニーナ?」
ルーク様はサリーさんの言葉に、眉をピクリとさせる。
サリーさんは走り寄ってくると、ルーク様に返事をする。
「はい。ニーナはその者の名ですが……。一体、どうなさったんですか?」
「いや、オレの不注意で、噴水を掃除していたこの者を濡らしてしまった。タオルと風呂の用意をしてくれ」
「かしこまりました」
サリーさんはルーク様の言葉に肯き、走ってタオルを撮りに行った。
ルーク様はわたしを抱えたまま、リビングへ向かう。
「あ、あの、ルーク様。わたしは歩けますから、下ろしてください」
わたしがそう言うと、ルーク様は眉を寄せたまま、こちらをちらりと見たが、何も言わずに歩き続けた。
リビングに着くと、やっとルーク様の腕から下ろしてもらえた。
そこに、タオルを持ったサリーさんがやってくる。
サリーさんはルーク様にもタオルを渡し、わたしにもタオルをくれて、わたしの髪をわしゃわしゃと拭いた。
「ルーク様、お部屋の方にお風呂の支度ができました。すぐご入浴されますか?」
サリーさんがわたしを拭きながら言う。
「では、その者を入れてやってくれ」
サリーさんのわたしを拭く手が止まる。
「申し訳ありません。ルーク様が入られると思って、ルーク様のお部屋のお風呂にお湯を張ってしまいました」
今度は、ルーク様の自分の髪を拭く手が止まった。
「……では、オレの部屋の風呂をその者に使わせてやれ。オレは鍛えているから大丈夫だが、その者は風邪をひくだろう」
「でも、」
「オレが良いと、言っているんだ。さっさと入れてやれ」
「かしこまりました」
サリーさんにタオルで体を包まれて連れてこられたのは、ルーク様の部屋に付いているバスルームだった。
バスルームなんて、婚約者時代でも入ったことないわ。
サリーさんは、わたしに新しいタオルを渡してくれる。
「わたしは一度下がるけど、気を抜かないでね。ルーク様が子どもを襲うとは思わないけど、ルーク様のお部屋に、子どもとは言えバスルームを使った者がいるとは、あまり人には知られない方がいいから」
「はい。わかりました。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「ルーク様が水をかけたんでしょ? しょうがないわよ。着替え、あとで持ってきておくから、風邪ひかないように温まってくるのよ」
「はい。ありがとうございます」
わたしは水に濡れた服を脱いで、素早くバスタブに身を浸した。
ふぅ~。
あったか~い。
強がってはみたものの、やっぱり寒かったんだよね。
初めて入ったルーク様のバスルームは、お姫様のバスルームみたいだった。
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「ルーク様、お風呂、ありがとうございました。とても温まりました」
ルーク様はわたしに気がつくと、椅子の向きをこちらに向けた。
「お前、名前は?」
ルーク様はさっきサリーさんに聞いたはずなのに、わたしに名前を確認してきた。
「ニーナと申します。今年、初等科を卒業して、こちらで働かせていただいております」
「ニーナか……。似た名前だから、返事をしたのか」
「はい?」
「ジーナと呼んだら、返事をしただろう?」
あ、そういえば、最初にジーナと呼ばれて返事をしたっけ。
わたしにとっては、ジーナもニーナも自分の名前だから、思わず返事をしてしまったけど。
ルーク様が勘違いをしてくれて良かった。
「はい。ニーナと呼ばれたのだと思いました」
「……そうか」
ルーク様は、悲しそうな笑みを浮かべた。
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「いえ、そのようなことはありません」
だって、ルーク様だもの。
わたしは部屋を出る前に、もう一度、ルーク様にお礼を言った。
「あの、本当にありがとうございました」
ペコリと頭を下げて、ルーク様の部屋を後にした。
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