もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
70 / 255
7章 こぼれ落ちた運命は再び拾えるか?

9

しおりを挟む
ルーク様にお風呂をお借りしてからわたしは仕事に戻ったけど、お風呂にのんびり入ってしまった分巻きで仕事をしなければならなくて、いつもよりちょっと遅めにベッドに入った。

忙しかったけれど、わたしの心はほわほわしていた。
だって、ルーク様に会えたんですもの!

お元気そうで何よりだった。
すっかり大人になって、腕なんか昔よりもかなりたくましくなって、がっしりとして、剣術もがんばっていたんだろうな。
遠くでお姿を見るだけでもと思っていたのに、あんなに近くでお会いできるなんて、とてもとても感激だった。

でも、まだジーナわたしのことを思い出して、あんなに悲しそうな顔をするなんて、思ってもいなかった。
本当に、わたしはルーク様を置いて逝ってしまったのだと、思い知らされた。

ルーク様に幸せになってもらうために、わたしにできることはないのだろうか……。

お庭にお花を咲かせるの、庭師さんに手伝ってもらって、もう少し多く咲かせようかな。

お庭について考えた時、わたしは昼間噴水の掃除用具を片付けていないことを思い出した。

こんなに夜遅くなったら、明日でも構わない気もしたけど、もし、朝ルーク様が庭を見てから出勤なさったら、散らかった庭では申し訳ない気がしたのだ。

慌ててガウンを羽織り、庭へと駆け出した。


噴水の前まで行くと、やっぱり掃除用具がバラバラに散らかっていて、見られたものではなかったので、夜遅くなってしまったが、気が付いて良かったと、胸を撫で下ろした。

バケツを取る時に、ガシャンと音を立ててしまい、慌てて辺りを見回す。
よかった。
誰もいない。

警備の人とかに見つかったら、きっと注意を受けるだろうから、誰にも見つからないうちに戻りたかった。

わたしはバケツとゴミバサミとホウキを抱えて、そーっと別棟の裏口から中に入る。

用具入れにそれらを戻し、ホッと一息ついた時に、肩を叩かれた。

「ひぃっ、!」
「しっ。静かにしてくれ」
口を塞がれてびっくりしたものの、耳に入った声は昼間聴いたルーク様のものだったので、その後は大声を出さずに済んだ。

「ルーク様、こんな時間にどうなさったのですか?」
見ると、ルーク様はまだ寝間着にも着替えておらず、ずっと起きていたことがわかる。
「寝られずに、二階の自分の部屋の窓の外を見ていたら、ガウンのまま外に出て行くバカが見えた。下に降りてきたら、ちょうどお前が掃除用具を持って戻ってくるのが見えたから、追ってきたんだ」

わたしはひょこっと首を傾げる。
「何故、追ってきたのですか?」
ルーク様はそんなわたしを見て、はっとした表情をする。
「っ、バカがまた風邪を引きそうだと思って、小言を言いにきたのだ」

むか。
バカバカって、いくら使用人と主人の関係だとしても、ひどくない?
「ルーク様、わたしだってバカじゃありません。ちゃんとガウンを着てきました」
ルーク様はため息をつく。
「やっぱりバカだろう。そればかりが問題ではない。仮にも女なのだから、襲われる心配もしろ」
「でも、侯爵邸内ですよ?」
「使用人の中には男がたくさんいるだろう。一応、身元が確かな者ばかりだが、男というものは時に本能のままに動いてしまう時がある。以後、気を付けるんだな」

そんなこと、考えたこともなかったわたしは、しょんぼりと返事をした。
「はい。以後、気をつけます……」

ふぅ、とルーク様は息を吐く。
「仕事熱心なのは構わないが、もう遅い。早く寝ろ」
「はい。ご迷惑をお掛けしました。お休みなさいませ」
わたしが頭を下げると、ルーク様は頷いて、その場を立ち去ろうとした。

「ルーク様、そちらはお部屋ではありませんよ?」
わたしがそう声を掛けると、右の眉をぴくりとさせて、ルーク様が振り返った。
「オレの家だ。オレが部屋を間違えるわけないだろう」
「ですが……」
「腹が減ったから、厨房に行くところだ」
「でも、もうこの時間では誰もいませんよ?」
「食事くらい自分で作れる」
「そうですか」

イライラした様子で踵を返し、厨房に行くルーク様がなんとなく気になって、わたしはその後をついて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

処理中です...