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7章 こぼれ落ちた運命は再び拾えるか?
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ルーク様にお風呂をお借りしてからわたしは仕事に戻ったけど、お風呂にのんびり入ってしまった分巻きで仕事をしなければならなくて、いつもよりちょっと遅めにベッドに入った。
忙しかったけれど、わたしの心はほわほわしていた。
だって、ルーク様に会えたんですもの!
お元気そうで何よりだった。
すっかり大人になって、腕なんか昔よりもかなりたくましくなって、がっしりとして、剣術もがんばっていたんだろうな。
遠くでお姿を見るだけでもと思っていたのに、あんなに近くでお会いできるなんて、とてもとても感激だった。
でも、まだジーナのことを思い出して、あんなに悲しそうな顔をするなんて、思ってもいなかった。
本当に、わたしはルーク様を置いて逝ってしまったのだと、思い知らされた。
ルーク様に幸せになってもらうために、わたしにできることはないのだろうか……。
お庭にお花を咲かせるの、庭師さんに手伝ってもらって、もう少し多く咲かせようかな。
お庭について考えた時、わたしは昼間噴水の掃除用具を片付けていないことを思い出した。
こんなに夜遅くなったら、明日でも構わない気もしたけど、もし、朝ルーク様が庭を見てから出勤なさったら、散らかった庭では申し訳ない気がしたのだ。
慌ててガウンを羽織り、庭へと駆け出した。
噴水の前まで行くと、やっぱり掃除用具がバラバラに散らかっていて、見られたものではなかったので、夜遅くなってしまったが、気が付いて良かったと、胸を撫で下ろした。
バケツを取る時に、ガシャンと音を立ててしまい、慌てて辺りを見回す。
よかった。
誰もいない。
警備の人とかに見つかったら、きっと注意を受けるだろうから、誰にも見つからないうちに戻りたかった。
わたしはバケツとゴミバサミとホウキを抱えて、そーっと別棟の裏口から中に入る。
用具入れにそれらを戻し、ホッと一息ついた時に、肩を叩かれた。
「ひぃっ、!」
「しっ。静かにしてくれ」
口を塞がれてびっくりしたものの、耳に入った声は昼間聴いたルーク様のものだったので、その後は大声を出さずに済んだ。
「ルーク様、こんな時間にどうなさったのですか?」
見ると、ルーク様はまだ寝間着にも着替えておらず、ずっと起きていたことがわかる。
「寝られずに、二階の自分の部屋の窓の外を見ていたら、ガウンのまま外に出て行くバカが見えた。下に降りてきたら、ちょうどお前が掃除用具を持って戻ってくるのが見えたから、追ってきたんだ」
わたしはひょこっと首を傾げる。
「何故、追ってきたのですか?」
ルーク様はそんなわたしを見て、はっとした表情をする。
「っ、バカがまた風邪を引きそうだと思って、小言を言いにきたのだ」
むか。
バカバカって、いくら使用人と主人の関係だとしても、ひどくない?
「ルーク様、わたしだってバカじゃありません。ちゃんとガウンを着てきました」
ルーク様はため息をつく。
「やっぱりバカだろう。そればかりが問題ではない。仮にも女なのだから、襲われる心配もしろ」
「でも、侯爵邸内ですよ?」
「使用人の中には男がたくさんいるだろう。一応、身元が確かな者ばかりだが、男というものは時に本能のままに動いてしまう時がある。以後、気を付けるんだな」
そんなこと、考えたこともなかったわたしは、しょんぼりと返事をした。
「はい。以後、気をつけます……」
ふぅ、とルーク様は息を吐く。
「仕事熱心なのは構わないが、もう遅い。早く寝ろ」
「はい。ご迷惑をお掛けしました。お休みなさいませ」
わたしが頭を下げると、ルーク様は頷いて、その場を立ち去ろうとした。
「ルーク様、そちらはお部屋ではありませんよ?」
わたしがそう声を掛けると、右の眉をぴくりとさせて、ルーク様が振り返った。
「オレの家だ。オレが部屋を間違えるわけないだろう」
「ですが……」
「腹が減ったから、厨房に行くところだ」
「でも、もうこの時間では誰もいませんよ?」
「食事くらい自分で作れる」
「そうですか」
イライラした様子で踵を返し、厨房に行くルーク様がなんとなく気になって、わたしはその後をついて行った。
忙しかったけれど、わたしの心はほわほわしていた。
だって、ルーク様に会えたんですもの!
お元気そうで何よりだった。
すっかり大人になって、腕なんか昔よりもかなりたくましくなって、がっしりとして、剣術もがんばっていたんだろうな。
遠くでお姿を見るだけでもと思っていたのに、あんなに近くでお会いできるなんて、とてもとても感激だった。
でも、まだジーナのことを思い出して、あんなに悲しそうな顔をするなんて、思ってもいなかった。
本当に、わたしはルーク様を置いて逝ってしまったのだと、思い知らされた。
ルーク様に幸せになってもらうために、わたしにできることはないのだろうか……。
お庭にお花を咲かせるの、庭師さんに手伝ってもらって、もう少し多く咲かせようかな。
お庭について考えた時、わたしは昼間噴水の掃除用具を片付けていないことを思い出した。
こんなに夜遅くなったら、明日でも構わない気もしたけど、もし、朝ルーク様が庭を見てから出勤なさったら、散らかった庭では申し訳ない気がしたのだ。
慌ててガウンを羽織り、庭へと駆け出した。
噴水の前まで行くと、やっぱり掃除用具がバラバラに散らかっていて、見られたものではなかったので、夜遅くなってしまったが、気が付いて良かったと、胸を撫で下ろした。
バケツを取る時に、ガシャンと音を立ててしまい、慌てて辺りを見回す。
よかった。
誰もいない。
警備の人とかに見つかったら、きっと注意を受けるだろうから、誰にも見つからないうちに戻りたかった。
わたしはバケツとゴミバサミとホウキを抱えて、そーっと別棟の裏口から中に入る。
用具入れにそれらを戻し、ホッと一息ついた時に、肩を叩かれた。
「ひぃっ、!」
「しっ。静かにしてくれ」
口を塞がれてびっくりしたものの、耳に入った声は昼間聴いたルーク様のものだったので、その後は大声を出さずに済んだ。
「ルーク様、こんな時間にどうなさったのですか?」
見ると、ルーク様はまだ寝間着にも着替えておらず、ずっと起きていたことがわかる。
「寝られずに、二階の自分の部屋の窓の外を見ていたら、ガウンのまま外に出て行くバカが見えた。下に降りてきたら、ちょうどお前が掃除用具を持って戻ってくるのが見えたから、追ってきたんだ」
わたしはひょこっと首を傾げる。
「何故、追ってきたのですか?」
ルーク様はそんなわたしを見て、はっとした表情をする。
「っ、バカがまた風邪を引きそうだと思って、小言を言いにきたのだ」
むか。
バカバカって、いくら使用人と主人の関係だとしても、ひどくない?
「ルーク様、わたしだってバカじゃありません。ちゃんとガウンを着てきました」
ルーク様はため息をつく。
「やっぱりバカだろう。そればかりが問題ではない。仮にも女なのだから、襲われる心配もしろ」
「でも、侯爵邸内ですよ?」
「使用人の中には男がたくさんいるだろう。一応、身元が確かな者ばかりだが、男というものは時に本能のままに動いてしまう時がある。以後、気を付けるんだな」
そんなこと、考えたこともなかったわたしは、しょんぼりと返事をした。
「はい。以後、気をつけます……」
ふぅ、とルーク様は息を吐く。
「仕事熱心なのは構わないが、もう遅い。早く寝ろ」
「はい。ご迷惑をお掛けしました。お休みなさいませ」
わたしが頭を下げると、ルーク様は頷いて、その場を立ち去ろうとした。
「ルーク様、そちらはお部屋ではありませんよ?」
わたしがそう声を掛けると、右の眉をぴくりとさせて、ルーク様が振り返った。
「オレの家だ。オレが部屋を間違えるわけないだろう」
「ですが……」
「腹が減ったから、厨房に行くところだ」
「でも、もうこの時間では誰もいませんよ?」
「食事くらい自分で作れる」
「そうですか」
イライラした様子で踵を返し、厨房に行くルーク様がなんとなく気になって、わたしはその後をついて行った。
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