悪役令嬢は鳥籠の姫。

葉叶

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私、前世を思い出しました。

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目を閉じ、居るかどうかも分からない神へと必死に祈っていると、スッと頬を撫でられた。顔を上げれば、ヴェンと目が合う。

「一人探しておる奴が居るみたいじゃ」
「誰か、わかりますか?」
「なんじゃったかな。ジョセフ……いや違うな、ジョン……何か足りないのぅ」

うんうんと悩み始めたヴェン。

「もしかしてジョシュアですか?私と同じ銀髪で、金色の瞳をしてませんでしたか?」
「あぁ、そんな名前じゃったな」

ぽんっと手のひらを叩いたヴェンの言葉を疑う訳ではないけど、それはとてもあり得ない話だった。
お兄様の耳にどれだけ早く入っても、当日の内に来れるのか?
転移という魔法はあるけど、小説で見るような万能魔法ではない。
距離が開けば魔力の消費も激しくなるし、連発するには膨大な魔力が必要になる。だからお兄様が此方へ来るには馬車か、馬での強行軍になる。
それでもこんなに早く来れる訳がないのだ。

「……ヴェン。私が居なくなってから何日経っていますか?」

ヴェンが言っている事が本当なら、お兄様が私を探しているのなら、もうこの可能性しかない。
時計もないこの森で、私とルキが意識を失っていたのが一晩じゃなかったら…そうしたら辻褄はあう。

「確かジョシュアとやらが、三月と言っておったなぁ」
「み、つき……??」

2日3日どころか3ヶ月?そんなにも目覚めずにいられるのか?
だけどそれならお兄様が居るのもわかる。でもそんなに経っても私達を見つけられない物なのだろうか

「ん?何をそんなに驚いておるんじゃ?」
「だ、だって私…確かに意識をなくしたけど、三月も意識を失っていたなんて…そんな」
「ティアナ、お主此処がどういう場所か分かっておらんのか?」

どういう場所?それはどういう意味だろう。

「此処は、精霊界と此方を繋ぐ場所じゃ。じゃから時の流れが少しばかり精霊界に引き摺られるみたいでなぁ。まぁ儂ら精霊にとっては時の経過など気にしてはおらんが、他はそうもいかん。故に、此処は不可侵領域でもあるんじゃ。」
「……不可侵?それならどうして私……」

特に何かに阻まれた記憶はない。
違和感も無かったし、寧ろ落ち着く感じがするくらいで、他変な事なんて何もなかった。

「お主には儂の加護がついておる。そしてそこの坊主もまた別の者から加護を受けておる。故にお主らは此処に居ても何もないんじゃ。」
「此処から出る事は……出来るのですか?」
「出口から出て行けば戻れる。」
「出口……?」

そんな物何処にあるかわからない。
扉がある訳でも立て札がたってる訳でもない。私の目には普通の森にしか見えないのだ。

「決められた出口などない。其方が出口だと思うた所が出口なんじゃよ」

そう言われて、なるほど!わかった!と言える程ヴェンを信用できた訳でも、自分の力を信用している訳でもない。

「……ヴェン、ちょっと待ってて」

それでも此処がもしも本当に不可侵の場所で、私達しか居られないような所なら、このまま待っていても意味がない。

私は少し息を吐き、ルキの元へゆっくりと向かった。
うとうとと微睡んでいた彼は、私の足音に気づき視線を私に向けた。

「ルキ。あのね、貴方の怪我はとても酷いの。
出来る限り治したけど、それでも危ない事には変わらないわ。
だから、此処から動いて助けを探さなくちゃいけないの。だから「いいよ」……ルキ?」

私の言葉を遮り、彼は何処か諦めた様に笑った。
何がいいのか、どうしてそんな顔をするのかわからず、彼を見つめた。

「僕は足手まといだから、置いていっても君を恨んだりなんてしないよ。君の行動は間違ってない。世の中は弱肉強食だ。弱い者は淘汰される。だけど、それは仕方ないよ。だって弱いんだ。弱いから悪い。
だから、君は悪くない」

光を失くした瞳は、私を見ていなかった。

「ちがう!!私、置いていく相談をしにきたんじゃないわ!!貴方を一人で死なせてたまるもんですか!」

独りは寂しくて、独りは自分を少しずつ蝕んでいく。

『一人で寂しくないの~?私だったら耐えられない』
『藤崎先輩って一人でも平気そうですよね』

そんな言葉をかけられる度に、いつも笑って流していた。
独りが好きなわけじゃなかったけど、誰かと一緒に居たかった訳でもなかった。傷つけられるのが怖くて、傷つける事が怖かった私が独りになるのは当たり前で、だけどそれでも…独りはとても寂しかった。

そんな私の光だった彼が、傷ついてる。
誰かと関わる事が怖くなくなった訳じゃないし、死亡フラグだってまだ沢山残ってるけど、放って置ける訳がなかった。
直接彼の気持ちを聞いた訳じゃないけど、間違ってないと、仕方ないという彼の瞳が揺れていたから、だから私はこの手を離せない。

「見捨てないなんて言っても会ったばかりの私を、貴方は信用出来ないと思う。そんなの当たり前だわ。私達出会ったばかりだもの。
だからね、信用しなくていいから覚えていてほしいの」
「……何を」
「貴方を私が見捨てなかったって。」

ポカンと口を開ける彼に笑いかけて私は立ち上がった。
これ以上言葉を並べ立てても行動が伴わなければなんの意味もない。
言いたい事は伝えたのだ。あとは行動するだけ。

「さて、お兄様の胃に穴が開いちゃう前にお家に帰りましょうか」


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