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佐々木さんと工藤くんは困っている
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しおりを挟むなんだか妙なことになってしまった。
『終わったら駅前のコンビニで待ち合わせしましょう。俺、十分くらい時間ずらして店出るようにします』
工藤くんの言う通り、佐々木は今コンビニにいる。
気持ち早めに着替えて店を出た。
(工藤くん…… もう出たのかな)
そわそわと落ち着かない気持ちで佐々木は店の外をうかがう。
まだ、工藤くんの姿は見えない。
そのことに内心少しほっとするような、焦るような、自分でも上手くまとまらない感情に胃が痛くなりそうだ。
(……家に取りに来るって、本気で家に来るつもりなのかな)
今更な疑問だ。
工藤くんの勢いに押され、あまり深く考える間もなく了承してしまったが。
(それか、どっかで待ってもらって、その間鍵を取りに行って……)
そわそわと落ち着かず、目の前に並べられている雑誌を手に取り、また戻す。
(……待ってもらうって、どこで?)
もう深夜営業以外の店の大半が閉まっている時間だ。
仮に深夜営業のファミレスなどがあったとしても佐々木が一旦我が家に戻り、鍵を持って来るというのは時間がかかりすぎる気もする。
(……まぁ、工藤くんが面倒じゃないなら、別にいいんだけどさ……)
今朝若干悩みながらも結局例の鍵を家に置いてきてしまったことが悔やまれる。
(連絡先知ってればな…… こんな面倒なすれ違いもなかったのに)
大して興味もない漫画雑誌を手に取り、ヨレヨレのページをパラパラと捲る。
内容はまったくと言っていいほど頭に入らない。
(連絡先も知らないんだよな……)
そもそも知っている連載がなかった。
(……連絡先も知らない男とヤっちゃったんだよな)
大して興味もなかった雑誌を戻しながら、佐々木は小さくため息を零す。
今更だが自分と工藤くんの繋がりの薄さと奇妙さにまた胃が痛くなりそうだ。
(最近ずっと流されてる気がする……)
状況は違うがつい昨夜の出来事が脳裏に浮かぶ。
あの、馴れ馴れしく厭らしく自分に触れてきた男。
思い出すだけで腹が立つ男に思考が引っ張られそうになったが、タイミングいいのか悪いのか、窓ガラスの向こうから歩いてくる工藤くんが見えた。
(うっ、まだ心の準備が……)
慌てふためく佐々木の心の内など知らない工藤くんは以前はしていなかったマフラーに顔を埋めながらこちらに近づいて来る。
……きゅんっ
(……うわ、かわいい)
色々悩んでいたことも忘れ、一瞬胸が高鳴った。
直前まで糞のような爛れた元カレのことを思い出していたせいか、より工藤くんの存在が眩しく輝いて見える。
実際佐々木にとって工藤くんは眩しすぎる存在だ。
眩しくて、本来なら近寄ることも、関わることもない存在。
(……本当、なんでこんなことになっちゃったんだろう)
ちらっと顔を上げて、窓越しの佐々木に気づいた工藤くんがマフラーを下げ、小さく笑う。
(……そういえば、寒がりだって言ってたっけ)
あの晩、ほろ酔いのまま二人で夜道を歩いたとき、そんなことを言っていたなーと、なんだか一瞬地面がふわっとするような奇妙な感覚に包まれた。
今度は素面であの晩と同じ道を二人で歩くことになる。
そのことについて、工藤くんはなんとも思わないのだろうか。
それが佐々木にはとても不思議だった。
(複雑だ……)
複雑でもなんでも行かねばならない。
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