氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

カザハナ

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後日談

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「私は馬鹿は嫌いだが、誠実で、領民を大切にする者が居る家を潰す気は無い。ヘンリー殿は私の妻の慰謝料を払う為に、増税と言う形で領民に負担を掛けず、自ら倹約に励んだと聞く。まぁ、増税をしていたとしても、法定内ならどうこう言うつもりは無かったが、増税理由を偽った場合は、この話を持ち出さなかっただろうな」


 ウォール家の領地は、それ程栄えている場所でも無いので、領民から多くの税収を徴収出来ない。

 そんな事をすれば、確実に餓える領民が増え、治安が悪くなり、暴動も起きる可能性が出てくる。

 とは言え、正当な理由で一定期間、税率を少し上げる程度なら、領民達も納得してくれるだろうが、アシュリーに支払う額は、短期間で済むような額では無い。

 何せ建国当初から有る家を潰し、王族と高位貴族を相手に、喧嘩を売ったような物なのだから。

 誠実なヘンリーなら、理由を偽る事無く領民に話しただろうが、領民からの評価はガタ落ちになっただろう。

 それを領民に負担を掛けず、領地を手放す事無く、何とか乗り越えたのに、馬鹿な母親の所為で、その男を潰すのは惜しい。

 しかもそんな男だからこそ、他の貴族達からも信頼が大きく、同情も受け易い。

 それを簡単に潰すとなると、悪役とまではいかないものの、ヘンリーを憐れに思う貴族達が、元々権力の差が有るのに、過剰防衛じゃないかと不信感を抱く者も出るだろう。

 ヘンリーがやらかしたのなら自業自得と言われるだろうが、前回も今回も、諌めていた家族がやらかした事だ。

 きっと更なる多くの同情が、今後ヘンリーに集まる事だろう。

 ならば、それすらをも味方にするのがエヴァンス家だ。

 ジーンがヘンリーに同情し、手を差し伸べたとなれば、美談となる。

 貸しを作り、相手を手駒に加えようが、世間の目からは慈悲深いと見るだろう。

 エヴァンス家は同情で動く事は殆ど無いが、同情を利用する事は大いに有る。

 情報を扱う上で、大いに役立つからだ。

 ここで恩を売って置けば、忠実なげぼ……部下が一人、確実に手に入るのだから、ジーンにとっては良い話だろう。

 しかも、愛しのアシュリーからも、キラキラとした尊敬の眼差しで見詰められているのだから、それだけでもジーンにとってはメリットになる。

 仮にヘンリーが、ジーンの良い様に使われ、それに対して周囲に愚痴ったとしよう。

 その場合、世間の評価を落とすのは誰か。

 身内が相手を貶めたにも関わらず、態々手を貸す義理も無いのに手を差し伸べて、領地の窮地を救った相手に対し、陰口を叩き、恩を仇で返したと見做されるのはヘンリーの方だろう。

 どう転んでも、ジーンの評判は落ちないのだから、恩を売るほうが得になる。

(使い勝手の良い駒は、一人でも多く居た方が何かと便利からね。出番はあまり無いとは思うけど、精々良い印象を、世間にバラ撒いて貰って置こうか)

 その後、この近辺で、エヴァンス家の評価が爆上がりしたのは言うまでもない。
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