751 / 805
後日談
19
しおりを挟む
「私は馬鹿は嫌いだが、誠実で、領民を大切にする者が居る家を潰す気は無い。ヘンリー殿は私の妻の慰謝料を払う為に、増税と言う形で領民に負担を掛けず、自ら倹約に励んだと聞く。まぁ、増税をしていたとしても、法定内ならどうこう言うつもりは無かったが、増税理由を偽った場合は、この話を持ち出さなかっただろうな」
ウォール家の領地は、それ程栄えている場所でも無いので、領民から多くの税収を徴収出来ない。
そんな事をすれば、確実に餓える領民が増え、治安が悪くなり、暴動も起きる可能性が出てくる。
とは言え、正当な理由で一定期間、税率を少し上げる程度なら、領民達も納得してくれるだろうが、アシュリーに支払う額は、短期間で済むような額では無い。
何せ建国当初から有る家を潰し、王族と高位貴族を相手に、喧嘩を売ったような物なのだから。
誠実なヘンリーなら、理由を偽る事無く領民に話しただろうが、領民からの評価はガタ落ちになっただろう。
それを領民に負担を掛けず、領地を手放す事無く、何とか乗り越えたのに、馬鹿な母親の所為で、その男を潰すのは惜しい。
しかもそんな男だからこそ、他の貴族達からも信頼が大きく、同情も受け易い。
それを簡単に潰すとなると、悪役とまではいかないものの、ヘンリーを憐れに思う貴族達が、元々権力の差が有るのに、過剰防衛じゃないかと不信感を抱く者も出るだろう。
ヘンリーがやらかしたのなら自業自得と言われるだろうが、前回も今回も、諌めていた家族がやらかした事だ。
きっと更なる多くの同情が、今後ヘンリーに集まる事だろう。
ならば、それすらをも味方にするのがエヴァンス家だ。
ジーンがヘンリーに同情し、手を差し伸べたとなれば、美談となる。
貸しを作り、相手を手駒に加えようが、世間の目からは慈悲深いと見るだろう。
エヴァンス家は同情で動く事は殆ど無いが、同情を利用する事は大いに有る。
情報を扱う上で、大いに役立つからだ。
ここで恩を売って置けば、忠実なげぼ……部下が一人、確実に手に入るのだから、ジーンにとっては良い話だろう。
しかも、愛しのアシュリーからも、キラキラとした尊敬の眼差しで見詰められているのだから、それだけでもジーンにとってはメリットになる。
仮にヘンリーが、ジーンの良い様に使われ、それに対して周囲に愚痴ったとしよう。
その場合、世間の評価を落とすのは誰か。
身内が相手を貶めたにも関わらず、態々手を貸す義理も無いのに手を差し伸べて、領地の窮地を救った相手に対し、陰口を叩き、恩を仇で返したと見做されるのはヘンリーの方だろう。
どう転んでも、ジーンの評判は落ちないのだから、恩を売るほうが得になる。
(使い勝手の良い駒は、一人でも多く居た方が何かと便利からね。出番はあまり無いとは思うけど、精々良い印象を、世間にバラ撒いて貰って置こうか)
その後、この近辺で、エヴァンス家の評価が爆上がりしたのは言うまでもない。
ウォール家の領地は、それ程栄えている場所でも無いので、領民から多くの税収を徴収出来ない。
そんな事をすれば、確実に餓える領民が増え、治安が悪くなり、暴動も起きる可能性が出てくる。
とは言え、正当な理由で一定期間、税率を少し上げる程度なら、領民達も納得してくれるだろうが、アシュリーに支払う額は、短期間で済むような額では無い。
何せ建国当初から有る家を潰し、王族と高位貴族を相手に、喧嘩を売ったような物なのだから。
誠実なヘンリーなら、理由を偽る事無く領民に話しただろうが、領民からの評価はガタ落ちになっただろう。
それを領民に負担を掛けず、領地を手放す事無く、何とか乗り越えたのに、馬鹿な母親の所為で、その男を潰すのは惜しい。
しかもそんな男だからこそ、他の貴族達からも信頼が大きく、同情も受け易い。
それを簡単に潰すとなると、悪役とまではいかないものの、ヘンリーを憐れに思う貴族達が、元々権力の差が有るのに、過剰防衛じゃないかと不信感を抱く者も出るだろう。
ヘンリーがやらかしたのなら自業自得と言われるだろうが、前回も今回も、諌めていた家族がやらかした事だ。
きっと更なる多くの同情が、今後ヘンリーに集まる事だろう。
ならば、それすらをも味方にするのがエヴァンス家だ。
ジーンがヘンリーに同情し、手を差し伸べたとなれば、美談となる。
貸しを作り、相手を手駒に加えようが、世間の目からは慈悲深いと見るだろう。
エヴァンス家は同情で動く事は殆ど無いが、同情を利用する事は大いに有る。
情報を扱う上で、大いに役立つからだ。
ここで恩を売って置けば、忠実なげぼ……部下が一人、確実に手に入るのだから、ジーンにとっては良い話だろう。
しかも、愛しのアシュリーからも、キラキラとした尊敬の眼差しで見詰められているのだから、それだけでもジーンにとってはメリットになる。
仮にヘンリーが、ジーンの良い様に使われ、それに対して周囲に愚痴ったとしよう。
その場合、世間の評価を落とすのは誰か。
身内が相手を貶めたにも関わらず、態々手を貸す義理も無いのに手を差し伸べて、領地の窮地を救った相手に対し、陰口を叩き、恩を仇で返したと見做されるのはヘンリーの方だろう。
どう転んでも、ジーンの評判は落ちないのだから、恩を売るほうが得になる。
(使い勝手の良い駒は、一人でも多く居た方が何かと便利からね。出番はあまり無いとは思うけど、精々良い印象を、世間にバラ撒いて貰って置こうか)
その後、この近辺で、エヴァンス家の評価が爆上がりしたのは言うまでもない。
3
あなたにおすすめの小説
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる