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本編

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(取り柄は無いと言っていたが、これは充分取り柄になるだろうに……。この焼き菓子だって、店で売られている物と大差無い味だ。それにこのお茶も、王宮で出される物よりも断然美味うまい。お茶は同じ茶葉でも淹れる者によって味が変わる。茶葉の種類や時間、温度でも変わる為、ここまでの腕を持つ者は限られている。趣味程度の令嬢はいくらでもいるが、ジーン殿が自慢するのも頷ける)

 最初は、身内の欲目もあるだろうと思ったが、惚れたリラの手作りなら、何だろうと食べる気でいた。まさかそれが、プロに引けをとらない物が出てくるなんて思いもよらなかった。


「私の家のプライベートルームにも、貴女のキッチンを改築しなければいけませんね。どんなキッチンが良いですか?今度我が家にいらして下さい。色々話し合いましょう」


 勿論、エドワルドは話し合うだけで済ます気はない。クルルフォーン邸に招き入れさえすれば、他からの邪魔は入らないのだから。

 リラはエドワルドがキッチンの改築と口にした事に驚く。そんな事をさせるのは、リラに甘い身内ぐらいだと思っていたからだ。


「ほっ……本気ですか?!」


(わっ、わたくしの為だけのキッチンなんて!!)


「私は嘘を言う気はありませんよ」


(勿論、それだけでは無いけれど)

 リラはエドワルドの思惑に、全く気付かず理想のキッチンを思い浮かべようとする。

 あれも欲しい、これも欲しいと思いを巡らせるが、エドワルドとの結婚生活なんて、思いも付かない。やはりリラには好条件過ぎる人だと思うからだ。

(お母様もお兄様も、当然のように、エドワルド様がわたくしと婚姻すると思っていらっしゃるけれど、何故わたくしなのかしら?エドワルド様程のずば抜けた美貌と頭脳があれば、女性等、選り取り見取りの筈。なのに、国王陛下にまで話を通してしまわれるなんて……。そんな事をすれば、破棄する事も難しくなると言うのに。エドワルド様は本当にわたくしで良いのかしら?)

 エドワルドが物好きだとしても、何の取り柄も無い極々平凡な(と本人は思い込んでる)娘を嫁にした所で、エドワルドの評価を下げるばかりではないかと不安に思う。かと言って、リラに出来る事と言えば断る事ぐらいだが、それも王命に近い物なので断る事も出来ない。

 完全に退路を塞がれている状態なのだが、リラは自分にそこまでする価値はないのにと不思議がっているのだ。
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