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本編

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(お出しすると分かっていたら、もう少し形やトッピングに拘りましたのに……)

 侍女に頼んで、昨日作った大量の焼き菓子を、大皿に入れて持ってきて貰う。

 その間、作った焼き菓子に合うお茶を用意するが、リラは緊張を強いられている。何せ、家族や使用人には美味しいと言って貰っているが、それ以外の人に味を見て貰うのはこれが初めてだったから。

(わっ、わたくしの味覚と家族や使用人達の味覚が正常でありますように!こう……じゃなく、エドワルド様の味覚が近い物でありますように!)

 リラがお茶を出す頃合いに、侍女がリラから言われた焼き菓子をテーブルの上に置き、下がった。


「おっ、お茶もどうぞ」

「有難うリラ嬢。では、早速」


 リラは兄にもお茶を手渡すと、エドワルドの正面であり、兄の横である席に着く。

 エドワルドが焼き菓子に手を伸ばし、咀嚼する姿を固唾を呑んで見守るリラ。


「……ああ、ジーン殿の言った通り、本当に美味しいですね。お茶もお菓子も絶品だ。もっと頂いても?」

「お好きなだけお取り下さい。……お口に合って良かったです」


 最初は無表情を装っていたリラだったが、あまりに嬉し過ぎて、思わず笑顔が溢れ出る。

(かっ、家族や使用人達以外にも褒められた~!!!)

 リラは気付いてなかったが、そのリラの表情を見たエドワルドの顔は赤く染まり、愛しい者を見る目で熱く甘い視線をリラに注ぎ、明らかに見惚れていた。

(あの、難攻不落と呼ばれる男が、ここまでリラにベタ惚れか)

 信じていなかった訳では無いが、ジーンは少し意外な物を見た気分だ。

(まぁ、僕のリラは可愛いから)

 重度なシスコンに掛かれば、結論はこんな物で済む。

 リラは元々素直な娘なので、幼少期の出来事が無ければ、コミュ障になる事も、自身を過小評価する事もなかっただろうが、これはこれで、変な虫が気付かず寄らずだった分、良かったと思っていたのだ。

 害虫がリラに群がるよりも、いない方が安心だ。これ程可愛い妹が、コミュ障にならずに成長した場合を想像すれば、その懸念も分かるだろう。

 リラが自信家になると言った可能性は想像出来ないが、周りの男に騙され傷付けられると言った可能性は想像出来る。そんな男に騙されるよりは、エドワルドに捕まる方が断然マシだとジーンは思った。
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