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サクサクっと

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 マリア捜索の旅に出ると決めた俺達一家だが、街を出るまでがまあ大変だった。
 俺が目覚めたら事に対する近所の奴らからの手荒い祝福。マリアの事情を知っているからか、皆はあえて暗い話題は出してこない。そういった些細な気遣いに涙腺がウルっときてしまいそうになるが、それを堪えて束の間の喜びを分かち合った。
 見知った顔はみんな相応の歳を取っており、昔世話になった近所の爺さんは既に他界しているときたもんだ。当たり前だ。俺は歳をとっていないが既に十数年が経過している。街の外観もやや変わっており、知らない顔も多かった。
 ささやかだが世話になった人達の墓に花を手向けると、ようやく街を出る支度へと取り掛かる。俺が寝たきりだったせいか身の回りのものは比較的少なく、女子が三人も住んでいた割に家の中も閑散としていた。

「そういえば、お前も冒険者ギルドに登録してるらしいな」

 それとなくイリアから聞いていた話題を振ってみる。娘ができたら冒険者はやらせないと決めていたのだが、イリア達は揃いも揃って冒険者ギルドで登録を済ませていたらしい。
 ちなみにだが俺は眠っている間に更新が滞り、ランクは一番下のDまで下がっている。
 命に関わる職業故に、ランクの更新に代理人は立てられない。そういう決まりなのだ。
 もっとも、下っ端のDランクの稼ぎじゃあ大人一人と娘三人は養えない。
 しかしイリアはフフンと鼻を鳴らしてランクが刻まれたタグを見せてくる。眩しく光る銀色のタグーーーーそれは紛れもなくAランクを示すものだった。

「マジかよ……十七歳でAランクとか天才か!」
「……ま、私だけじゃないんだけどね」

 ころっと表情を変えて視線を横に流す。
 すると、リーゼとハクも同じ銀色のタグを自慢げに掲げていた。

「Dランクが許されるのは子供だけだよ、とーちゃん?」
「らくしょう」
「ぐぬぬ……Aランクのバーゲンセールじゃねえかよ」

 我が子ながら末恐ろしい。
 しかもハクに至ってはまだ十二歳だ、いくらなんでも異常である。考えてみればランク制度に年齢は関係なかったが、もっとも、年端もいかない内から高ランクなんて視野にないのが普通だろう。

「因みに、その気になれば私達はSランクまで上がれるわ」
「は? マジで?」
「あえてAランクで止めてたのよ。Sランクになると王都から直接依頼が舞い込むわ。私達には父さんの世話があったから、これ以上ランクを上げるのは控えてたの」
「あー……確かにそうだったな」

 俺とマリアも結婚する時に話した事だ。
 はっきり言ってAランクの依頼さえこなしていれば充分な生活は送れる。
 英雄だの世界最強だのに興味の無かった俺は、Aランクに留まる事を決めていたのだ。

「でも、今度は話が変わってくるわね」
「ん?」
「今はむしろ王都に行きたいわ。きっと王都なら、母さんの手掛かりもある筈よ」
「なるほど、そりゃ手っ取り早いがーーーー」

 確かに王都なら多くの人間と重要な機密が入り混じるだろう。
 手掛かりすら無い俺らからすれば、マリアを探すための最短ルートかも知れない。


「ちなみに王都には基本的に許可証がなければ入国出来ないわ。王都を目指すなら許可証は必須ね。だけど発行は貴族以上の認可が無ければ無理なの。父さん、貴族に知り合いは?」
「いる訳ねぇだろそんなの」
「でしょうね。だから残された手段はーーーー」

 リーゼはタグを掲げる。

「そう……私達がパーティを組み、皆んなでSランクになるの。Sランクだらけのパーティともなれば必ず王都の目に止まる。それにパーティで受けられる昇格試験もあるから、バラバラに受けるより効率がいいわ」
「おお! ……って待てよ」

 自分のタグに目を落とす。
 懐かしい、鈍く光る鉛色だ。

「こっからSランクって、何年掛かるんだよ」
「もちろん、それも手は打ってあるわ」

 イリアは胸元から複数の紙を取り出した。
 谷間からモノを出すなんて誰から教わったのかしら。もちろん父さんは教えてませんよ?

「ギルドが定めるランク制度。これは成功報酬の高さやギルドへの貢献度で上がるわ。だから次の街で受けられるAランクの依頼、その中でも最高難易度のものを全部予約しておいたから」
「……え?」
「父さんは元々Aランクだったし、私達は実力的にはSランク。つまり、無駄なく父さんをAランクに引き上げる為にはこれが最速よ」

 見ればワイバーンやら海竜や岩石巨人の討伐などがズラりと並んでいる。
 いやいや待て待て、こんな依頼、この街のAランクにいた時だって触った事ねぇぞ。

「っしゃー! やるぞやるぞー!」
「……おー」

 既にリーゼとハクはやる気である。
 しかしイリアがせっかく考えてくれたプランだ。この現状で俺が周りの足を引っ張っているのも間違いない。
 だったらここはーーーー。

「やれやれ、ここは父さんの立派な姿でも拝ませてやるか」
「がんばれとーちゃん!」
「……えいえい、おー」

 ニヒルな言葉と共に、キメ顔で言ってやった。
 ーーーーがしかし、これが負のスパイラルを生み出すなど俺はまだ知らない。
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