幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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 目を覚ましたら、ソファーのローテーブルにお弁当とお茶のペットボトルが置かれていた。

 いつ戻って来たのだろう?

 メモがペットボトルの下に置かれていた。


『弁当、遅くなってすまない。帰宅の時に買い物してくるよ。菜都美のお風呂は、俺が帰ってから、一緒にやろう。それまで待っていてくれ』


 篤志からのメモに書かれていた。

 時計を見ると、二時半。

 よく寝た。

 菜都美はまだ寝ている。

 今、動くと起きるような気がして、身動きは取れない。

 せっかくよく寝ているのだから、目が覚めるまで寝かせてやりたい。

 菜都美の顔をよく見る。

 新生児なのに、睫が長くて、色白だ。唇は絵に描いたようなピンク色をしている。とても美人だ。

 成長した姿を見てみたい。

 兄ちゃんや菜々美さん、父ちゃんと母ちゃんも見てみたいよな?

 俺、責任持って、育てるから。

 安心して見守ってくれ。

 俺は菜都美が起きるまで、菜都美のベッドに徹した。

 じっと菜都美を見ていると、菜都美が目を覚ました。

 綺麗な瞳だ。

 泣くかなと見ていると、にっこりと微笑んだ。

 菜都美が天使に見える。

 俺が育てるから。


「菜都美、お腹空いたか?」

「うー、うー」


 俺は菜都美を抱いたまま起き上がって、卓上ポットでお湯を沸かす。

 抱っこしたままでは危ないから、ベビーラックを持ってきて、そこに寝かす。

 寝かした途端に、ギャン泣きが始まった。


「菜都美、静かにしてくれないと、また警察官が来るぞ」


 手早く、哺乳瓶を消毒液から出して、ミルクの準備を始める。

 沸騰したお湯を哺乳瓶に入れて、菜都美を抱っこする。

 ギャン泣きが止まって、頬に涙の跡が残っている。

 俺のTシャツの袖で、涙の跡を拭いてやる。

 抱っこしたまま、ミルクを冷ます。

 俺のTシャツに小さな手がしがみついていて、可愛い。

 ソファーに戻って、ミルクを飲ますと、一生懸命にミルクを飲んでいる。

 こんなに小さな赤ちゃんを置いて、仕事に出ることなどできない。

 俺はどんなに身勝手だったか、小さな菜都美を見て反省した。

 27才まで大学に通わせてもらえただけでも幸せだったのだ。

 実家に戻って、潰れかけの工場に戻るべきなのかもしれない。

 俺の問題に、篤志を巻き込んではいけない。

 篤志は天才と呼ばれたプログラマーなのだから。

 どんなに愛しても、愛だけで人生を変えることはできない。

 菜都美をベビーラックに寝かせて、俺は冷えた弁当を食べた。

 冷えたお弁当は、正直、美味しくはない。

 愛も冷めたら、幸せになれないだろう。

 指を吸っている菜都美を見ながら、俺はこれからの事を考える。

 考えれば考えるだけ、辛くなる。

 看護師さんが言っていた、『貴方の人生も大切にしていただきたいと思いまして』という言葉を思い出した。

 父ちゃん達が死んで、俺の人生は変わってしまった。

 綺麗事じゃ解決しない。

 あの看護師さんが言っていた事は正論なのだ。

 菜都美は可愛い。俺が育てるのが恩返しだと思うけれど、俺が歩いてきた道が、途切れてしまった。

 菜都美は何も悪い事はしていないのに、どうして?と考えてしまう。

 菜都美を育てるために、俺は仕事をしなくてはならない。

 どんな道に進むべきなのだろう。

 俺は食べ終えたゴミを片付け、菜都美が飲んだ哺乳瓶を洗い、消毒液につけた。

 菜都美がぐずりだした。

 俺の姿が見えないと泣くのか?

 菜都美も不安なのだろう。

 俺は急いでソファーに戻ると、ベビーラックから菜都美を出して、抱っこした。

   
          
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