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4   婚約

7   実家に帰ります

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 翌日はアトミスと買い物に出かけた。
 髪に塗る美容オイルに、化粧品と下着を買った。
 胸は少しずつ成長している。身長もまた伸びた。

「寄宿舎に戻ったらブーツを大きくしてもらわなくては」

 アトミスが髪飾りを選んでくれた。

「お姉様、新しい鞄が欲しいです」

 リリーの鞄は子供の頃に買ってもらった子供のものだ。
 頑丈だけれど、幼さが見える。
 リリーも成長して、お洒落な物が持ちたくなった。

「斜めがけできる鞄かしら」
「空を飛ぶので、両手は空けておきたいのです」
「わかったわ」

 アトミスは街の鞄屋の専門店に連れて行ってくれた。

「たくさんあって、迷います」

 店員にアトミスは斜めがけができる鞄を持ってきて欲しいと頼んだら、いろんな鞄が並べられた。

「ワンピースにも合う物がいいし、頑丈な物がいいです。最近では高速で飛ぶので」
「どれがいいかしら?」

 華奢な小さな鞄を片付けられると、選択肢は減る。

「大きな鞄だと色々運べますね」
「お洒落なワンピースに合わないわよ」
「そうですわね」

 リリーはワンピース用の鞄と大きな鞄を選んだ。

「お財布も欲しいわ」

 アトミスが微笑む。
 店員がいろんなお財布を持ってきてくれる。

「リリーは赤が似合うわ。鞄とお揃いにしてみたらどうかしら?」
「そうね、そうします」

 一気に物持ちになった。
 鞄屋を出ると、お菓子屋さんがあった。
 クッキーやチョコレートを見ると母の笑顔を思い出す。

「お姉様、私、実家に戻ってみようかしら?高速で空を飛んだら往復できるかもしれません」
「リリーあまり無理な計画はたてないで」
「以前より早く飛べるようになったので……」
「ご両親に会いたくなってしまいましたか?」
「……はい。明日起って1泊か2泊、泊まって戻ってこようかしら?」

 リリーはクッキーやチョコレート、珍しいお菓子とモリーとメリーに小さな箱のチョコレートを二つ選んで買った。

「お姉様、鞄を預かっていただけますか?本当は、ビエント様とデートする予定でしたけど、次にこんなに長期休暇がもらえるかわからないから」
「いいわよ。行っていらっしゃい」
「ありがとうございます」

 リリーは、もう家族に会いたくなった。
 父や母の笑顔を思い浮かべて、いつも一緒にいた兄にも会いたかった。






 アトミスは、新しいワンピースとカーディガンとコートを出してきた。

「これは大人っぽいわ。もちろん、私には着られないから安心してくださいまし」
「お借りします」
「着替えはこちらね。これはピンクのワンピースと水色のワンピースよ」
「まあ、綺麗」

 ピンクのレースが襟から胸を飾ってくれて可愛らしい。水色のワンピースも繊細で豪華だ。冬なので少し寒いと思っていたら、温かそうなカーディガンとコートも出してくれた。

「空を飛ぶなら寒いでしょ?」と言って。

 朝食の時にミニロールを1コもらい。前日の夜に、新しく買った大きな鞄にお土産と着替えをいれておいた中に、パンを入れた。

「お姉様、行ってきます」
「気をつけてね」
「……気をつけます」

 リリーが上空に上がると、手を振り、一気に飛び始めた。
 魔物も森は高めで飛行して、国境を抜けて、遠くに見える王宮を目指して飛んで行く。ストーム全開だ。
 嵐のような風が吹く。吹き抜ける風も手伝って、あっという間に自宅の前に立っていた。

 チャイムを鳴らす。

「どちら様でしょうか?」
「リリーよ」
「リリーお嬢様、お入りください」

 執事が扉を開けると、父も母も兄も走ってくる。
 母が抱きついてきた。

「会いたかったわ」

 母と一緒に父も抱きしめてくる。

「よく無事に帰った」
「心配していたのよ」

「お父様、お母様、ご心配をおかけしました。お兄様、ごめんなさい」

「大きくなったな」
「14歳になりました」

 リリーは胸を張った。

「洋服はどうしたの?」

 見たことのない洋服を見て、母が不思議そうな顔をした。

「アストラべー王国の伯爵令嬢と仲良くなりました。私より年上ですので、お下がりをいただいています」
「まあ、お世話になっているのね?」
「はい」

「さあ、応接室に行こう」

 兄が玄関で話しているリリーの手を引いた。

「ビエント殿下には会えたのか?」
「はい。お目にかかっています。先日は、パーティーでダンスを踊りましたわ」
「それは良かった」

 応接室に入って、モリーがコートを脱がせてくれる。
 応接室の定位置に座る。リリーの席は残されていた。
 メリーが紅茶を淹れている。

「お土産を買ってきたの。お母様、どうぞ」

 チョコレートとクッキーと珍しいお菓子を渡した。

「モリーとメリーにもあるのよ」

 二人は嬉しそうに、リボンで飾られた箱を受け取ってくれた。

「家出の前日、我が儘を言ってごめんなさい」
「そんなこと気にしておりません」
「私も、お嬢様の好きなように指示をなさってくださっていいのです」

 二人はプレゼントを受け取ると、背後に下がった。

「戦士として働いたお金で買いました」
「偉いわ」
「一人前だな」
「僕より収入多そうだな」
「一日金貨一枚もらえますの」
「ぼったくっているんじゃないのか?」

 ハスタが驚いて声をあげた。

「命をかけて毎日魔物と戦っています」

 リリーは胸を張って答えた。毎日の魔物狩りは命がけだ。
 気を抜けば、死に繋がる。

「危険な仕事は辞めて欲しい。ビエント様は許しているのか?」
「いいえ、辞めて欲しいと言われていますが、人員不足で……」
「人員不足で死んでからでは遅い」

 父は心配そうに口にする。

「……はい。ビエント様とよく話し合います」
「何日いられるの?」

 母も心配そうな顔をしている。

「思った以上に早く着けたので、2泊いたしますわ」

「わかったわ。シェフにお願いしてください。リリーの好物をたくさん作ってくれるようにと」
「畏まりました」

 メリーは応接室から出て行った。

「綺麗になったわね。写真を撮りましょう」
「写真屋を呼んでくれ」
「畏まりました」

 モリーが部屋から出て行った。






 リリーは家族に囲まれ、幸せな気持ちになれた。

「荷物を送りたいときは、どうしたらいいのかしら?」
「ビエント様に送っていただければ、確実に届くと思いますけれど、魔物の森の配達は高額なので、寄宿舎に電話をください。私が自分で取りに来ます」
「そういえば、リリー、どうやって戻ってきたの?」

 兄が不思議そうに聞いてきた。

「空を飛んで帰ってきました。家出したときはずいぶん時間がかかりましたが、今は力もついたので、アストラべー王国の王都から30分ほどで帰って来られました」

「頼もしくなったのだな」
「はい」
「ドレスを作ってやりたいが、2泊なら計測はできるだろうか?」
「成長期なので、大きめで作ってください」

 父も母も嬉しそうだ。






 お昼も夕食も美味しい料理をいただいて、デザートにケーキを出してくれた。遅くなったが14歳の誕生会をしてくれた。
 シェフも使用人も従者も嬉しそうで、リリーはもっと早く戻れば良かったと思った。
 お風呂はモリーとメリーに体を流してもらった。

「とても美しくなられました」とモリーは目に涙を浮かべていた。
 
 慣れ親しんだ香油の香りも懐かしく、この家が我が家だったんだと思い出させてくれる。
 久しぶりに眠る自分のベッドは、やはり慣れしたしんだ安心感があり、ぐっすり眠った。
 2日目はドレスのデザイナーがやってきた。

「たくさんはいらないので、いい物を1枚作ってください。持ち出したドレスが、今、ちょうどぴったりなので、大きめで作っていただけると助かります」
「持ち出したドレスは王家からいただいたものだったわね」
「はい、お母様。ビエント様は第一王子なので、貧相な物は着られません。レースをふんだんに使ったお洒落なものが欲しいです」
「色は白がいいのね?」
「はい」

 デザイン画をたくさん見せられて、リリーは母と選んでいく。
 リリーを見ていたデザイナーが、その場でデザインを描いていく。

「これは如何でしょう?」
「お嬢様の雰囲気に合わせて、描いてみましたが……」
「あら、いいわね」

 母がデザイン画を見て微笑んだ。

「襟元にもスカート部分にもレースをふんだんに使います。王家で注文されるような、美しいドレスにいたしましょう」
「お母様、これがいいわ」
「裾は長めにいたしましょう。16歳になっても着られるように」
「ありがとうございます」

 母の手がリリーの手に触れている。

「お母様ありがとうございます。我が儘を言ってごめんなさい」
「もう、これくらいしかできないのね」
「寂しい思いをさせてごめんなさい」
「いいのよ。リリーは自分で婚約者を探してきたのですもの」

 デザイナーが帰っていくと、父と兄が応接室に入ってきた。
 お茶も運ばれてくる。

「ビエント様と、この間、写真を撮ったのです。お写真をもらったら送りますわ」

 家族四人で過ごす時間は、あっという間に過ぎていき、豪華な夕食を食べて、1日は終わっていく。
 翌日、お昼を家族で食べてから帰る準備をした。

「お父様、お母様、お兄様、皆さん、お元気で」

 庭には両親と兄と家に仕える者が集まった。
 庭で頭を下げた後、リリーは空に浮かんでいった。
 父も母も感極まって泣いていた。

「親不孝してごめんなさい」

 今度は一気に上空まで上がって、手を振ってからスピードを上げて飛んで行った。


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