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4 婚約
8 ビエント様とデート
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公園の近くのカフェに誘われた。
荷物はアトミスの家に置きっぱなしだ。
「アトミス嬢の家に世話になっているのか?」
「はい」
「うちに来なさい。迷惑をかけてはいけない」
「よくしていただいているんです」
「第一王子の婚約者だから、気を遣われているのだろう。
「アトミスお姉様と一緒に眠るのも楽しくて」
「アトミス嬢はリリーの妹になる。お姉様とは呼んではいけない。これは王位継承順に関わってくる。気をつけてくれるね」
「……はい」
「リリーの洋服は、そんなにたくさん持ってきたのか?」
「いいえ、アトミスさんにいただいています。幼い頃に着ていた物だからと」
「嫌ではないのか?」
「この国で、私の知り合いは、ビエント様とアトミスさんしかいません。お金も無一文で、シャンプーや石けんも借りていました。アトミスさんがいなければ、山の中でのたれ死んでいたでしょう」
「そうか」
「はい」
「感謝せねばならぬ相手なのだな」
「……私にとってはですね」
リリーは微笑する。
うっかりお姉様と呼んでしまった。
アトミスに注意されていたのに、うっかりしていた。
「休暇はあと3日か?」
「はい。でも最終日は早めに戻り体調を整えます」
お店を出て、公園を歩く。
平和な国だ。犬を連れたご婦人や子供達の声も聞こえる。
魔物の森が同じ国にあるのかと、不思議に思える。
二人は手を繋ぎ、公園を散歩している。花壇に植えられた花が美しい。
「王家のパーティーがあるときは、来てくれるか?」
「事前に教えていただけたら、休暇を取りますわ」
「そうか」
ビエントは嬉しそうに微笑んだ。
「ドレスをプレゼントしよう」
「この間の、ドレスでは気に入っていただけませんでしたか?」
「いや、飾ってやりたいだけだ。この間のドレスはとても似合っていた」
「寄宿舎のクローゼットは狭いので、作っていただいても持ち帰ることはできませんわ」
「では、先に、リリーの部屋を作らねばならないな」
「お部屋ですか?」
「王宮に作る」
「……なんだかドキドキします」
「どんな部屋がいいか好みはあるか?」
「ビエント様の好みのお部屋で構いません。私を想いながら、作ってくださいな」
「なんと愛おしい事を言うのだろう」
今度はリリーが微笑んだ。
……照れくさい。
キャーと悲鳴が上がり、二人は声がした方へ振り向いた。
魔物が公園にいる。
「危ないわ」
「リリーは下がっていなさい」
「いいえ、私は戦士です」
ビエントとリリーは飛行して、そのまま攻撃を始めた。
ビエントが「逃げろ」と叫んでいる間に、リリーは「ティフォーネ、ライトニング・ウインド、ウインドウシュートス」と連続技を繰り出す。
確実にトドメを刺して、地上に降りた。
「リリーさすがだ。慣れているな」
「こんな公園にも魔物が出るのですか?」
「魔物の森から逃げ出した魔物が、時々現れる」
大勢の警官が走ってきて、魔物が倒れているエリアにロープを張って、人々を追い払っている。
一人の警官が目の前で敬礼をした。
「殿下が処理をなさってくださったのですか?」
「今日は私の婚約者が素早く処理をした。怪我人はいないか?」
「おりません」
「それはよかった。処理班を早く呼ぶといい」
「はい!」
警官はビエントとリリーに敬礼をして走って行った。
「やはり巣穴の駆逐を行った方がいいのではありませんか?」
「その話も出ている。だからリリーを騎士団から遠ざけたい」
「私に逃げろと言われるのですか?」
「リリーに魔術を教えたのは、この私だ。その素質を磨いて騎士団に入るとは思わなかったのだ。幼かったが美しい容姿と利発なところが気に入った。今まで胸がときめいたことはなかったが、リリーと出会って、リリーと過ごすうちに連れて帰りたくなった。だから笛を渡した」
「ビエント様」
「危険な場所に帰したくはないのだ」
彼の気持ちもわかるが、誰かがしなければならない。ビエント様はダンジョンと言っていたが、そこには大勢の魔術師が必要だと彼は言っていた。それなのに、逃げ出していいのだろうか?
アトミスには辞めてもいいと言ったが、リリーは逃げるようで嫌だった。守られて遠くで見ているのなら、側で見ていたい。
「ビエント様のお気持ちはわかりました。大切に思われて嬉しく思います」
「それなら辞めてくれるね?」
「今回は戻ります。仲間も待っておりますので……」
「……そうか」
ビエントは残念そうにため息をついた。
「そうだ、ビエント様。どうして私は空を飛べるようになったのでしょう?」
「術者は皆、飛べるはずだ。風を操る風属性の者は、もっと容易く飛べるだろう。だが、皆が飛べるとは思っていないようだ。リリーも最初は飛べなかったはずだ。怪我をたくさんしていたのを覚えている。努力をすれば、火属性も水属性も土属性も光属性も飛べる素質を持っている」
「飛べないと思っているから飛べないのですね」
「そうだ。この国には魔術学校があるが、どの属性でも飛べることは立証されているが、皆が途中で諦めて、魔術の力を先に磨きたがる。実際に必要なのは、魔術の力だからな」
「わかりましたわ。私は魔術の力より先に飛ぶ練習を確かにしました。魔術の練習もしていましたが、比率では飛ぶ練習に力を注いでいましたわ」
目の前では、クレーンを積んだトラックが来て、魔物をクレーンでトラックに乗せている。大きい魔物は重いのだろう。トラックが傾いている。
「トラックが倒れそうですね」
「危なっかしいな」
「手伝ってきてもいいですか?」
リリーは走ってトラックに近づいていった。
荷物はアトミスの家に置きっぱなしだ。
「アトミス嬢の家に世話になっているのか?」
「はい」
「うちに来なさい。迷惑をかけてはいけない」
「よくしていただいているんです」
「第一王子の婚約者だから、気を遣われているのだろう。
「アトミスお姉様と一緒に眠るのも楽しくて」
「アトミス嬢はリリーの妹になる。お姉様とは呼んではいけない。これは王位継承順に関わってくる。気をつけてくれるね」
「……はい」
「リリーの洋服は、そんなにたくさん持ってきたのか?」
「いいえ、アトミスさんにいただいています。幼い頃に着ていた物だからと」
「嫌ではないのか?」
「この国で、私の知り合いは、ビエント様とアトミスさんしかいません。お金も無一文で、シャンプーや石けんも借りていました。アトミスさんがいなければ、山の中でのたれ死んでいたでしょう」
「そうか」
「はい」
「感謝せねばならぬ相手なのだな」
「……私にとってはですね」
リリーは微笑する。
うっかりお姉様と呼んでしまった。
アトミスに注意されていたのに、うっかりしていた。
「休暇はあと3日か?」
「はい。でも最終日は早めに戻り体調を整えます」
お店を出て、公園を歩く。
平和な国だ。犬を連れたご婦人や子供達の声も聞こえる。
魔物の森が同じ国にあるのかと、不思議に思える。
二人は手を繋ぎ、公園を散歩している。花壇に植えられた花が美しい。
「王家のパーティーがあるときは、来てくれるか?」
「事前に教えていただけたら、休暇を取りますわ」
「そうか」
ビエントは嬉しそうに微笑んだ。
「ドレスをプレゼントしよう」
「この間の、ドレスでは気に入っていただけませんでしたか?」
「いや、飾ってやりたいだけだ。この間のドレスはとても似合っていた」
「寄宿舎のクローゼットは狭いので、作っていただいても持ち帰ることはできませんわ」
「では、先に、リリーの部屋を作らねばならないな」
「お部屋ですか?」
「王宮に作る」
「……なんだかドキドキします」
「どんな部屋がいいか好みはあるか?」
「ビエント様の好みのお部屋で構いません。私を想いながら、作ってくださいな」
「なんと愛おしい事を言うのだろう」
今度はリリーが微笑んだ。
……照れくさい。
キャーと悲鳴が上がり、二人は声がした方へ振り向いた。
魔物が公園にいる。
「危ないわ」
「リリーは下がっていなさい」
「いいえ、私は戦士です」
ビエントとリリーは飛行して、そのまま攻撃を始めた。
ビエントが「逃げろ」と叫んでいる間に、リリーは「ティフォーネ、ライトニング・ウインド、ウインドウシュートス」と連続技を繰り出す。
確実にトドメを刺して、地上に降りた。
「リリーさすがだ。慣れているな」
「こんな公園にも魔物が出るのですか?」
「魔物の森から逃げ出した魔物が、時々現れる」
大勢の警官が走ってきて、魔物が倒れているエリアにロープを張って、人々を追い払っている。
一人の警官が目の前で敬礼をした。
「殿下が処理をなさってくださったのですか?」
「今日は私の婚約者が素早く処理をした。怪我人はいないか?」
「おりません」
「それはよかった。処理班を早く呼ぶといい」
「はい!」
警官はビエントとリリーに敬礼をして走って行った。
「やはり巣穴の駆逐を行った方がいいのではありませんか?」
「その話も出ている。だからリリーを騎士団から遠ざけたい」
「私に逃げろと言われるのですか?」
「リリーに魔術を教えたのは、この私だ。その素質を磨いて騎士団に入るとは思わなかったのだ。幼かったが美しい容姿と利発なところが気に入った。今まで胸がときめいたことはなかったが、リリーと出会って、リリーと過ごすうちに連れて帰りたくなった。だから笛を渡した」
「ビエント様」
「危険な場所に帰したくはないのだ」
彼の気持ちもわかるが、誰かがしなければならない。ビエント様はダンジョンと言っていたが、そこには大勢の魔術師が必要だと彼は言っていた。それなのに、逃げ出していいのだろうか?
アトミスには辞めてもいいと言ったが、リリーは逃げるようで嫌だった。守られて遠くで見ているのなら、側で見ていたい。
「ビエント様のお気持ちはわかりました。大切に思われて嬉しく思います」
「それなら辞めてくれるね?」
「今回は戻ります。仲間も待っておりますので……」
「……そうか」
ビエントは残念そうにため息をついた。
「そうだ、ビエント様。どうして私は空を飛べるようになったのでしょう?」
「術者は皆、飛べるはずだ。風を操る風属性の者は、もっと容易く飛べるだろう。だが、皆が飛べるとは思っていないようだ。リリーも最初は飛べなかったはずだ。怪我をたくさんしていたのを覚えている。努力をすれば、火属性も水属性も土属性も光属性も飛べる素質を持っている」
「飛べないと思っているから飛べないのですね」
「そうだ。この国には魔術学校があるが、どの属性でも飛べることは立証されているが、皆が途中で諦めて、魔術の力を先に磨きたがる。実際に必要なのは、魔術の力だからな」
「わかりましたわ。私は魔術の力より先に飛ぶ練習を確かにしました。魔術の練習もしていましたが、比率では飛ぶ練習に力を注いでいましたわ」
目の前では、クレーンを積んだトラックが来て、魔物をクレーンでトラックに乗せている。大きい魔物は重いのだろう。トラックが傾いている。
「トラックが倒れそうですね」
「危なっかしいな」
「手伝ってきてもいいですか?」
リリーは走ってトラックに近づいていった。
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