惡魔の序章

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とりひき

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 ゆきは使用人のひるこを下がらせた。部屋は、意識のないかすかと、私とゆきだけとなる。必然的に私はゆきと対峙した。私はどうにかして、ゆきに「ーー家に帰らせてくれ」と懇願した。

「んー……? そっかあ。そうだなあ……。じゃあ、こうしよう。ーー君が僕のお願いを素直に聞いてくれたら、かすかと君を、家に帰してあげる」

 ゆきからあっさりと了承を得られた事に、私は内心、拍子抜けをする。だけど、この時の私は考えが甘かった事に気付けなかった。

 そうして、ゆきはにっこりと微笑んで、私にあっけらかんとこう言ったのだ。

「ーーじゃあ、今着ている服、全部脱いで? 今、此処で」

「ーーッッッ!?」

 私は耳を疑った。未成年に対して、成人男性が何を言っているのだろうかと思う。自分の発言を省みて欲しいと思った。切実に。

「まず、僕の前で、全部脱いでくれたら、かすかの無事は約束するよ。……ね? ほら。ーーだから、頑張って?」

 私は体が震えた。足元ががくがくする。この男の真意が今の私には、はかれなかった。私が全て脱いで、全裸になった所で、何が楽しいだろうかと思う。だが、ゆきは椅子に腰掛けて足を組むと、凍り付く私に向かって笑顔で追撃をする。

「んー……駄目? 結構、僕の中での提案では、ソフトな方なんだけどなあ」

 首を傾げて困ったように微笑むゆき。内心、全然困ってなさそうだ。寧ろ、至極楽しそうで絶句する私の反応を観察しているようにも見受けられた。

「ーーどうぞ」

 タイミング良く扉のノック音がして、ゆきが応答する。扉が開かれて部屋に入って来たのは使用人のひるこだった。ひるこは、音もなくゆきの側に近付くと、ゆきに何かを手渡した。そうして、部屋から退室するひるこに向かって、ゆきは「ーーありがとう」とお礼を言う。

 ゆきの手元を見ると、金属製で出来た長い棒だった。此処からの距離だと、その棒が何だか分からない私。私が不思議そうにしていると、ゆきは私の考えを読むように言葉を続けた。

「ーーあ、これ? 文鎮だよ」

「……?」

 何故、この場で使用人に文鎮を持って来させるのかが、ゆきの意図が読めない私は目を白黒とさせる。文鎮など、この部屋に必要な筈がない。

「……で、脱ぐの? 脱がないの?」

「……っ」

「あ、別に強制じゃあないから。あくまで僕の提案だから。選ぶのは君の自由だよ?」

「…………」

 ーーいや、どう考えても強制だろう。私は率直にそう思った。私が脱がない限り、かすかの無事は約束されないのだから。

 私はワンピースのボタンを一個ずつ、震える手で外した。そんな私をゆきは微笑みながら、手の中で文鎮を遊ばせていて、ただ、ただ、眺めている。

 脱いだワンピースとソックスを床に落として、私は下着姿になった。高校生にもなれば、下着姿を異性に見られるだけで恥ずかしいだろう。私の顔は恥辱で真っ赤になった。ゆきは私を見て、「ーー初々しい反応だねえ」と呑気に感想を言いながら、楽しんでいる。

 私は、ブラジャーのフォックを外した。呼吸は不規則となり、心臓はばくばくと早鐘を打っている。脱いだブラジャーを床に落としながら、直ぐ私は両手で露出した胸を隠した。だけど、ゆきは冷酷に「ーーあ、手は下ろして? 隠さないで」と言う。胸から手を外し、だらんと手を下ろすとゆきは私の上半身をしげしげと眺めた。舐められるような視線を感じる中、羞恥で視界が涙で滲む。

 だけど、まだ終わってない。まだ一枚が残っている。最後の一枚が。私がまごついていると、ゆきは退屈そうに、私の脱衣を促した。

「……まだ? もう少しで最後の一枚だよ」

 私は、全身を震わせながら、ショーツに手を掛けて、もたつきながらショーツを下ろした。部屋の外気に体が触れる中、私はゆきの前で直立不動になって、俯いた。歯を食いしばって。

 ゆきは私に近付くと、私の前でしゃがむ。ひたすらに感じるねっとりとした視線。私は未知の羞恥に襲われて、思考は真っ白になっていた。ゆきの歌うような発言に、はっと現実に引き戻される。

「ありがとう。ーーじゃあ、約束通り、かすかの無事は約束するよ」

 私はほっと安堵し、その場にへたりこんだ。だけど、ゆきは非情に私に追撃を掛ける。そう。ーーこれだけでは終わりではなかったのだ。

「ーーじゃあ、次ね。そのまま、そこのチェストに両手をついて。僕に背中を向ける形で」

「ーーッッッ!!?」

「あ、これをクリアしてくれたら、君とかすかを家に帰してあげるよ」

「……っ」

「いいかい? 何があっても、チェストから手を離してはいけないよ。手を離したら、君の負けだからね。ーー分かった?」

「は、はい……」

 全裸の私は、大人しくチェストに両手をついた。背後には上機嫌なゆきが立っている。ーーこれから何が始まるのだろう? と私は言いしれない不安感に襲われていた。

 そうして、ゆきは私の脚を大きく開かせた。私は、驚愕して短い悲鳴を上げると、ゆきに「ーーあ、ほら。脚は閉じないで?」と優しく窘められる。

「あの……っ」

「ん?」

「何をっ……。何をするんですかっ……!?」

「え? ーーこれを中に入れるだけだよ」

 ゆきはきょとんして、文鎮を私に見せて来た。私は目を見開く。文鎮の用途が分かった私は息を呑んだ。そして、全身の震えが止まらなくなる。だけど、ゆきは朝の挨拶を言うように淡々と私に告げた。

「ちょっとだけ痛いと思うけど。まあ、我慢して? 家に帰りたいんでしょう?」

「ま、待って……っ!」

「あ、片手でも離したら、そこでアウトね」

「……ぅぐっ!?」

 ゆきの一言によって、無情にも私の体内に入れられる文鎮ソレに、私は未知の激痛に苦悶の声を上げたが、ゆきは「ーーあー……。力むともっと痛いから、力抜いてね。ゆっくり息、吐いて?」と優しく語り掛けて来る。足はがくがくと笑っていて、私は言われるがままに息をゆっくり吐くと、ずぶずぶと冷たい無機質な物が膣を分け入るように入って来るのが分かった。未知の恐怖と激痛に、涙が零れる。ずっと我慢していたけど、もう耐え切れなかった。

「ぃ……痛いッ! もうっ抜いてッ! 抜いて下さいッ!!」

「……まだ、ちょっとしか入ってないよ?」

「いやっ……やだッ! ……やめてっ……もうやめて下さい……ッ!!」

 恐怖でガチガチと歯が鳴った。ゆきは制止の言葉を言い募る私を無視して、体内にある文鎮をぐるりと回した。ぐりぐりと内部を突かれて、私は激痛で悲鳴を上げる。

 もう羞恥と激痛に限界地点を突破して、私は、ゆきに「ーー抜いて下さいッ!」と泣きながら訴えた。咄嗟に片手をチェストから離してしまった私は、はっとする。

「あーあ……。手、離しちゃったね。アウトだよ。折角、頑張ったのにね?」

「……っ」

 残念そうに私の体内から文鎮をゆっくりと引き抜くゆき。引き抜かれる時の痛みで顔を顰めた私は、ゆきの方へと振り返る。ゆきの手の中にある文鎮には、鮮血がこびり付いていた。自分の血だと認識をすると、それを再認識した事で、そのショックから大粒の涙がボロボロと零れる。

「ぅっ……うっ……うぅぅぅうぅっ!」

「綺麗に破瓜したね。ーー処女喪失、おめでとう」

 私は、床に蹲って泣き崩れた。目の前に立って私を見下ろす悪魔は、静かに微笑んでいる。こうして、私はチェストから手を離した事により、家への帰還の道は無情にも無くなったのだ。ーーだけど、こんな恥辱は、後々、本当に手始めに過ぎないのだという事を思い知らされる事になる。
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