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第20章 僕のこの恋は夏生色

No,279 僕を抱きしめてくれた

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【これは2021年のお話】

 夏生は、実はずっと僕の様子の変化に気付いてくれていて、ずっと僕の心に寄り添ってくれていたのだ。
 それが明らかになり、夏生の気持ちの全てが分かったのが
2021年2月のことだ。

 それは、あるテレビ雑誌の主催するドラマ賞の発表の時だった。
──例のドラマは2020年の12月で終了していたけれど、その後も僕のいたドラマ感想欄は活発に動き続けていた。
 そしてこのドラマ賞に向けて、僕らメンバーは懸命に票集めに燃えていたのだ。

 ところがその結果発表が散々だった。僕はこの賞の審査員たちのあまりな酷評や、実際の受賞結果に激しい衝撃を受けた。
──でもここはその酷い話をする場ではない。

 あの時、僕は年甲斐もなく泣いてしまった。しかも号泣だ。
 完全に精神不安定な状態だったし、その混乱した感情には主人公を演じた俳優に対する擬似恋愛も混ぜこぜになっていた。

 ドラマのキャラクターが好きなのか?!
 それとも演じた俳優が好きなのか?!
 とにかく心がごちゃごちゃだった。

──僕は、そんな混乱した思いと悲しい気持ちを感想欄に投稿した。しかも号泣していると書き添
えてしまった。

(いい歳をして芸能人に入れ揚げるなんてバカな事を!)
 と、今なら思う。が、あの時は本当に頭がおかしくなっていた。
 僕はひとりで勝手に傷付いて、為す術も無くただ泣いていた。

 そんな時、夏生が部屋にやって来た。

──えっ?こんな夜中に、なんてタイミング?
 こんな泣き顔、見られたくない……。

 夏生が黙って僕を抱きしめた。

(え、なに?どう言うこと?)

「理久……今の投稿見たよ。今度ばかりはマジ辛いだろな」

「え?今の投稿?」

──僕の顔は泣き腫らしていて、とても状況はごまかせない。

「今の投稿って……えっ?ドラマ感想欄のこと、知っていたの?」

「理久がこのドラマに夢中で……何やらいつもスマホをいじっているのは気付いていた。
いくつか感想サイトを見て回ったら直ぐに見付けた」

 夏生は目の前でスマホを操作した。

「……ほら、この感想サイトの、このアカウントって、理久のことだろう?」

「あ……やっぱ分かった?」

「そりゃー分かるよ。理久の文章には特徴があるし、書かれているエピソードにも覚えがある」

「なんだ、やっぱ夏生には隠し事なんて出来ないんだな。俺、恥ずかしいよ……」

「ごめん、理久の投稿文を見ていたなんて、本当は今さら言うのも気が引けたんだ。
まるで、物陰から理久の話を盗み聞きしていたみたいで……」

「そんな事ないよ。元々オープンなサイトなんだし、あの感想欄には誰に見られても恥ずかしくない本音を書いてた。
夏生に見られてまずい事なんて、ひとつも無いよ?」

「理久にとってあのドラマがどんなに特別なものだったのか、一連の投稿を見て分かったよ。
広橋君の事も書いてただろ?主人公とかぶるって……」

「え?そんな前から見てたの?」

「このアカウントが理久だ、って気付いてからは過去の投稿も掘り返して全部読んだし、実は今では、この感想欄をリアルタイムで観覧してる」

「なんか恥ずかしいよ……てか、ずるいぞ夏生!」

「今さっきの投稿に、号泣してるって書いただろ?
だから慌てて駆け付けたんだ。
今頃わんわん泣いている最中なんだろうなって」

「!」
──ええっ?!
 これはかなり恥ずかしい!!

「理久がそんなに泣いているのは、好きなドラマが正当に評価されなかったから?
それとも受賞出来なかった俳優君のため?」

「それが良く分からないんだ。
キャラクターを好きなのか、
俳優君を好きなのか……」

「理久、恋をしたんだね」

「怒ってる?」

「怒ってはいないけど、ちょっと焦ってる。
だって久し振りで忘れていたけど、恋をしている時の理久が一番魅力的だもん」



(あ、胸がキュン死!!)



「そんなキザな物言い……どこでおぼえた?」

「あのドラマで教わった」

「ええ~っ、本当に~♡」


 その夜はエッチな事にはならな
かった。
 夏生はただ、僕を抱きしめてく
れただけ……。

 僕は夏生の胸で泣き止むと同時に、傷心は少しずつ癒された。


(そうだ、俺には夏生がいた)


──そのままベッドへ横たわり、夏生に優しく添い寝をされて──泣き疲れていた僕は、いつかそのまま眠ってしまっていたのだと思う──。


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