12 / 38
第一章
(12)
しおりを挟む
しかし僕が洗った食器を彼女に渡すと、彼女は食器の大きさや種類など関係なしに置くものだからすぐに水切りかごが溢れかえり、挙句の果てにはせっかく洗った茶碗を落としてまた洗わなければならなくなる始末だった。
ほとんど僕一人で食器洗いを終え、水切りかごの食器類を綺麗に並べなおして居間に戻ると、おばあちゃんがねぎらいの言葉を掛けてくれた。
「伊織ちゃん、生ごみにシューはした?」
「忘れてた、すぐするね!」
伊織は再び台所に戻り、三角コーナーに霧吹きのようなもので数回スプレーをして戻ってきた。彼女の説明によると、そのシューなるものはおばあちゃんが酢と水で作った、生ごみ消臭剤なのだそうだ。
そのスプレーは生ごみが放つ強烈な悪臭を軽減してくれるそうで、夏場のこの時期には特に重宝しているらしい。おばあちゃんは生活の知恵が豊富で、他にもいろいろなものを手作りしているそうだ。
僕が感心した反応を見せると、伊織は次に古い木製の棚の上から謎の小瓶を取り出した。それもおばあちゃんが作ったもので、中身は虫よけスプレーだった。
「ヨモギの葉を焼酎に漬け込んで三週間位待つとできるのよ。小さいスプレーに入れて持ち歩いてもいいし、網戸に吹きかけると虫が寄りつかなくなるの。それは伊織ちゃんが採ってきたヨモギで作ったんだよ」
伊織は五月になると決まって近所の河原や、お寺のそばの茂みにヨモギを摘みに行って、おばあちゃんに毎年この虫よけスプレーを作ってもらうそうだ。もっとも伊織はいらない雑草まで摘んでくるそうで、大量に採取してきた草の中から、おばあちゃんがヨモギを選別しているらしい。
「昔は私も伊織ちゃんを連れてヨモギを取りに行っていたんだけど、最近はどうも体の調子が悪くてね。また一緒に行きたいんだけどねぇ」
「体調が良くなったら、今度は三人で行こうよ。ね、歩」
僕が頷くと、おばあちゃんはゆったりとした口調でそうだねぇと言って、目じりを下げた。
それからおばあちゃんは、伊織の成長の記録を見ようと、押し入れの中から二冊のアルバムを引っ張り出した。ページを捲るたびに伊織は恥ずかしそうに写真を隠していたが、その度におばあちゃんがそれを払いのけ、写真の一枚一枚を説明してくれた。
中には若かりし頃のおばあちゃんや真央さんが一緒に写っているものもあり、二人に挟まれながらカメラに向かってあどけなく笑う伊織はとても幸せそうだった。
アルバムを見ていて、気になることが二つあった。
一つは、どの写真にも彼女の両親が写っていないことだ。どれも小学生のころからの写真で、彼女の幼年期の写真は一つもない。
二つ目は、アルバムの表紙である。ハードカバーに薄いクリアフィルムが巻きつけてある表紙の右下には、それぞれ②、③とマジックで書かれていた。ということは、どこかに①のアルバムがあり、そこに彼女の赤ん坊のころの写真などがあるのかもしれない。
気にはなったものの、聞くことはできなかった。おばあちゃんも伊織も楽しそうだったので、僕の余計な一言で水を差すということは避けたかった。
夕方雅田家を出る時、おばあちゃんは新茶の葉を持たせてくれた。近所の寺の住職からの頂き物だそうで、ビニール袋に一年分くらいの茶葉が詰め込まれていた。
おばあちゃんは玄関まで見送りに来てくれて、何度も伊織のことをよろしくと言って優しく目を細めていた。僕は玄関の前で伊織とおばあちゃんに一礼して帰宅した。
ほとんど僕一人で食器洗いを終え、水切りかごの食器類を綺麗に並べなおして居間に戻ると、おばあちゃんがねぎらいの言葉を掛けてくれた。
「伊織ちゃん、生ごみにシューはした?」
「忘れてた、すぐするね!」
伊織は再び台所に戻り、三角コーナーに霧吹きのようなもので数回スプレーをして戻ってきた。彼女の説明によると、そのシューなるものはおばあちゃんが酢と水で作った、生ごみ消臭剤なのだそうだ。
そのスプレーは生ごみが放つ強烈な悪臭を軽減してくれるそうで、夏場のこの時期には特に重宝しているらしい。おばあちゃんは生活の知恵が豊富で、他にもいろいろなものを手作りしているそうだ。
僕が感心した反応を見せると、伊織は次に古い木製の棚の上から謎の小瓶を取り出した。それもおばあちゃんが作ったもので、中身は虫よけスプレーだった。
「ヨモギの葉を焼酎に漬け込んで三週間位待つとできるのよ。小さいスプレーに入れて持ち歩いてもいいし、網戸に吹きかけると虫が寄りつかなくなるの。それは伊織ちゃんが採ってきたヨモギで作ったんだよ」
伊織は五月になると決まって近所の河原や、お寺のそばの茂みにヨモギを摘みに行って、おばあちゃんに毎年この虫よけスプレーを作ってもらうそうだ。もっとも伊織はいらない雑草まで摘んでくるそうで、大量に採取してきた草の中から、おばあちゃんがヨモギを選別しているらしい。
「昔は私も伊織ちゃんを連れてヨモギを取りに行っていたんだけど、最近はどうも体の調子が悪くてね。また一緒に行きたいんだけどねぇ」
「体調が良くなったら、今度は三人で行こうよ。ね、歩」
僕が頷くと、おばあちゃんはゆったりとした口調でそうだねぇと言って、目じりを下げた。
それからおばあちゃんは、伊織の成長の記録を見ようと、押し入れの中から二冊のアルバムを引っ張り出した。ページを捲るたびに伊織は恥ずかしそうに写真を隠していたが、その度におばあちゃんがそれを払いのけ、写真の一枚一枚を説明してくれた。
中には若かりし頃のおばあちゃんや真央さんが一緒に写っているものもあり、二人に挟まれながらカメラに向かってあどけなく笑う伊織はとても幸せそうだった。
アルバムを見ていて、気になることが二つあった。
一つは、どの写真にも彼女の両親が写っていないことだ。どれも小学生のころからの写真で、彼女の幼年期の写真は一つもない。
二つ目は、アルバムの表紙である。ハードカバーに薄いクリアフィルムが巻きつけてある表紙の右下には、それぞれ②、③とマジックで書かれていた。ということは、どこかに①のアルバムがあり、そこに彼女の赤ん坊のころの写真などがあるのかもしれない。
気にはなったものの、聞くことはできなかった。おばあちゃんも伊織も楽しそうだったので、僕の余計な一言で水を差すということは避けたかった。
夕方雅田家を出る時、おばあちゃんは新茶の葉を持たせてくれた。近所の寺の住職からの頂き物だそうで、ビニール袋に一年分くらいの茶葉が詰め込まれていた。
おばあちゃんは玄関まで見送りに来てくれて、何度も伊織のことをよろしくと言って優しく目を細めていた。僕は玄関の前で伊織とおばあちゃんに一礼して帰宅した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる